第12回 勉強好きで思考力のある子を作る「家庭学習ノート」:エデュママブック

エデュママブック
2015年10月9日

第12回 勉強好きで思考力のある子を作る「家庭学習ノート」

inter-edu’s eye
秋田の小中学校に定着している「家庭学習ノート」は、秋田県の学力日本一を支えるだけでなく、2020年の大学入試改革が目指す「アクティブ・ラーニング」を先取りした学習法です。「家庭学習ノート」を家庭で生かす方法について解説した新刊の著者を取材しました。

「家庭学習ノート」の運用が、学力日本一の土台に

「勉強好き!」になる秋田県式「家庭学習ノート」,矢ノ浦勝之,受験,教育書

全国学力テスト(調査)で毎年トップの秋田県の小・中校生。その学力を支えている「家庭学習ノート」を紹介しながら、この学び方を一般家庭で応用する方法を解説する本が発売されました。オールカラーの『「勉強好き!」になる秋田県式「家庭学習ノート」』です。

毎年小6と中3を対象に実施される全国学力テストについては、大学進学率に反映していないなど、さまざまな批判がありますが、それでも秋田県が学力日本一を続けているのにはわけがあるはず。秋田県と他県の違いを知りたいと考えて本書を読んでみたのですが、なるほど納得! 「家庭学習ノート」はもちろん、秋田県が長年小・中学校で行ってきた学びの方法は、なんと、大学入試改革など今行われようとしている教育改革の方向性を先取りしたものでした

そのポイントのひとつは、本のタイトルにもある「勉強好き」、つまり学習意欲を育むこと。そしてもうひとつは高い思考力を育てることです。これはまさに、教育改革で叫ばれている「アクティブ・ラーニング」が目指すところそのもの!

大学入試改革をはじめとした教育改革の背景には、日本の子どもが他国に比べて“学習意欲が乏しい”という問題意識があります。そしてその原因が、長年知識を大量に覚えることに終始してきた教育の実態にあると認識されています。したがって改革の目標は、学習意欲の向上と高い思考力の育成。つまり2020年からの新しい大学入試も、学習意欲と思考力のある生徒を合格させようという方向で行われることになります。

子どもを「勉強好き」にするほめ言葉がいっぱい

著者の教育ジャーナリスト、矢ノ浦勝之さんにお話を伺いました。まず第一に強調されたことは、子どもに「家庭学習ノート」なるものを与えればいいというわけではない、ということです。

子どもたちが『家庭学習ノート』で自ら学び、その内容を先生や保護者が見て評価してあげる=コメントを書いてあげる、そのつながりがいちばん大事なところなのです。第一、家庭学習ノートと呼ばれる特別なノートがあるわけではありません。どの学校も、ふつうのマス目のノートを使っています。

細かな運用方法は学校によって違っていたりもしますが、共通しているのは、“子どもが毎日自分自身で勉強する内容を決めて、それを『家庭学習ノート』で取り組む”ということです。そして先生は、毎日、ひとりひとりのノートを見て、その日のうちにマルや花マルをつけたり、コメントを書いたりして返します保護者も、特に学習の定着期である低学年では、よくコメントを書いて、子どものやる気を引き出しています。そんな学習方法全体が、家庭学習ノートなのです。」(矢ノ浦さん)

「家庭学習ノート」による学習は、宿題とは別物。宿題は、先生から言われてする勉強ですが、「家庭学習ノート」は、子どもが自分で何を勉強するかを決めて勉強するノートなのです。今日学校で間違えたことをやり直そうという子もいれば、興味を持ったことを調べる子もいます。毎日自分で課題を決めてそれをやることで、思考力、判断力、表現力が育まれていきます。しかもやった翌日には先生がそれを見てコメントを書いてくれることで、やる気も生まれてきます。

子どもを勉強好きにするには、子どもが自ら進んでやったことを認めることから始める必要があります。本書では、各学年の『家庭学習ノート』の実例を多数紹介しているので、子どもたちがどんな勉強をしているのか、そしてそれを先生や保護者の方がどのように評価しているかを見ていただきたいと思います。子どもの学習を評価するほめ言葉もたくさん紹介しています。子どもを勉強好きにする、とっておきの言葉ですよ。」(矢ノ浦さん)

家庭でやる気と高い思考力を育てよう

矢ノ浦さんによると、秋田県の小・中学校の授業も、「家庭学習ノート」と同様、子どものやる気や考える力を育てる「アクティブ・ラーニング」のスタイルになっているそうです。

「秋田は不登校や学級崩壊や、いじめも少なく、授業中の子どもたちは、本当にのびのびと楽しんで勉強しています。授業の特徴をひとつ紹介すると、間違えを大事にした授業ということです。間違えも安心して発表できる学級づくりがされており、どんな考え方も発表できます。そのため、授業中に参加できずに黙り込んでいる子がほとんどいません。そして、子どもたちも、間違った意見に対してただ『間違っている』と否定したりしません。どこに間違いの原因があったのか、そこを、どう修正したら正しい答えになっていくのかをクラス全体で話し合って、考えていくのです

こうした学び合いを通して、間違っていた子は自分の考えを修正できますし、わかっていた子も、多様な思考方法にふれながら高い思考力を育んでいきます。『家庭学習ノート』もそうですが、生徒同士、先生と生徒、親子間のコミュニケーションが学力を高めるベースになっています。『アクティブ・ラーニング』の要素のひとつは、こうした学習のプロセスを大事にした学び合いです。

 ちなみに、アメリカのある心理学者の研究には、『結果だけをほめられた子は、望む結果が得られないかもしれないと考えた時には挑戦をやめ、過程をほめられた子どもはどんな状況でも挑戦し続けられる』というものがあります。秋田県では、授業だけでなく、『家庭学習ノート』でも、間違いを自分で修正していくことを大事にしています。これこそが、勉強が好きになると同時に、高い思考力を育む秘訣です。」

勉強好きにすることも考える力をつけることも、教育熱心な親なら誰もが願ってやまないこと。そのヒントが、秋田県の「家庭学習ノート」や授業スタイルにあるというわけです。矢ノ浦さんが、本書の執筆した理由もここにあったと言います。

社会が急激に変化している21世紀、知識の詰め込みに終始した正答主義は通用しません。これからを生きる子どもたちは、今ある知識をただ覚えたり、言われた事をやったりするだけではいけません。自ら課題を見つけてチャレンジしていくやる気と思考力が必要です。教育改革を担当する文部科学省の官僚や教育の専門家は、このことを充分理解した上で改革を進めていますが、彼らだけではダメで、全国の先生と保護者もしっかり理解するべき時期に来ています。『アクティブ・ラーニング』という言葉だけが一人歩きして、形だけの実態のないものになることがいちばんの問題です。

とはいっても、長年続いた詰め込み教育で育った親御さん世代には、どうすればいいのか、わかりにくいということもあるでしょう。そんなとき、この本で紹介している、やる気を育み、思考力を育てる秋田県の学びのスタイルが参考になるのではないかと思います。」(矢ノ浦さん)

中学受験でも、難関校ほど知識の量ではなく思考力を問う問題が増えています。受験テクニックに偏った勉強方法では、新しい大学入試には対応できなくなりそうです。この本を参考にして、お子さまへの学習サポートを充実させ、より高い目標にチャレンジしてみてはいかがですか?

矢ノ浦勝之,「勉強好き!」になる秋田県式「家庭学習ノート」

「勉強好き!」になる秋田県式「家庭学習ノート」
矢ノ浦勝之著、小学館刊、1200円+税
副題「学力日本一の秋田県の先生からの保護者のみなさんにアドバイス」とあるように、毎年実施されている「全国学力・学習状況調査」で毎年際だって優秀な結果を残し続けている秋田県の取り組みの中でも一際目を引く「家庭学習ノート」を、保護者が家庭学習に活用する方法を紹介。「家庭学習ノート」は市販のノート1~2Pを使い、子ども自身が既習単元に基づいてつくった問題を解き、その過程を含め、保護者、教師が毎日見るというもの。この「家庭学習ノート」に教師や保護者がどのように対応していくかが、子どもの学力向上の鍵だ。さらに秋田県が平成19年度に策定した「学びの十か条」についても解説。この「十か条」についても秋田県の教師や保護者に取材して、保護者のどのような対応が「子どもの学力向上」への道を開くかを具体的にまとめている。…購入はこちらから

矢ノ浦勝之,エデュママブック

著者の矢ノ浦勝之(やのうら かつゆき)さん
教育ジャーナリスト。山口県生まれ。東京学芸大学卒。小学校(全科)、中学校・高等学校(国語)教員免許を持つ。月刊誌「相互言う教育技術」(小学館刊)などで全国の小・中学校700校を取材した実績を持ち、教育現場から国の教育政策全般まで、教育のあらゆる「今」に精通している。

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