試験当日の「リラックスして」はNG!? 緊張を味方に! 第16回
inter-edu’s eye
「教育最前線に行ってみた!」では、普段何気なく目にするけれど、なかなか行くことができない教育現場へ、皆さまの代わりに行って取材をしてまいります。第16回では、受験生から一流アスリートまでメンタルトレーニングを行う株式会社リコレクトの取締役、後藤史さんにお話をうかがってきました。
緊張は良いこと?悪いこと?
お子さまと一緒にできるトレーニングとは?
エデュ:メンタルトレーニングを始めたきっかけを教えてください。
後藤さん:代表の森川が海外でのサッカー選手としての経験の中で、「練習で努力をどれだけ積み重ねても本番でいつも力が発揮できなかった」ことがメンタル面に関係していると感じ、心理学を学びました。そして、本番で力を発揮するためのメンタルトレーニング方法を考えたのがきっかけです。
エデュ:「メンタルが強い」というと「何が起きても冷静でいられるようにする」というイメージがありますが…。
後藤さん:確かに「不動心」というイメージがあるかもしれませんが、緊張や不安などの感情は、できごとに対し自然に出てくるものなので、実はいくら訓練しても、動じないようにするのは難しいことです。それはプロアスリートでも同じです。
おそらく多くのお母さまは、晴れの舞台や勝負の場で緊張したわが子を見て「緊張したときはリラックスしなさい」など声かけをしていると思いますが、実はこれがNGなんです。
エデュ:え!そうなんですか?
後藤さん:緊張しているときに親御さんから「リラックスして」と言われると、「緊張することは良くないこと」と刷り込まれてしまい、あることが起きます。
エデュ:それは何でしょうか?
後藤さん:「過緊張状態」です。車の運転をする方ならピンとくると思いますが、アクセル(緊張状態)とブレーキ(リラックスしなくちゃいけないと思う気持ち)を同時に踏んでいる状態です。
こうなってしまうとストレス状態になってしまい、何をやったか覚えていなかったり、いつものパフォーマンスを出せなくなってしまいます。
ではどうやってトレーニングすればいいのかというと、「緊張したけどできた!」という経験が重要になってきます。
エデュ:具体的にどういったトレーニングをするのでしょうか?
後藤さん:これは「緊張してもできた!」を体感するためのトレーニングの一つなのですが、まずお子さまに1人きりで個室に入ってもらいます。
そこで2分間くらいのスピーチを考えます。そのあと個室から出て、お客さん(トレーナーとお母さんなど)の前で椅子の上に立って発表します。ルールは「笑ったらもう一度やり直し」これは、笑うことで緊張を無意識的にごまかしてしまうことを防ぐためです。
緊張状態を保ったまま、スピーチできたという体験を積み重ねることで緊張状態の中で行動を起こせるようになります。
エデュ:緊張を押さえこむのではなく、緊張を保った状態で、何ができるのを考え実践することで、本番に強くなるというですね。
「感情」の気づきが本番に強くなる近道!?
紙とペンだけで始められるトレーニングとは?
エデュ:子どもが、どのくらい緊張しているのか、不安なのかといった気持ちに気づくこと自体、なかなか難しい気もしますが…
後藤さん:今は情報量が多く、自分の感情より「周りがこう言っているからこうあるべきだ」とか、知らず知らずのうちに感情に蓋をしてしまうことがあります。
感情は、心理学でいう「無意識」から生まれるもので、「無意識」には、以前失敗して嫌な思いをしたことなど、意識化にはもうない過去の記憶が蓄積されています。
そこから生まれる感情は、何かしらの「サイン」なので、そこに目をむけることはとても大切なんです。
エデュ:どうしたら、感情に目をむけることができるようになるのでしょうか?
後藤さん: プラスとマイナスを表す言葉を3分間でできるだけ書いてもらうことをやってもらっています。例えばプラスなら「楽しい」、「嬉しい」。マイナスなら「悲しい」「つらい」などです。
(※この後、私たちも後藤さんの前でやってみましたが、多くは書けませんでした…)
後藤さん:大人でもプラス・マイナスの言葉はなかなか出てきませんよね。なので、まずは自分の感情に気づく習慣をつけることから始めます。そして「メンタルノート」というものを使って、今ある感情を言葉に当てはめ、その感情の状態で何ができたのかを記していきます。
エデュ:これから受験シーズンとなりますが、今からでも親子でできるトレーニングはありますか?
後藤さん:お子さまが、受験で緊張していると感じたら、「緊張してる?緊張するよね」と緊張する自分を認めてあげるような声がけをしてあげてください。その上で「緊張したときってどうなる?」と緊張したときの準備をすることが大切です。
例えば、緊張した時に焦って問題を読み間違えたという経験があれば、「緊張したら、ゆっくり問題を読むことを意識しよう」と対策を考えます。
模試など、本番の前には緊張の練習ができると良いと思います。緊張の中で、自分は何ができて何ができなかったのかをお子様と確認してください。プレッシャーのかかる本番までに「緊張してもできる」という小さな成功体験を積み重ねることで、本番で本来の力を発揮できるようになります。
※プリントアウトして使える「メンタルノート」と「記入の実例」をご用意しました! ぜひダウンロードして、お子さまと実践してみてください。
■メンタルノート [PDF]
■メンタルノートの記入実例 [PDF]
自分でハードル上げていませんか? OKラインという考え方
真面目ママほど要注意
エデュ:エデュの掲示板を見ていると、多くのお母さまは他の人と自分を比較して、劣等感を持っているように感じます。
後藤さん:情報化社会ですので、他の人がどうだという情報を持つのは悪いことではありません。ただ、「私もこうありたい!」という目標にするのではなく、他の人と同じように「こうあるべき」と、自分の「OKライン」を上げてしまっていることが問題です。
エデュ:OKラインとは何でしょうか?
後藤さん:OKラインとは、「これができれば、自分自身にOKをあげられる」という基準となるラインのことです。
OKラインが高すぎると、自分に対していつも「ダメだ…」「自分をもっと変えなきゃ…」という気持ちが沸いてきます。この気持ちのことを「自己否定感」といい、「自己否定感」があると本来できるはずのことができなくなってしまいます。
そこで自分自身が知らない間に作ってしまっているOKラインに気づき、緊張している自分のできることにOKラインを設定します。その結果、ストレスやプレッシャーの中でも「自己肯定感」を持つことができます。
エデュ:なるほど、このOKラインが今のお母さまは高くなっているのですね。
後藤さん:そうですね。高いOKラインをもったお母さまは、子どもに対しても同じようなことを求めてしまうので、子どもも高いOKラインを持ちがちです。
すると、子どもも「自己否定感」の気持ちが沸いて、できることができなくなってしまいます。
当社のトレーニングは、お子さまを入口としていますが、実は、親御さんもトレーニングできるようにしています。
親御さんには、自分にOKをあげながら一歩一歩目標に向かうイメージをもってもらいたいですね。
編集者から見たポイント
感情に目を向けるトレーニングを通し、いかに自分が感情を意識していなかったかが分かりました。ぜひ一度ご家庭でお試しください。現在日本で行われているメンタルトレーニングの多くは、海外から取り入れられたものです。日本人が考えた日本人のためのメンタルトレーニングを実践する株式会社リコレクトには、今後も注目していきたいところです。
興味をもった方は、「株式会社リコレクトhttps://www.recollect.co.jp/」をご覧ください。
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