中学受験を通して得られるのは「合格」だけではない?

inter-edu’s eye
第19回では、母親の子育てを応援する「サイタコーディネーション」代表であり、「マザーカレッジ」主宰の江藤真規さんにインタビュー。ご自身も娘さん二人の中学受験・東大現役合格を経験されています。今、悩まれるお母さまと接していて感じていることについてうかがってきました。

中学受験は親と子が大きく成長できるめったにない機会

合否に関わらず「お子さまの頑張り」が成功体験となる

江藤さん正面
サイタコーディネーション代表、江藤 真規さん

エデュ:江藤さんは、普段中学受験で悩んでいるお母さまに会われる機会がありますが、その中で感じる中学受験のメリットとは何でしょうか?

江藤さん:前提として、お母さまとお子さまでそれぞれ違います。まずお子さまからお話しますと、3つあります。

1つ目は「学習習慣が養われること」。2つ目は「見えない力が身につくこと」。見えない力は非認知能力とも言われますが、粘り強さ・我慢する力・達成力・肯定感の上昇・切り拓く力などの数値化されない能力のことで、何か大きなハードルを乗り越えた時に身につくと、私は思っています。そして3つ目が「成功体験が得られること」です。

3つ目の成功体験ですが、成功=合格と考える方も多いですが、お母さまから見て「わが子は本当に頑張った」と思われるのであれば、合否に関わらずお子さまの成功体験としてとらえてほしいですね。もし結果が出なければ、失敗体験としてとらえてしまうのであれば、中学受験は避けた方がいいと思います。

お母さまは視野が広がり人生がイキイキとしてくる

エデュ:お母さまはどうでしょうか?

江藤さん:「親としての力量が上がる」ことです。どれだけ可愛がっているお子さまに対してでも、厳しくしなければいけない時があり、様々な困難に対峙しなければいけません。それを乗り越えるためには、お子さまを様々な方向から観察して、アプローチしていく必要があります。子どもと真剣に向き合い観察眼を養うことで、お母さま自身も成長できると思います。

あともう1つ挙げると、中学受験を通して「自分の未来を考えられるようになる」ことです。 皆さま大なり小なり、本やインターネットを通じて、教育情報を得ると思います。そうすることで自然と自分の興味・関心の輪が広がり、自分がこの先何をやっていこうかと考えるための情報も得ることができるようになっていきます。とくに近年は、子育ても仕事も、そして自分のプライベートも充実させたい。こういうお母さまが増えているので、メリットは大きいと思います。

中学受験生なのに勉強がキライ!どうすれば…

大切なのはお母さまの導き方

江藤さん1

エデュ:中学受験では勉強が好きではないお子さまもいますが、どうすればいいでしょうか?

江藤さん:はじめから勉強が嫌いな子は基本的にいないと思います。何かのきっかけで嫌いになってしまったので、「できる」という成功体験や、ポジティブな気持ちを持たせることが重要です。ただこれでは答えになっていないと思うので、具体的に3つお話します。

1つ目は「自信を持たせる」こと。これをやるためには、まずどうして勉強を嫌いになってしまったのかを探る必要があります。お子さま自身ができないと思っていては、やる気も出ないですよね。1つの方法ですが、小学校6年生の時点で、勉強に対してやる気が出なくなってしまった際には、小学校4年生のノートを引っ張り出してきて、「昔できなかったことが今こんなにできるようになってるよ!すごいね!」と褒めてあげるのも有効だと思います。

2つ目は「その子に合った言葉をかけてあげる」ことです。近年は褒めることが流行っていて、褒めなくちゃいけない!と必死に思っているお母さまも多いと思います。しかし言葉は相手の心に届かなければ意味がありません。また、子どもの行動という見返りを求めて褒めてしまっては、子どものやる気をかえって削ぎ取ってしまいます。まずは”おだてる”のではなく良いと思ったことを伝え頑張りを認める役割に徹してみてください。

そのうえで、お母さまの気持ちをさらにお子さまに届けやすくするために、タイプに合わせた声掛けをすることは有効です。「子どもを褒めているのに、気持ちが伝わらない」と思っているお母さまは、まず自分のお子さまがどういうタイプなのか観察し、どこでスイッチが入るのかを分かってあげてほしいです。

江藤流「タイプ別の声かけ!」

・競争が好きな勝気なタイプ…「あと何点で一番だよね」といえばやる気がみなぎる。
・皆で一緒に何かやりたい、自己成長を楽しめるタイプ…「よく頑張っているね」など認めてあげる。
・人とは違ったやり方でやりたいタイプ…「こんなやり方初めて見るわ!」というと嬉しくなる。

3つ目は「目標を持たせる」ことです。この時ポイントになるのが、「大きな目標と小さな目標を設定すること」ですね。大きな目標は、中学受験合格。そして小さな目標は、週単位・月単位の目標です。少し手間かもしれませんが、先週できなかったことが今日できるようになったら、紙に書き出して貼ってあげたりすると、お子さまも分かりやすいと思います。

中学受験をうまく乗り越えたお母さまの共通点

エデュ:江藤さんから見て、中学受験をうまく乗り越えているお母さまに共通していることは何かありますか?

江藤さん:2つあります。

1つ目は「価値観にしばられず柔軟な心を持っている」こと。長い受験勉強の期間ずっと同じ成績、右肩上がりのお子さまは少ないと思います。色々な壁にぶつかっても笑って過ごせるマインドと、笑顔で次の策を考えられるお母さまはうまくいきます。逆に「4年生ならこれぐらいできるはずなのに…」、「周りはこれぐらいやっているのに…」と固定観念にとらわれてしまうお母さまは苦しい時間を過ごしてしまうかもしれません。

2つ目は「子どもに対しての自分の役割を認識できている」ことです。あくまで自分は頑張っている子どものサポート役になれることが受験に勝てる絶対条件だと思っています。コーチ型ママと言ってもいいでしょう。

エデュ:実際に頭では分かっていても、ついつい熱が入ってしまうお母さまも多いと思います。どうしたらよいでしょうか?

江藤さん:確かにそうですね。私は、そういったお母さまは、自分が勉強を教えなくてはいけないと思い、ママ先生になってしまう「ガミガミママ」と、お母さまご自身が受験するかのような気分になり不安になってしまう「おろおろママ」に分けられると思っています。

エデュ:この2つのタイプにならないためにはどうすればいいのでしょうか?

江藤さん:「ガミガミママ」は、やらない行動を紙に書いて貼っておくことをおすすめします。例えば「自分は先生ではない」、「自分が受験するわけではない」という具合にです。

「おろおろママ」は周りが言ったことにふり回されないような環境を作ってみてください。インターネットの情報や口コミを集めることを意識的にやめてみたり、中学受験を始めた頃のお子さまのノートを引っ張り出してきて、成長を実感すると「昔と比べてこんなに色々できるようになったんだ!」とおろおろが減ると思います。

エデュ:それでも「ガミガミママ」のイライラが収まらないときはどうすればいいでしょうか?

江藤さん:イライラが起きてしまうお母さまに共通していることに、「自分の目標と子どもの目標を一緒にしてしまう」傾向があります。そういう時は、自分への問いかけをしながら思考の整理をすることをおすすめします。子どもは何に対して難しいと思っているのか、今どういう気持ちなのか。そしてそれを自分自身の気持ちと比較してみると、明らかに違いがあることに気づきます。

子どもと一旦距離を置き、分離して考えることはとても重要です。

あと、これは私自身の経験でもありますが、兄弟姉妹がいる場合、一人目でうまくいった同じ方法をやっているのに、二人目ではうまく行かないケースがあってイライラしてしまう方が多いように感じます。例え兄弟であっても全然違うよ、ということは知っておいてほしいですね。

今の教育業界は過渡期、だからこそ家庭教育を大切に

子ども期は大人になるまでの準備期間!ではない?

江藤さん3

エデュ:最後に近年の教育業界を見て感じることを教えてください。

江藤さん:すべてが変化しつつある大きな過渡期だと思っています。国と国との、そして業界間の境界線がなくなり、教育のとらえられ方も変化しつつあります。
あとは、すごく急いでいるなと感じています。働き方・学び方・生き方。この3つを急ぎ変えなさいと言われているような気がします。これは過渡期の特徴の一つなので、大人はそれを引き受けていくべきなのかもしれません。

ただ大人が認識しないといけないのは、「その裏側で子どもたちは育っている」ということです。子どもにとって子ども期はその時しかありません。ですので子どもには大きな器の中で、緩やかに子ども期を過ごせるような、そんな環境を整えてあげて欲しいなと思っています。

お子さまには「世の中こんなに変わってきているよ、今のままじゃ間に合わないよ」ではなく、「世の中変わってきているね、あなたなら何ができるだろうね」と伝える。それだけで、かなり時間の流れは緩やかになり楽しみが増えるはずです。1つの物事を、お母さまご自身は焦りとしてとらえても、お子さまに伝える時には、子ども期の育ちを意識して未来へ向かった楽しみな変化として伝えてもらえればいいなと思います。

編集者から見たポイント

江藤さんは取材の中で、大学入試改革で必要な思考力を育てるには「家庭教育」が大切とも言われ、それを伝えることも理念としてお持ちのようです。ご自身が、娘さんの思春期に家庭教育で悩まれた経験を活かしたお話は、説得力があるなと感じました。
江藤さんの活動をもっと知りたいという方は、
「マザーカレッジhttp://www.mothercollege.com/」のサイトをご覧ください。


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