東大生もやっている?地頭を鍛える「家庭習慣」とは

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第21回では、20歳で学習塾「緑進学院」の創業・経営を皮切りに、私立中高一貫校の経営、教育メディアでの執筆や、ママ向けイベントの開催など多方面で活躍。そして、現在は東大大学院博士課程に在籍、「教育学」を学んでいる石田勝紀さんにインタビュー。ご自身の経験と研究から語る「考える力」の重要性と身につけ方、悩みがつきない中学受験を「幸せなもの」にするにはどうすればいいのか、さらに、21世紀型教育についてのお考えをおうかがいしてきました。

勉強が楽しく、楽になる「考える力」

決して優等生ではなかった学生時代に起業

石田さん正面

エデュ:石田さんは20歳で塾を創業していますが、きっかけは何でしょうか?

石田さん:高校は地元神奈川でトップクラスの進学校に通っていました。でも反抗期が重なって「独学で東大に行く!」と周りに宣言してみたはいいものの、結局2浪してしまって…。「こんなに努力しているのに受からない!神も仏もいない!」と思い、参考書や問題集を全部、庭で燃やしてしまった過去があります。

エデュ:全部ですか!それは大胆ですね。それからどうしたのでしょうか?

石田さん:時間はあったので、車の免許だけ取りには行きましたが、基本的には何か月もぶらぶらしていました。「けじめ」のつもりだったと思いますが、通信添削の英数国3科目だけは取っていたものの、国語の偏差値が40と非常に低くて…。

ただある日時間があったので、物事をじっくり考えるようになり、気が付くと半年後には国語の偏差値が80。それに伴って英語も数学も伸びるという状態になりました。じゃあ何で伸びたんだろうと考えたときに「考えることを始めたからだ!」と気づいて、考えるという武器を手にしたら万能だと思うようになりました。

エデュ:そんなことがあったのですね。そこからなぜ塾を始めようと思ったのでしょうか?

石田さん:たまたま、父が脱サラして、小さなビルを建てることになりまして。時間を持て余していた私を見かねて、「何かやってみないか、そうだ塾でもどうだ?」と誘われました。塾をやるにあたり、さすがに高卒ではまずいと思い、大学に入学しマンションの1室を借り、塾をスタートしたのがちょうど20歳の時。

正直最初は「何か青年実業家みたいでかっこいい」という思いでしたが、部活を終えて通う子や、真剣に学びに来る子を見ているうちに「何とかしてこの子たちの成績を引き上げたい」と思うようになりました。ただ通常の塾とは違い、暗記型ではなく、自分が身につけた「考える力」を教えてあげた方が、勉強が楽しくラクになるので、ここにフォーカスして創業から教え続けています。

考える力を身につけられる「学びの法則」

エデュ:「考える力」はどうすれば身につくのでしょうか?

石田さん:子どもたちを教える中で感じたのは、元々「考える力」を持っている子はたくさんいます。そういう子は学力も高いし、高くなっていきます。じゃあ誰に教えてもらったんだろうと考えた結果、家庭の習慣と在り方が影響していることを突き止めました。だから家庭の習慣化が大切だということで、私が体系化し、塾で実践している「学びの法則」につながります。

エデュ:「学びの法則」とは?

石田さん:「学びの法則」は生活習慣(身)、考える頭(頭)、絶対積極(心)で成り立っています。

まず1つ目の生活習慣ですが、学力の低い子は生活習慣に問題があることが分かりました。 「挨拶・時間を守る・整理整頓」これをきちっとやると成績もある程度までは上がります。

「挨拶」は主体性の表れ、前向きさです。主体的な人間は、情報を自分で取りにいくことができます。勉強は情報戦略でもあるので、挨拶は実は非常に重要です。
「時間を守る」は勉強にメリハリがつくことも期待できるので、勉強以外のときでも、時間を意識することが重要です。反対に、登校時間、食事の時間、勉強の時間、朝起きる時間などが乱れてしまうとサイクルが崩れてしまい、肝心な時に力を発揮できなくなってしまいます。
最後に「整理整頓」です。身の回りの整理整頓は、学習に必要な情報整理につながり、情報が欠けていると学力向上になりません。

2つ目は考える頭。よく他塾さんでは宿題を出し、家でやって覚えてきなさいと指導していると思います。ただこれだと、やってこない子はどうするの?となってしまうので、私の塾ではすべて授業内で暗記(インプット)させるようにしています。そうすると最低限は頭に入るので、それよりもっと上に行きたい子には宿題を出すという形式をとっています。基本は前回やったことをもう一度インプットし直し、ノートを閉じてテストをします。そうすると「こうやってやったり、考えればいいんだ」と生徒自身の気づきになり宿題が受け身ではなく、能動的になります。

最後は絶対積極ですが、これが一番重要になります。出来ない子はネガティブな言葉を連発したり、失敗に対しておそれを抱いています。これを授業内でひっくり返すために、マイナス言葉禁止。失敗に関しては量産しろと指導しています。プロセスは間違いだらけの方が成長しますので、「できているなら塾に来る必要ないよね?」というと彼らは安心するのです。

大切なのは否定しないこと。否定をしてしまうと、それ以上意見を言わなくなってしまいます。正しい・間違っているではなく、どういう考え方をしたのかを聞き、それに対して評価をしていく。選んだ答えはもちろん、選んでいないものも「何でこれにしなかったの?」と聞いてあげます。答えを聞いて「なるほどね、でも世の中の多くの人間が選ぶならどれを選ぶ?」と尋ねると、だいたい当たります。そうすると自分の考えが否定されず、学びにもつながります。

「幸せな中学受験」をするために絶対知っておきたいこと

新しい出会いがある中学受験が不幸せなはずがない

石田さん1

エデュ:中学受験で様々な理由により、「不幸せ」になってしまうケースもありますが、「幸せな中学受験」にするためにはどうすればいいでしょうか?

石田さん:まず大前提として、私は中学受験は子どもにとって非常にいいものだと思っています。なぜなら、子どもたちの能力をストレッチさせるだけの場があるからです。大人たちが思っている以上に子どもの能力は計り知れないものがあり、子ども自身が勉強を通じて将来に関わるものを発見したり、新しい世界を見つける可能性もあります。

こう考えると、例え、中学受験や大学受験に失敗しても痛くもかゆくもないはずです。例え、受験という枠でうまくいかなくても人生には挽回できるチャンスはいくらでもありますし、子どもの得た経験の方が、大きいと考えています。

エデュ:頭で分かっていても、色々な悩みを抱えてしまうお母さまも多くいます。例えば、塾で他の子の成績と比べてしまうなどがあると思いますが…?

石田さん:まず塾内でいうと、小学校4~6年生を通して「偏差値が変わらない」、「全然上がっていない」という声を聞きますが、実はこれは間違いです。なぜなら皆成長していて、母体として見た時は変わらないけど、絶対的な能力は上がっています。これを親御さんが伝えないと、子どもは学力向上を感じないと思います。

あとは、子どもの長所にフォーカスしてあげることが重要です。あくまで持論ですが、「人生の一番の幸福は、自分の持っている長所を伸ばして、社会に対して活かせること」です。ここに充実感を感じると思います。長所を探しそこにフォーカスすれば、変な比較は減ると思います。

「うちの子勉強しない」どうすればいい?

エデュ:石田さんは教育メディアで執筆もされ、お母さまのお悩みも聞いていると思いますが、今どんな悩みが多いのでしょうか?

石田さん:全国から寄せられる悩みで多いのは、「うちの子勉強しないんですけど、どうしたらいいでしょうか」というものですね。

エデュ:どのように答えられていますか?

石田さん:「気合や根性論ではなく、仕組みづくりをしましょう」とアドバイスしています。私の著書に『勉強しない子には「1冊の手帳」を与えよう!』というのがあって。やるべきことを書き込み、できたら赤ペンで消してポイント化する。嘘のような話ですが、それでやるようになります。

子どもはゲームにはまりますが、それは面白いからです。ではなぜ面白いかというと、成長してレベルアップして、点数が入ったりするからです。頑張りなさい!という声掛けで勉強をすようになればいいですが、大半の場合は逆効果。ゲームのようにポイント化してあげる仕組みづくりをするだけで、かなり変わります。

教育の過渡期である今、私たちはどうすればいいのか

地頭が固まっていれば何が来ても大丈夫

石田さん3

エデュ:今世間でも話題の「21世紀型教育」についてどのようにお考えでしょうか?

石田さん:20世紀型の教育を、知識集積型(知識を習得し、偏差値を高める教育→講義型授業)とすると、21世紀型教育は、知識活用型(知識を使いこなす教育→グループワーク型授業)となります。
こうして並べたり、世間に発表されている情報を見ると、20世紀型教育は悪く見えるかもしれませんが、実は20世紀型教育は成功しています。ただ、今、粗さがしをすると色々出てくる。これを是正するために21世紀型教育が出てきました。

これは私の研究の結果ですが、これからの教育は「20世紀型教育のいいとこどり+21世紀型教育」を、ともに身につけることが大切だと思っています。ここを、教えられる側も教える側も意識しておかないと、全部21世紀型教育の代表であるアクティブ・ラーニングになってしまいます。

エデュ:なるほど。移り変わりの激しい中で、子どもたちにとって重要なことは何でしょうか?

石田さん:「地頭を鍛えること」です。分かりやすくパソコンに例えていうと、ソフトウェアが変わるわけです。パソコンというハード(頭脳)があって、そこにOS(地頭)が入っている。その上にソフトウェア(Excel、Wordなどの受験でいう算数・国語)が乗っかっています。

基本的にはハードは皆同じものを持っていますが、OSが古いとソフトウェアが動かないので、OSをバージョンアップさせる必要が出てきます。人間の場合、OSにあたるその地頭がどういうもので構成されるかといいますと、例えば「物事をちゃんと考えられる力」、「表現する力」になります。
現在、東大大学院博士課程に在籍しており、その関係上、東大生がどういう家庭で育ったのか、どういう勉強をしていたのかをヒアリングしてきました。そこにはある発見がありました。

エデュ:それは何でしょうか?

石田さん:いくつかあるのですが、例えば、普段から雑談なども含め人の話をよく聞き、自分の意見・考えを必ず表現する思考習慣があることです。日常の些細な事でこのような習慣を持っているため、自然と地頭を育成しているのです。どのような習慣があるかを知り、それらを家庭で実践すれば、地頭が固まります。この地頭が固まれば、ソフトウェア(算数・国語など)はキッチリと動くのですね。つまり、地頭を作っておくことこそが、子どもたちにとって最も大切な事であろうと私は思っています。

編集者から見たポイント

教育がどうなっていくか見えない中で「地頭を鍛えておけば大丈夫」という石田さんのお話には、安心感を持つとともに、改めて家庭教育の重要性を認識させられました。今回ご紹介できなかった、地頭を鍛えるためお話は、石田さんの著書に詳しく書かれています。『30日間で身につく「地頭」が育つ5つの習慣(KADOKAWA)』をご覧ください。


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