優秀な子が育つ学校の条件とは?

inter-edu’s eye
受験となると、つい偏差値や進学率など学校全体を表す数字に目がいってしまいますが、一人ひとりの子どもにとって大事なことは、そこでどのように学び、学力を伸ばしていくかです。どんな学校を選ぶべきなのか? 数字に惑わされず、教育の本質に目を向けるために、おすすめの本があります!

◆10年前の先進的な学校は、今も最先端!

日本の隠れた優秀校,藤原智美

『日本の隠れた優秀校』という文庫本が発売されました。通読して、こういう本を中学受験の志望校を決める前に読んでおくといいと思いました。といっても、知られざる中学受験おすすめ校がのっているわけではありません。この本は、マニュアルでもガイドでもなく、明晰な観察眼を持つ作家が書いたノンフィクションです。

副題は「エリート校にもない最先端教育を考える」。レポートされている学校は、公立の小学校、中学校、地方の私立、インターナショナルスクール、それに幼児教室、塾などさまざま。共通しているのは、きわめてユニークな教育を行って成果をあげているということです。この日本の中に、こんな学校があって、そこで学んでいる子どもたちがいるということを知ったうえで学校選びをすることで、より幅広い視野が確保できるのではないかと感じたのです。

本書の著者は、芥川作家の藤原智美さん。藤原さんはノンフィクション作家としても活躍され、教育、子ども、家族といったテーマで多くの作品を上梓しておられます。そして、この『日本の隠れた優秀校』は、実は2006年に刊行された単行本『知を育てるということ』を改稿・改題して文庫化したものです。10年以上前の本では内容が古いのでは?と思うかもしれませんが、それが違うのです! 著者自身、「まえがき・エリート校にもない成果があがる『学び方』」の冒頭に書いておられます。

文庫本をつくるにあたって、10年あまり前に書いた原稿をあらためて精読しました。
すると書いた私自身も驚くことがありました。取り上げた教育の中身、その斬新さ、そして学びの成果、どれも少しも色あせることなく、現在最先端の教育と比べても、まったく遜色ないということです。いや、中には今でも、他より優れたものもありました。

◆辞書引き学習からバイリンガルの教育の場まで

最後まで読んで、本書でレポートされている学校は、今なお先進的といっていいものだと確信しました。この10年、世の中は激変していますが、教育の現場はあまり進んでいないのかもしれません。いずれにせよ、今叫ばれているさまざまな教育改革の中身を、10年前にはすでに実践している学校があり、そこで学び、その成果を身につけた子ども、いやすでに大人になっている人もいるということ。この事実を知っておくのと知らないのでは、教育に対する考え方もだいぶ変わってきます。

本書の構成をざっと紹介すると以下のとおりです。

プロローグ:ITは子供をほんとうに「伸ばす」のか

第一部 メソッドを選ぶ 勃興する学びの方法
 第一章 辞書 六歳から引くべし
 第二章 そろばん 古くて新しい魔法
 第三章 生活体験 幼児期の必須授業
 第四章 暗算 脳という開拓地

第二部 学校を選ぶ 公立校の底力
 第五章 一貫校 公立校復興の狼煙
 第六章 カリスマ校長 「陰山英男」という名の教育
 第七章 小説創作 子の心をのぞく教育
 第八章 コミュニティスクール 総合的な学習の極地

第三部 言葉を選ぶ 母語を捨てる
 第九章 バイリンガル教育 恵まれた最高の小学校
 第十章 インターナショナル校 日本のなかの外国
 第十一章 中国語 隣国の経済成長をにらむ親たち
 第十二章 国際基準の卒業試験 バカロレアという難関を目指して

後書きにかえて:選ぶ学校、選ばれる教育


プロローグで取り上げられているのは、いち早くITを導入して2006年に開校した京都の立命館小学校。第一部第一章では、辞書引き学習の実践者、深谷圭助先生に教えを受けた公立小学校、中学校の生徒のようすがありありとレポートされています。辞書引き学習の成果は、辞書引き上手になることなんかじゃない! 何よりも大きな成果は、子どもたちに身についた学ぶ意欲、調べる意欲であり、それはコミュニケーョン力にも及ぶのだということがわかりました。

続く第二章では、そろばんを使った授業を年間50時間も行っている尼崎の公立小学校。そろばんなんて古いと思っていてはいけません。子どもの集中力アップに大いに貢献しているのです。

このように各章で、学校が一校ごと、批判的な分析眼をもって語られていきます(第一部の第三章と第四章だけは、幼児教育や塾のレポートです)。第二部では、公立校で行われている先進的な教育。中には今では誰もが知っている教育法もありますが、実際の教育現場のようすはあまり知られていないのではないでしょうか。さらに第三部では私立のバイリンガル教育やインターナショナルスクールの取り組み。こちらは英語教育について考えている方には必読の内容です。

◆方法は違えど、どこにも嬉々として学ぶ姿が!

さて、供本書で、もっとも印象に残ったのは、子どもたちの学ぶ意欲です。取り上げられた学校では、どこも生徒が嬉々として学んでいました。授業時間が長くても、やることがたくさんあっても、それにへこたれないというよりは、積極的にやりたいと思ってやっているように見えました。そしてその当然の帰結として、学力も見違えるほど伸びるというわけです。

著者の藤原さんも、「現代の子供たちに最も欠けているのは、喜んで学ぶという力です。強制ではない積極性が集中力をうみます。(まえがきより)」と書いておられます。おそらくこのこともあって、今回の文庫化にGOサインを出されたのではないかと想像しました。

最善の教育の場とは、教育法のことではなく、一人ひとりの子どもが、それぞれ学ぶ意欲を最大限発揮できる、そんな場のことなのではないでしょうか。これって、学校だけではなく家庭についてもいえそうですね。

最後に、まえがきの最後の部分を引用します。本書を紹介したいと思った理由そのものが書かれているからです。

現在、学校教育は全国一律の画一化が少しずつゆるんできています。私立校が充実し、それに刺激されるように公立校の中にも変化が出てきました。塾、インターナショナルスクールなどに、わが子の教育を託する父母もいます。つまりかつてなく教育メニューが広がり、それぞれを選択する時代になりつつあるともいえます。
いったいどんな教育がいいのか。親がまず考える必要があります。
あとは、読者の皆さんの判断です。理想の教育、どう考えますか?

日本の隠れた優秀校

日本の隠れた優秀校 -エリート校にもない最先端教育を考える-
藤原智美著、小学館文庫プレジデントセレクト、680円+税

子どもたちを伸ばす場で芥川賞作家がみたもの…現代の学校は、かつての「個性」「自発性」という言葉が影にひっこみ、「和」や「まとまり」という集団主義的な言葉が表を飾っているように感じます。しかし、ここで紹介している学校は子どもたちが積極的に、嬉々として学んでいます。現代の子供たちに最も欠けているのは、喜んで学ぶという力です。強制ではない積極性が集中力をうみます。そんな意欲的な雰囲気をクラス全体でつくっている学校もありました。たとえば、授業の前のたった五分間の「百ます計算」でその集中力を難なく達成している教室などです。そのほかにも、辞書引き、小説創作、音読・暗唱、そろばん、右脳開発、コミュニティスクール、中国語等々…。さまざまなメソッドを駆使してユニークで新しい教育に挑戦している学校は、取材時はエッジ=先端に位置していましたが、今もトップを走っているのです。…購入はこちらから

藤原智美

著者の藤原智美(ふじわら ともみ)さん
1955年、福岡市生まれ。フリーランスのライターとして各誌で活躍後、92年「運転士」で第107回芥川賞受賞。主な作品としては、『モナの瞳』(講談社)、『ミッシングガールズ』(集英社)、『メッセージボード』(読売新聞社)などがある。 また、97年には住まいの空間構造と家族の社会生活関係を独自の視点で取材、考察したドキュメンタリー作品『「家をつくる」ということ』(プレジデント社、講談社文庫)がベストセラーに。その後も、『家族を「する」家』(プレジデント社、講談社+α文庫)、『「子どもが生きる」ということ』(講談社)、『なぜ、その子供は腕のない絵を描いたのか』(祥伝社)など、「家族」「子育て」「教育」といった分野での思索、執筆活動も展開、ノンフィクション作家としても活躍している。『暴走老人!』(文春文庫)『スマホ断食』(潮出版)『文は一行目から書かなくていい』(小学館文庫・プレジデントセレクト)『なぜ、「子供部屋」をつくるのか』(廣済堂出版)など著書多数。


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