公立中高一貫校を選ぶメリットと受検対策

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中学受験のもうひとつの選択肢、公立中高一貫校受検は、今どうなっているのか、把握してますか? 通っている塾に頼っていると正確な情報が入手できない可能性があります。教育ジャーナリストのおおたとしまささんが、今現在の公立中受検を取材した新刊が発売されました。必読です!

◆公立中高一貫校受検の現実

中学受験で、公立の中高一貫校を視野にいれている方は、どれくらいいらっしゃるでしょうか? 私立校を目指しながら、公立の適性検査を受けるのはなかなか難しいというのが通説。しかも公立は1校しか受検できません。ちょっと無理と思ってしまうご家庭が多いようです。しかし公立の中高一貫校ができて20年弱、来るべき大学入試改革も考慮に入れると、簡単にあきらめるのはよくないようです。

中学受験に詳しい教育ジャーナリストのおおたとしまささんが、取材をもとに著した『公立中高一貫校に合格させる塾は何を教えているのか』を読むと、公立中高一貫校の受検対策をリアルに把握することができます。副題は『ひとり勝ち「enaの授業」から分かること』。2017年度の都立中受検で学習塾「ena」の合格者占有率は、なんと5割。多摩地区に限ると6割を超えるそうです。東京都の公立中高一貫校の適性検査にあわせた「ena」の指導とはどんなものか、「ena」で学んで中高一貫校に通う生徒は何を考えているのか、そんな現実を本書で知ったうえで、私立との併願の是非を判断するといいでしょう。

◆公立中高一貫校の受検対策とは?

公立中高一貫校に合格させる塾は何を教えているのか,青春新書

本書の構成は以下のとおりです。

第1章 公立中高一貫校という選択
第2章 enaの授業の実況中継
第3章 塾業界vs公立中高一貫校の攻防
第4章 公立中高一貫校生による本音座談会
第5章 私立受験にも大学入試改革にも対応


第1章は、いわば公立中高一貫校の基礎知識。公立中高一貫校が誕生したときから現在までの流れ、学校の種類、地域による違い、私立の入学試験に当たる適性検査の特徴や地域ごと学校ごとの違い、合格者の偏差値などが解説してあります。東京都の場合、受検者数は増えていませんが、難関化は進んでいるようです。私立の超難関とはまではいかなくても、慶応中等部など難関校と同じ程度の難易度になっています。そして大学進学実績も着実に伸びています。

「第2章 enaの授業の実況中継」を読んで、ちょっと驚いてしまいました。授業風景が、進学塾のビシバシした雰囲気とはずいぶん違っているのです。おおたさんも書いていますが、ある意味“ゆるい”。みんなで考えて一緒に答えを見つけようといった感じで、講師の先生の話もよく脱線します。勉強の厳しさよりは学ぶ楽しさを感じさせる授業でもあります。

厳しい受検が待っているのに、こんなことでいいの?と思ってしまう方もいるかもしれませんが、適性検査対策の場合、教科書にない知識をたくさん覚える必要がない代わりに、どんな問題が出てもうろたえないで、自分で考えて答えを出すという訓練が必要ということでしょう。つまり知識ではなく考える力。そして絶対に必要なのが、文章を読み説く力と書く力。本書には、2017年度に出題された問題も掲載されているので、それと合わせて、「ena」の授業実況中継をみていくと、なるほどと納得させられます。

「ena」のカリキュラムを見ると、公立校対策コースは、私立中受験コースほどにはきつくないようですし、「第4章 公立中高一貫校生による本音座談会」に登場する生徒の話からも、それがうかがえます。できるだけ多くの知識と解法を頭に詰め込まなければならない私立中受験より、よい意味で“ゆるい”。しかも生徒たちには、自分たちのほうが「いい勉強」をしているという自負があります。とはいえ私立難関校と同程度の難易度ということは、基礎学力があることが前提ですから、決して簡単というわけではありませんが。

第3章には、「ena」以外の塾の公立中高一貫校対策コースや全国規模で展開している通信添削サービスも紹介されているので、東京以外の公立校対策もわかります。公立中高一貫校に合格するためには、東京ほど難しくない地方の公立一貫校でも「教科書+20%」の知識は必要とのこと。

「第4章 公立中高一貫校生による本音座談会」には、東京の一貫校4校(小石川、白鷗、武蔵、立川国際)の生徒が登場します。学校の個性もわかり、東京の一貫校を考えている方には、とても参考になると思います。

◆公立中高一貫校受検の大きなメリット

「第5章 私立受験にも大学入試改革にも対応」を読んでいくうちに、公立中高一貫校を目指す勉強のほうが将来のためになると確信するようになりました。いちばんの理由は、大学入試改革でセンター入試に代わって出題される記述式のサンプル問題が、適性検査にそっくりだという事実です。「ena」では、保護者を前に生徒たちにこのサンプル問題を解かせたところ、見事な答案が揃ったのだそうです。

加えて適性検査対策の学習は、たとえ中学受検に失敗して地元の中学に進んだとしても、高校受験でよい結果をもたらすことがわかってきたとか。「ena」の先生曰く、「(適性検査対策は)一度身につけたら忘れることのない深みのある勉強です。それは高校受験にも活かせる学力です。受検するしないにかかわらず、本来であればすべての小学生が学ぶべき内容だと思います」。

著者のおおたさんは、中高一貫校受検について、以下のように結論づけています。

(前略)首都圏の公立中高一貫校に本気で対策するなら、私立中高一貫校の上位校ぐらいまでを受けても合格できる可能性があるということだ。
 要するに、公立中高一貫校の受検対策をすることで、3つの選択肢が得られるようになる。1つは公立中高一貫校への進学。もうひとつは私立中高一貫校への進学。そして地元の中学校に進学して、適性検査対策の経験を生かして難関都立高校に進学するという選択。12歳での努力は決して裏切らないのだ。
(第5章 P185)

「12歳での努力は決して裏切らない」という言葉は重いですね。教育界の改革はいつの時代もうまくいった試しがありませんが、“適性検査対策”には、ほのかな光明が見えています。親世代には選択肢になかった公立中受検ですが、本書を読んでお子さまにすすめるべきかどうか、真剣に検討してみてください。

公立中高一貫校に合格させる塾は何を教えているのか

公立中高一貫校に合格させる塾は何を教えているのか
おおたとしまさ著、青春新書インテリジェンス、790円+税

2017年度の東京都下の公立中高一貫校総募集定員に対する学習塾enaの合格者占有率は約5割、多摩地区の4校に限った占有率はなんと6割を超える。公立中高一貫校対策塾として、東京都では「ひとり勝ち」である。
enaでは何を教えているのか。それを明らかにすることで、これまでベールに包まれていた公立中高一貫校対策の実態が見えてくるはずだ。
ただし本書は単なる公立中高一貫校攻略本ではない。公立中高一貫校の出現が、私立中学受験や高校受験、さらには大学入試改革に与える影響までをも考察する。…購入はこちらから

おおたとしまさ

著者のおおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。


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