これは「しつけ」?それとも「虐待」?今、親が知っておきたい、気をつけるべきこととは?

新型コロナウイルスの拡大防止のため、東京を含めた一部地域に緊急事態宣言が発出されました。ずっと子どもと家にこもりがちな日々がさらに続くことになり、子どもだけでなく大人もストレスがたまる状況です。そんな中でついイライラして子どもに辛くあたってしまうこともあるかもしれません。こういった状況だからこそ、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは、4月1日に施行された改正児童虐待防止法と改正児童福祉法です。この改正法では親による体罰禁止を明確にし、児童相談所の体制強化が盛り込まれました。さらに、これに合わせて厚生労働省から発表された運用指針では、どこまでが虐待にあたるのかが具体的に示されています。
子どもにとって、そして親にとっても重要な法律であり運用指針です。本記事では、改正児童虐待防止法、改正児童福祉法の改正ポイントとその運用指針についてご紹介します。

子どもに苦痛を与えるものは体罰であると明確化

子どもに苦痛を与えるものは体罰であると明確化

どこまでがしつけでどこからが虐待なのか、みなさん言葉で言い表すことができるでしょうか。

例えば、子どもにあざができるほど殴るのは明らかに行き過ぎた行為でしょう。でも、「子どもがいたずらをしたときに手をパチン!と叩いてしまった」とか、「うるさく騒いでいたのでお尻を叩いた」という場合も体罰になってしまうのでしょうか。ほかにもうるさく叱っていたら子どもが泣き出したという場合は、言葉による虐待となるのか、毎日の子育ての中で、判別しづらいこともあるかもしれません。

そこで厚生労働省では「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」において、有識者による検討を進め、体罰としつけの違いを明確にした指針をまとめました。

体罰の具体例としては、

・言葉で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた
・ 大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた
・ 友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った
・ 他人のものを取ったので、お尻を叩いた
・ 宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった
・ 掃除をしないので、雑巾を顔に押しつけた

これらはすべて体罰だとしています。

さらに体罰ではありませんが、怒鳴りつけたり、子どもの心を傷つけたりする暴言も、子どもの健やかな成長・発達に悪影響を与える可能性があると指摘しています。たとえ冗談でも「おまえなんか生まれてこなければよかった」とか、やる気を出させるという口実できょうだいを引き合いにしてけなした、などは、子どもの権利を侵害し心を傷つける行為であることを強調しています。

こうした言葉以外にも、子どもをけなしたり、辱めたり、笑いものにするような言動は、子どもの心を傷つける行為であり、子どもの権利を侵害する行為となります。

ただし、罰を与えることを目的としない行為や、子どもを保護するための行為(道に飛び出しそうな子どもの手をつかむ等)、第三者に被害を及ぼすような行為を制止する行為(他の子どもに暴力を振るうのを制止する等)等は、体罰には該当しないとしています。

「体罰等によらない子育てのために」啓発ポスター
「体罰等によらない子育てのために」啓発ポスター

上記の内容を含め、厚生労働省が作成したパンフレット「体罰等によらない子育てを広げよう!」には子どもとの関わりについて具体的な工夫とポイントが記載されていますので、ぜひご覧になることをおすすめします。

改正児童虐待防止法・改正児童福祉法では「しつけ」と称した体罰禁止を明確化

さて、冒頭でお伝えした改正児童虐待防止法・改正児童福祉法についてですが、改正が行われた背景には、児童虐待が年々増加してきていることにあります。昨年8月に厚生労働省より公表された2018年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)は15万9,850件で、前年度より2万6,072件(19.5%)増加し、過去最多となりました。その内訳は、心理的虐待88,389件で全体の約半数を占めており(55.3%)、次に身体的虐待40,256件(25.2%)、ネグレクト(育児放棄)29,474件(18.4%)、性的虐待1,731件(1.1%)でした。

さらに2018年には東京都目黒区で起きた船戸結愛(ゆあ)ちゃんの死亡事件が起こりました。これを気に児童虐待防止法と児童福祉法が改正の動きが一気に高まり、今般の法律改正となったのです。

この2つの改正法の主なポイントは以下の通りです。

・親がしつけに際して、体罰を加えてはならない(民法の「懲戒権」のあり方は、施行後2年をめどに検討)
・児童相談所の一時保護など介入対応をする職員と、保護者を支援する職員を分け、介入機能を強化する
・児童相談所には医師と保健師を配置する
・学校や教育委員会、児童福祉施設の職員に守秘義務を課す
・DV(ドメスティックバイオレンス)の対応機関と連携を強化する
・都道府県などは虐待した保護者に対し、医学的、心理的指導を行い、再発防止に務める
・家族が引っ越した場合、転居先の児童相談所と速やかに情報共有する

虐待はほとんどの場合しつけが口実になっています。
改正法では、「しつけに際して体罰を加えてはならない」と明確に示しました。

懲戒権が虐待をしつけと称する口実に?

懲戒権が虐待をしつけと称する口実に?

1つ目のポイントで出てきた民法の「懲戒権」とはなんでしょうか。
そもそも懲戒とは、子どもの問題行動に対して、「監護教育の観点からこれを矯正するために必要な範囲で実力行使すること」を言います。

民法では以下のように書かれています。

民法820条
「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」

民法822条
「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲でその子を懲戒することができる。」

この「必要な範囲」が議論となっています。前述したとおり、児童虐待のほとんどが「しつけ」のためということが口実になっています。しかも、法律で「懲戒権」が定められている以上、叩くなどの行為についても「しつけ」であると、形式的には説明できてしまうのです。こうした背景から「懲戒権」のあり方について改めて見直す必要が出てきたのです。

参考:「懲戒権は廃止される?子どもの「しつけ」はどうあるべきか」

今回の改正は、子どもへの「しつけ」とはなにか、自分は子どもにどう接しているか、改めて見直す機会になるのではないでしょうか。
お子さんやご自身が健やかに生活していく上で、そして良い関係性を育む上でも、ぜひ参考にしてください。

edu’s point

冒頭でも触れたように、今はウイルスという目に見えないものにより、つい2か月前の生活から一変しました。異常な状況の中、ストレスやイライラはお互いの関係を悪化させるだけでなく、場合によっては虐待に発展してしまうことも起こりえます。

日本小児学会では、日本子ども虐待防止学会、日本子ども虐待医学会と4月6日に「お子様と暮らしている皆様へ」と題し、子どもの安心・安全を高めるための情報のまとめを作成しました。自分自信のイラ立ちを「心の中の感情温度計をイメージして自覚すると、冷静に対応できます」など、大人が落ちついて安定した気持ちでいられる方法を紹介しています。

どうしても子どもにあたってしまう、言いすぎてしまうと思ったら、文部科学省が設置している「24時間子供SOSダイヤル」でも、保護者の相談を受け付けています。

また自分の行為が「虐待なのかも」と思ったら、そう思った時点で、児童相談所や虐待に関する相談期間に連絡し、今の気持ちや悩みを聞いてもらってください。「児童相談所虐待対応ダイヤル「189」」に電話するとお近くの児童相談所につながります。