女子校の集団力・共感力が社会を変える力に

inter-edu’s eye
前回の記事「女子校という環境が、女の子の人生を大きく変えていく!」では、女子校の実態を紐解きながら、「女子校は、既存のジェンダー意識にとらわれない“生き方”を育むことができる」とお伝えしました。しかし、社会には依然として男女不平等があり、自分らしい“生き方”を実現するためには、さまざま壁が立ちはだかります。今回は、おおたとしまささんの著書「ルポ東大女子」を取り上げ、「東大女子」に向けられる世間の偏見を明らかにしながら、女性の生きづらさはどこからきているのか、また社会を変えていくには何が必要か、という問いに迫ります。

ルポ東大女子

今回取り上げた著書:「ルポ東大女子」幻冬舎新書

一学年あたり約3000人いる東大生のうち、約600人しかいない希少な存在「東大女子」。「女子なのに東大行ってどうするの?」という世間の偏見をかわし、努力の末に合格。しかし学内のテニスサークルの男子からは無視され、他大生の男子からは高学歴ゆえに避けられがち。理解力や処理能力が高く優秀なため、比較的出世するが、それでも最後は「男社会」の壁に結局ぶち当たる。かといって就職せずに“女性らしく”専業主婦を選べば、世帯の生涯収入が3億円減るという現実。“究極の高学歴女子”ゆえのジレンマと、その実像に迫る。

“東大女子が2割”が変われば、世の中も変わる!?

教育ジャーナリスト: おおたとしまささん
受験や育児に悩む、お母さま方の気持ちに寄り添ったアドバイスが好評。

インターエデュ・ドットコム(以下、インターエデュ): 著書には、「社会的課題の本質を『東大女子』という視点を借りて明らかにしていく」とありますが、「ジェンダーギャップ」のついては、どのようなことが見えてきたのでしょうか。

おおたとしまささん(以下、おおたさん):  女の子が「東大に行きたい」と言ったときに、「東大に行ったら結婚できないよ」って言ってしまう風潮がまずあります。女性が頭がいいと、それよりも頭のいい男性を見つけなければいけなくなって、東大に行くと選択肢が狭まってしまう。それ以上の男性は数%もいないよね。だからやめときなというアドバイスを受験前にされる女の子が多い。そのような世間の風当たりもあって、東大の女子率は2割弱と少ない。「女の子なんだから東大なんかに行かないほうがいい」と言われ、たくさんの女の子が東大に行けなかった。それって世の中の男女不平等の象徴だよね、という取り上げ方をしました。

“東大卒”というのは、学歴・年収と社会的に競争力があることを示すブランドですが、それが、男性にとってはあらゆる面でプラスに働き、女性がパートナーを持つことにとってはネガティブに働く。その非対称性に着目し、そこを変えていかなければいけないと。

加えて、日本の「ジェンダーギャップ指数(世界各国の社会進出における男女の格差を示す指標)」の順位は世界の中でかなり低く、国力を損なっているかと。そんな過渡期において、女の子が勉強すること自体にリスクがあるという理不尽。その象徴が「東大女子」です。できる女の子がなぜかジレンマを抱えてしまう。そこを変えていかなければいけないというのがこの本の趣旨なんです。

インターエデュ: 変えていくには、夫のほうが学歴や収入が高いほうがいいとか、女性はこうあるべきという考えを取り払わないといけないのかなと。なかなか難しいですよね…。

おおたさん: 個人の次元として、男性が上位であるべきだと思う男性、女性がいてもいいとは思います。他の人に押しつけない限りは。でも社会においては、それでいいのでしょうか。
個人的な感覚を、他人や次の世代に押し付ける人たちが社会の中にたくさんいる現実を変えていかなければならない、というのがあるはずです。従来の価値観にとらわれて、そういうアドバイスに従っている限りは世の中は変わらないですよね。

とはいえ、親世代には、女の子はそこそこの学歴にとどめておいて、かわいらしいほうが幸せになれるという価値観があります。その従来の価値観は根強い。そこに娘さんがそうではない、東大行きたいと言ったときに、従来の価値観からいうと不安に思うかもしれないけど、親が思う人生観を子どもが幸せに感じるかは分からないよね、というメッセージを伝えたいです。

それと、親御さんには男女不平等の社会を維持することが娘さんにとっていいことなんですか、ということを考えてほしいですね。女性の幸せみたいなものを、昭和的な価値観、型に押し込めてしまっている親は多くて、だから社会的な女性の地位は向上しないのかなと。女の子には、従来の価値観の中でそれに甘んじる、それも一つの人生ですが、従来の価値観を超えて、自己実現することを目指していってほしいというメッセージも伝えたいですね。

日本の閉塞感を打破する可能性が女子校にある!

女性の力

インターエデュ: 東大へ行く女の子が増えて、従来の価値観を超えて自分らしい人生を歩んでいける女性が増えると、社会も変わっていくのではという期待が持てますね。ですが、「ジェンダーギャップ」一つにとっても、著書にあるように、社会的課題はいろいろなことが複雑に絡み合っていて、簡単には変えられないところまできているのではないでしょうか。

おおたさん: 最近私は「社会の変え方を変えていかなければならない」とよく言っています。現代は、おれが変えてやる、というようなマッチョなリーダーシップで一気に変えられるような、単純な社会ではなくなってきています。スクラップ&ビルドではなく、今あるものをじわじわと根気よく変えていく変え方です。1点突破のようなやり方ではなく、複雑怪奇な「曼荼羅」のなかで、少しずつ模様を変えていくような、“社会の変え方”になっていかなければいけないと思っているんですよね。

そのためには、トップダウンの命令系統ではない、横のつながりで少しずつ変えていくリーダーシップが必要になります。みんなで共感しながら少しずつ変わっていくみたいな。そういう価値観で社会を変えていくのは、まさに女性が得意とするところです。女性の集団力・共感力をのびのびと育む環境として、女子校が見直されてほしいですね。

さらに、女の子が従来の価値観の枠を飛び越えていく環境として女子校は優れています。従来の社会の常識にとらわれないで社会を変えていくきっかけは、女子校から生まれやすいのかなと。日本の閉塞感を打破する可能性が女子校にあるかもしれないと思っています。

~取材を終えて~

女子校の運動会に象徴される、女の子の集団力や共感力が、社会を変える力になる。話の展開の面白さもさることながら、社会を変えるには、集団としての女性の力が必要という考え方に強く共感しました。女子校の役割に大いに期待したいと思います。
東大へ行きたい女の子が、リスクなく東大を目指せるような、すべての女の子が自分らしい生き方ができるような社会を、大人は作っていきたいですね。

前回の記事「女子校という環境が、女の子の人生を大きく変えていく!」はこちら

おおたとしまささん

おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。