中学受験、親はどこまでやってあげたらいいの?

inter-edu’s eye
前回の記事「中学受験で子どもを追いつめないためには」では、「教育虐待まがい」をする親の素性と、日本の社会状況を踏まえながら、中学受験で熱くなりがちな親が、冷静になるためのヒントをお伝えしました。今回は、中学受験で手をかけすぎず、子どもと距離を置いて見守れるようになるには、どんな心構えでいたらよいかを探っていきたいと思います。

今回取り上げた著書:「追いつめる親 『あなたのため』は呪いの言葉」(毎日新聞出版)

追いつめる親 『あなたのため』は呪いの言葉

成績のことでつい叱りすぎてしまったり、勉強を教えてもなかなか理解できない子どもをつい叩いてしまったり…という経験なら、多くの親にもあるはずだ。もしくは自分がそうされて育ったという大人も多いだろう。教育虐待を受けると子どもにどんな影響が出るのか。教育虐待を受けて育った大人はどんな人生を歩むことになるのか。本書では「あなたのため」という言葉を武器に過干渉を続ける親に育てられ、「生きづらさ」を感じ、自分らしく生きられない子ども側の様々なケースを紹介。子どもが親からいかに解放されるべきか、追いつめてしまった親はこれからどのように子どもに接すれば良いか?お互いがどう自分を取り戻すのかを詳しく解説する。

子どもの中には、自らで育つ力がビルトインされている

教育ジャーナリスト: おおたとしまささん
受験や育児に悩む、お母さま方の気持ちに寄り添ったアドバイスが好評。

インターエデュ・ドットコム(以下、インターエデュ): 著書のサブタイトルにある、「『あなたのため』は呪いの言葉」にドキッとしましたが、子どものためにやってあげることと、見守ることのバランスをとるのは難しいことです。どう考えたらよいのでしょうか。

おおたとしまささん(以下、おおたさん): 大人同士の「あなたのため」は、基本的には、求められていないのであれば、手は貸さないことが、相手のことを思いやる人間関係となります。今の時代、多少のおせっかいは必要とは思いますが。ただ子どもの場合は、できないことだらけで、自分で価値判断ができないから、親が決めて、やってあげないといけないとなりがちです。

しかし、最近の教育学、教育思想の中には、子ども自身の中に自らが育っていける力がビルトインされているという考え方があります。ヨーロッパではこれが主流です。植物は種に、根を張り、葉を伸ばして、花を咲かせるという力がもともとビルトインされています。よい環境さえ与えてあげれば、ちゃんと育ちます。人間も同じで、大人が環境を整えてあげさえすれば、その子らしく育っていけるという考え方です。

一方日本の教育は、これからの世の中はどうなっていくのか分からないので、どういう状況になるのかをなるべく予想して、それに対応するために、なるべく早い段階で学習させておこうという発想です。これは、ロボットにプログラムをインストールして育てていく発想と同じです。 生物は、未知なる状況に接しても、その中で自然と適応するようにできています。だから進化して生き延びてきた。大人からしてみれば、子どもが生きる世の中はとても想像できないけれども、生命の営みからすれば、子どもは必ずそこに適応していけるのではないかと思います。

子どもの人権を踏みにじってまで入れる価値のある学校は一つもない

子どもの人権を踏みにじってまで入れる価値のある学校は一つもない

インターエデュ: 中学受験では、ある程度子どもの手を引いてあげないと進めないこともあり、どこまでやってあげたらよいのかと、悩む親御さんも多いですが。

おおたさん: 中学受験は、基本的にはやると決めてアクセルを踏むのは子どもで、親はブレーキに足を置いておくようなスタンスであるべきだと思います。かといって子どもはなかなかやる気にはなりません。やる気にならなくても、なんとかその気にさせながら最低限やらせるのが中学受験と私は考えます。

しかし、子どもをその気にさせるのは、ものすごいテクニックがいる難しいことです。だから塾に任せる。それは塾の役割で、素人である親がその気に、やる気にさせようと思っても、大概うまくいきません。やる気がない状況を見ると焦りますが、焦って下手に手をかけたところで逆効果にしかなりません。

インターエデュ: 尻を叩いて頑張らせて、何とか第一志望に受かり、親子ともにそれでよかった、という声も聞きます。そうすると親も心を鬼にして頑張ったほうがいいのか、という気持ちにもなってしまいます…。

おおたさん: 入学後、お子さんが楽しく通って結果オーライであればいいですが、そううまくいくとも限りません。そういうご家庭があるからと、同じようなことをして、かなり負荷をかけて第一志望に受かっても、何らかの傷を負ってしまうこともあります。その傷は、第一志望に受かったからといって癒えるものではありません。大人になるまで引きずってしまうこともあるってことを、知っておいてほしいと思います。灘・開成も素晴らしいけれど、やりすぎて、子どもの人権を踏みにじってまで入れる価値のある学校は一つもないと思います。

また、第一志望に受かっても、不登校になるケースが実はよくあります。この場合の不登校は、意志をもっての抵抗、というのではありません。自分の意志を脇においたまま、自分の人生を決められてしまっている生きづらさに対して、無意識の中でこれは私の人生でないと、身体が動かなくなって不登校になるのです。

中学受験での親子関係に影響するのは、夫婦関係!?

中学受験での親子関係に影響するのは、夫婦関係!?

インターエデュ: 受験が迫ってくると、ストレスからヒステリックになる親御さんが増えるようですが、その感情をコントロールするにはどうしたらよいのでしょうか。

おおたさん: 一つは、子どもにあたってしまうのは自分の未熟さだととらえること。子どもの成長や態度にストレスを感じにくい人間になるにはどうすればいいのか、それを考える機会にすることです。自分を押さえるためには、自分がやられて嫌なことはしないという基本に立ち返って、大人と同じように、子どもに人権がある、人権を踏みにじることはとても卑劣なこと、という強い意識を持つことですね。

もう一つは、子どもにあたってしまう原因は、親子という距離の近さからで、親子でも自他の区別がついていれば、あたることはないということです。では、親子でも自他の区別をつけるためにはどうしたらよいかというと、その前段階として、夫婦においても自他の区別をつけることです。

結婚した当初は、自他の区別がつかないから些細なことでけんかをします。そこから、価値観が違ってもしょうがないのだと、徐々に折り合いをつけていけるようになるのですが、そこがうまくいかないのは、お互い同じ考えでなければと思うからです。日本人は、相互理解という言葉を勘違いしています。相互理解とは、相手の考えも自分の考えと同じぐらい重要だと認めること、それだけです。相手の考えに自分は同意をしないけれど、相手はそう考えているよね、という状態をそのままにしておくとことで、考えを同じにすることではありません。

夫婦の間には、距離が近いゆえの葛藤が生じます。そこでトレーニングをしていって、近い関係でも自他の区別がつくように、成長しておかなければならないのです。そのプロセスがあってこそ、さらに近い親子関係においても自他の区別がつくようになるのです。夫婦のプロセスをとばしている家庭は実に多いです。

こうしたことができていないと、中学受験での親子関係にしわ寄せがくるというのは、案外大事な視点かもしれません。

前回の記事、「中学受験で子どもを追いつめないためには」はこちら

おおたとしまささん

おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・麻布高等学校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。

おおたとしまささん最新著書:「受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実」(新潮新書)

受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実

激変を続ける受験の世界。国公私立に海外進学、幾多の塾・予備校…親子の目の前に広がる選択肢は多様化の一方だ。いま勢いのある学校や塾は? 東大生の3人に1人が小学生でやっていたこととは? 受験に勝つ子の「3条件」とは? 東大医学部合格者の6割超が通った秘密結社のような塾がある…? 子どもの受験・進学を考えるようになったら真っ先に読むべき入門書、誰も教えてくれない“新常識”が明かされる。