中学受験で「偏差値」の使い方を誤らないために

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偏差値で高校・大学を決めてきた中学受験生の親御さん世代は、偏差値にとらわれる傾向にあるようです。偏差値での序列で学校の良し悪しを判断したり、偏差値の低い私立中高一貫校を受けるぐらいなら公立へ行った方がいいのでは? なんて議論もあるぐらいです。偏差値はあくまで客観的な指標であり、子どもの学力を決めるものではないのは十分わかっていても、「偏差値信仰」は依然として根強いのが今の現状です。そこで、偏差値とうまく付き合っていくために、偏差値に関する疑問を、森上教育研究所の森上展安先生にうかがいました。

偏差値はそもそも「志望を冷ます」ためのもの

Q. 偏差値はなぜ生まれたのしょうか?

偏差値はなぜ生まれた?

偏差値が生まれた背景には諸説ありますが、1960年代に起こった「教育爆発」で高校へ進学する生徒が倍増した時代、高校受験は、募集定員の2倍、3倍の生徒が受験するという高倍率状態になりました。結果、中学浪人が増え、「15の春は泣かせるな」ということがさかんに言われ、中学生で浪人はなるべく避けるべきであろうという教育者たちの思いから、合格の可能性を正確に測るために「偏差値」という指標が広まっていきました。つまり、偏差値は、生徒たちの熱くなりがちな志望校への思いを、「この学校は難しすぎるよ」ということを客観的に伝えて、「志望の冷却化」を目指すために生まれたのです。

高校受験で全国的に広まった偏差値という指標は、やがて大学受験でも採用されました。その時代に学生だった方は、高校・大学受験において偏差値での学校選びが徹底しており、偏差値が、非常に客観的な指標だという共通理解があります。

Q. 中学受験の偏差値について教えてください。

中学受験においては、東京・神奈川といった一部の地域でしか行われなった時代は、偏差値が必要とされませんでしたが、1990年以降中学受験が全国的に広がって、いろんな学校をさまざまな子どもたちが受けるようになり、もともと定員が厳しいこともあって、偏差値が幅を利かせるようになりました。さらに、偏差値が徹底された世代がちょうど、中学受験生の親世代になったことと、ここ2年、23区内の大学で定員厳格化により、入学者数の絞り込みが行われたこともあって、偏差値が再び猛威を振るい始めています。そういったことが、中学受験にも影響があるのではと思います。

偏差値という客観的な指標が他にない分、あって然るべきだとは思いますが、中学受験生とその保護者は、偏差値の使い道を誤らないことが大切です。中学受験では、子どもの生育差も影響するため、6年生になってぐんと伸びるケースもよく見られます。よって小学4・5年生の偏差値で、それがわが子の実力だと決めてしまうのは、まったく意味がありません。偏差値というのは、子どもの学力の指標ではなく、入試のための学力を知る指標なので、入試に近いところで測る、というのが正しい使い方です。

中学受験での偏差値を正しく理解しよう

Q. 中学受験の模試で偏差値が違うのはなぜでしょうか?

中学受験の模試で偏差値が違うのはなぜ?

まずは、偏差値の原理を知っておく必要があります。偏差値というのは、集団のどのくらいに位置しているかという分散をみるものです。中学受験では模擬試験で偏差値を測ることができますが、模擬試験は塾が実施しているため、塾が母集団となります。塾の集団の中でのランクとなるため、集団のレベルを常に頭においておく必要があります。例えば、学校を基準にすると、SAPIXの試験と、日能研・四谷大塚の試験で、偏差値が8ぐらい異なり、日能研・四谷大塚の試験と首都圏摸試とで、10ぐらい異なります。摸試で合否を正確に測りたいのであれば、志望校の合格者数が多い塾の摸試を受けることです。

親御さんは、まわりの子どもたちとの偏差値の差を気にしていますが、その差は学力の差というよりかは、早くから目的をもって勉強している子どもと、消極的に勉強している子どもたちとの差、つまり「意欲差」であったり、精神的な「成長の差」であったりします。それは、生育環境や、指導者の違いなど、さまざまな要因がありますが、その差が縮まるのは6年生の秋ぐらいです。中学受験を見据えて自覚が芽生えるのがだいたいその時期ですから、そこからが偏差値で測れる入試の学力、ということになります。

Q. 偏差値を上げるにはどうすればよいのでしょうか?

摸試では、80%、50%、30%の合格率という指標も出されますが、合格率80%を目指すために、偏差値を上げなさいと言われても、偏差値は集団値なので、どうやって上げたらよいか分かるはずもありません。では主体的努力で、例えば偏差値50から5上げるにはどうしたらよいか。そこには鉄則があります。

正答率が50%以上の問題をピックアップして、その問題がすべて解ければ、必ず偏差値はだいたい50より上になります。50%というのは、2人に1人ができていて、ちょっと考えればできる問題が多いです。だれでもできる問題で、自分ができなかった問題から攻めていって無くしていく、そうすると偏差値も上がっていく。偏差値を偏差値で治そうとするのは無理です。正答率をあげていくというのが、科学的鉄則なのです。

中学受験では、できることを少しずつ増やしていく、地道な努力が大事です。中にはすぐにできる子もいますが、ほとんどの子はすぐにはできません。何度も何度もやって、ある日ふっと伸びる。これを親御さんもお子さんも待てるかどうかが、中学受験での大きな分かれ目となります。

中学受験を「よい失敗」「よい成功」にするためにできること

Q. 最後に中学受験を目指す親御さんにメッセージをお願いします。

中学受験を「よい失敗」「よい成功」に

すごく勉強したのに徒労感で終わってしまった、落ちてしまった自分はダメな人間だと思って劣等感だけが残った、というように、自己肯定感が持てない状態で、中学受験を終えるようなことは絶対しないことです。自己肯定感を持つために一番よいのは、どこかに受かることです。そして、とってもよいところに受かったと思うことです。その学校を先に見つけることが大切で、子どもに合う学校はどこなのだろうと、とことん突き詰めることです。そのためにも、5年生で第一志望校を決めておくこと。志望校決めとそのスケジュールは親御さんの重要な役割です。

例えば、5年生の段階で偏差値50ぐらいの学校を、子どもにここはとってもよい学校だと思わせて、第一志望にすることも一つの方法です。そこから伸びて、もっと上の学校を目指せれば、それに越したことはありません。第一志望の学校を実力以上の、憧れの学校にするご家庭もありますが、第一志望は実力相応の行きたい学校にし、併願校を偏差値が上の学校にする方がよいでしょう。

また、学校という集団において、成績が下の方ではなく、上の方が自己肯定感を保たれる、という調査結果も出ています。これは偏差値が高い学校でも、低い学校でも同じ結果です。実力相当以上の学校に入れたけど、常に下の方の成績で、居心地の悪さを感じていては、思春期の大事な時期を自己肯定感が低い状態で過ごすことになります。逆に、ご家庭が下に見ていた学校に入ることになり、お子さんがいつまでも学校に親近感が持てないということも、避けなければなりません。

お子さんにとっての居心地の良さを追求して学校選びを行い、第一志望はもちろん、併願校のどの学校へ受かっても、お子さんがよいところに受かったのだと思えるように、親御さんは導いてあげていって欲しいと思います。

~編集部からのひとこと~

もし親も子も偏差値という指標に苦しめられているのであれば、正しく理解することで、その状況から少しでも開放されるのではと感じました。あくまで入試のための学力を測る指標です。とらわれすぎずに上手に使っていきたいですね。その上で、受験日別、合格率80%、60%、40%別の「全国の中学校(中高一貫校)の偏差値一覧」(偏差値データ提供:株式会社市進)をぜひご活用ください。

森上展安

疑問にお答えいただいた先生:森上展安(もりがみのぶやす)さん
森上教育研究所 所長中学受験塾、私立中高一貫校とその父母向けのセミナー開催、ニューズレター発行、リサーチ・コンサルティング業務、またこれに関する執筆、講演活動を行う。