麻布中学試験問題「ドラえもん」で何がわかる?:エデュママリサーチ第5回

ドラえもん登場!の麻布中学試験問題で何がわかる?2013年4月16日

育児・教育ジャーナリスト、おおたとしまささんから、今年の中学受験に関する貴重なメッセージをいただきました。今年話題になった麻布中学の理科の問題「ドラえもんがすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか?(2-問7)」に関するものです。この試験問題に込められた麻布中学校の想いとは?ぜひお読みください。

おおたとしまささん

麻布の入試では、よくとんちの効いた問題が出されます。一見奇想天外な問題でも、問題文をしっかり読めばヒントが見つけられる形式。知識ではなく、課題発見・解決能力、論理的思考力を試す問題が多いのです。

今回は、ドラえもんという「アイコン」を用いた点が新鮮でした。あの問題の元ネタは生物学者・福岡伸一さんの「生物と無生物の間」ではないかと思われます。たまたま福岡先生にお会いする機会があり、問題を手渡すととても喜ばれていました。
福岡先生の模範解答は週刊文春(3月21日付号)の先生のコラムに書かれています。福岡先生の文章は今年の埼玉県の公立高校入試の国語の問題にも採用されていますから、要チェックです。

さて、本題です。入試問題には「こういう子どもに入学してほしい。こういう教育をしたいと思っている」という学校の姿勢が表れます。いわば入試問題は学校から受験生への公開ラブレター。
そのラブレターを読み解くために、受験生は勉強するわけです。
ラブレターに「ドラえもん」を出すことで話題騒然になることは、麻布もある程度「計算」していたとは思いますが、それは、自校のPR効果のみを狙った「したたかさ」ではないと私は感じています。
麻布が入試問題にドラえもんを登場させた目的は、入試問題そのものに注目を集め、現在の中学入試への問題提起をすることだったのではないかと思います。

おおたとしまささん

大学進学実績を売り物にしたり、広告手法を取り入れたキャッチフレーズを並べてパンフレットをつくったり、学舎を飾ったりと、およそ教育の本質とは関係ないところで過当競争を続ける現在の「私学のあり方」や「保護者の学校を選ぶ観点」、「中学受験にまつわる世の中の風潮」。これでいいのだろうか、と訴えているのではないでしょうか。

今回は、ドラえもんが注目を集めたわけですが、ほかにも麻布の入試には「しびれる」問題が多々あります。たとえば社会。
まずコミュニケーション形式の進化についての長文を読まなければなりません。
「少数意見をないがしろにする現在の社会の風潮」や、「インターネット上で、自分と似たような意見をもつ人同士で集まり、違う意見の集団との間に思想的な壁を作る風潮」を痛烈に批判しています。
そして、受験生の考えを問う「正解のない問題」が課されます。
異なる意見をもつ者同士が自由に議論を交わし、理解し合うことを旨とする「麻布の教育」を、見事に表現した入試問題だと思います。

問題に悩む受験生

時間をかけて長文を読み(=他者の意見を受け入れ)、時間をかけて自分の文章で答える(=自分の考えを述べる)。それが麻布の入試であり教育姿勢です。
だから、麻布の入試は午後までかかります。麻布を受けてしまうと最近流行の2月1日の午後入試を受けるチャンスはなくなります。
また、選択式ではなく、受験生が自分の言葉で綴る、想いのこもった答案の採点には時間がかかります。だから最近流行のインターネットによる即日合否発表もできません。
それでも麻布は、毎年の入試に、渾身のメッセージをこめることをやめません。
卒業してからもときおり、入試問題に込められた「変わらぬメッセージ」を見て、母校への誇りを感じるのが麻布生です。

いかがでしたか? 中学受験、そして名門校の奥深さに感じ入ってしまうメッセージですね。おわかりのように筆者のおおたさんも麻布の出身。いまも母校を愛しておられることがよくわかり、なんともうらやましくなりますね。なお、おおたさんには『はじめての中学受験vol.6 「中学受験はかわいそうか?」』にもご登場いただいております。ぜひ、ご覧ください!

<<プロフィール>>おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト、心理カウンセラー
著書『男子校という選択』、『女子校という選択』、『中学受験という選択』、『名門中学の子どもたちは学校で何を学んでいるのか』、『パパのトリセツ』、『男の子 育てにくい子ほどよく伸びる』、『パパのネタ帖』、『笑われ力』、『学習塾白書』(共著)など多数。

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