第3回 今の教育業界を斬る!中学受験指導塾のプロに聞いてみた!
第3回 今の教育業界を斬る!中学受験指導塾のプロに聞いてみた!
inter-edu’s eye
「教育最前線に行ってみた!」では、普段何気なく目にするけど、なかなか行けない教育現場へ、皆さまの代わりに行って取材をしてまいります。第3回では、中学受験指導塾スタジオキャンパス代表であり、教育関係の著書を複数持つ矢野耕平先生にお話をうかがってきました。先生の考える「今の教育業界」と「教育」について色々質問してきました。
今話題のあの改革について訊いてみた!
やらせるのではなく、自ら行うのが勉強
エデュ:まず、最近教育業界で大きな話題になっている大学入試についてどのようにお考えですか?
矢野先生:確かに話題になっていますが、まだ内容があいまいです。多くの大学側もこのあたりに関して、まだ具体的なイメージを持っていないので、さまざまな懸念を持っていると聞いています。
エデュ:大学入試改革を受け、塾側としては何か対策などはありますか?
矢野先生:そもそも塾は学校がないと成り立ちません。つまり、学校の教育がどう変わるかによって塾の形も変わります。ですから、具体的に大学入試改革を受けて、こうしようというのはまだありません。ただ、私の塾は創業以来変わらぬ「軸」があります。
エデュ:それは何でしょうか?
矢野先生:「自ら教わり、自ら育つ子どもに導くこと」です。子どもは一方的に勉強しろと言っても意味がありません。我々は子どもたちに「この勉強面白いな」、「この先生の話が面白いな」と学びの動機づけをおこなうことで、極端な話ではありますが、放っておいても勝手に勉強を進められるような子にしたいのです。
そのために塾では色々な取り組みをしています。一例として、自習室に約600種類の自習プリントを用意し、子どもたちが自分でやるものを選び、分からないところは講師がその都度質問を受け付けるということもやっています。子どもたちが誰に押し付けられるわけでもなく、自ら選択し、自ら考え教わる―これが重要だと考えています。
エデュ:なるほど、それは学校の教育に関しても同じことが言えますね。
矢野先生:そうですね。例えば近年、学校の授業で導入されているタブレット端末ですが、私は学力アップには直接的につながらないと思っています。なぜならそれらは単なるツールに過ぎないからです。ただデジタル機器はいろいろな使い方ができますから、子どもたちが勉強に興味を抱くきっかけの道具としては魅力的です。しかし、どんな最新の機器が導入されても「人が人を教育する」のは不変だと考えています。
母語を身に付けることこそ重要!
英語偏重教育は人格形成に影響が?
エデュ:近年、英語教育の早期化が目立ちますがどうお考えですか?
矢野先生:私が国語を教えているということもありますが、幼少期より英語ばかりに偏った教育を施すのには反対です。国語の教育にこそ力をいれるべきだと思います。言葉は人格形成にもつながります。あるエピソードをひとつ紹介すると、日本に長く住んでいたロシア人が日本語を覚えて帰国したところ、雰囲気が柔らかくなったと言われたというお話があります。
エデュ:それはなぜですか?
矢野先生:日本語は心情を表す言葉や相手との距離感を示すための独特な表現にあふれています。
言葉は人格を育むかけがえのないものです。また、人間は母語で内面と向き合いますから、語彙が不足してしまうといわゆる対人関係を円滑に構築するコミュニケーション能力などに支障をきたします。英語を積極的に学ぶこと自体について反対はしませんが、幼少期はしっかり母語を学んでほしいと考えています。
エデュ:なるほど日本語を学ぶことにより、日本人としての人格が形成されるということですね。
矢野先生:そうですね。私は日本人ほど豊かな感情表現を有している民族はいないという話を聞いたことがあります。母語が独自に持つ言葉を積極的に吸収することで、細やかな心情の持ち主へと成長してほしいと願っています。その上で、国際社会の中で生きていく―それが真のグローバル教育だと思います。
誰かを教育するのはなぜ?その答えは…
先生が出した答えは「死ぬため?」
エデュ:先生は著者としても何冊か執筆されていますが、本を作るうえで大切にしていることはありますか?
矢野先生:私は社会的な意義のない本は出す意味がないと思っています。最近出版した『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』は女子御三家を自ら取材し、校長先生だけでなく、三十名近い卒業生にも直接話を聞いています。中には大胆なことも書いてありますが、それも含めて真実として見てもらいたいです。それをどう受け止めるかは個人個人の判断になりますからね。この本は女子御三家を論じるだけでなく、女子教育の意義についても言及したいという思いがあります。
エデュ:確かにそうですね。私も編集者として同じ思いを抱いています。今後書いてみたい本はありますか?
矢野先生:たくさんありますが、やはり「読む・書く・聞く」能力を育めるような国語の本、そして、女子御三家の次には男子御三家を調べてみるのも面白そうですね。もちろん作るなら表面的な論評で終わってしまうのではなく、教育の本質をしっかり読者に伝えるような本にしたいです。
エデュ:最後に、ずばり教育とは何だと思いますか?
矢野先生:「教育」は何も塾や学校に限った話ではないですよね。世の中のありとあらゆる場面に教育的なふるまいが見られます。保護者が子どもを教育するのは、「わたしたちが安堵して死ぬため」だと考えています。
例えば、幼くて自立していないわが子に、何も教えられないまま、この世を去るのは、とても心残りだと思います。安心して人生を終えられるように人は、一生懸命誰かを教育するのではないでしょうか?会社だってそう。部下を厳しく教育するのは、自分がいなくなっても会社が発展してほしいと願いがあればこそ。学校や塾に携わっている人間は、未来を背負う子どもたちに立派に育ち日本をよくしていってほしい、だからこそ子を教育するのだと私は考えています。
編集者から見たポイント
人が一生懸命に教育するのは「わたしたちが安堵して死ぬため」という発想はありませんでしたが、先生の言葉を聞いて納得しました。また教育現場の最前線で活躍している、国語の先生だからこそ分かる母語を学ぶ重要性は、今の日本に欠けている大切にしなければいけない部分だと感じました。今一度、国全体で考えなければいけない問題かもしれません。今回おうかがいしたのは「スタジオキャンパス http://www.studio-campus.com/」です。熱い先生の授業を受けてみたいと思った方は、ぜひ一度サイトをご覧ください。
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