アプリで学ぶ「立体の切断」。テクノロジーを生かして子どもの学びを「ワクワク」するものに

inter-edu’s eye

川島慶さんと金成東さん
(右)花まるラボ代表取締役 川島慶さん(左)プロジェクトリーダー 金成東さん

アプリやタブレットで学習するスタイルが当たり前のようになってきています。
花まるラボは2016年に図形やパズルで思考力を育むアプリ「Think!Think!(シンクシンク)」を発表。これまでに世界150か国100万ユーザーが利用する大人気アプリとなっています。そして今年、中学入試算数の頻出分野でもある「立体の切断」を徹底的に学べるアプリ「究極の立体<切断>」を発表しました。こちらのアプリもiOS、Android両プラットフォームの教育カテゴリで、リリース直後から大好評を得ています。
開発責任者でもある花まるラボ代表取締役の川島慶さんと、プロジェクトリーダー金成東さんに、開発の経緯とともに、今後の展望についてお話を伺いました。

イメージが難しい「立体の切断」分野こそ、テクノロジーの出番

川島さんは、幼い頃から算数の問題を見て、「設問の数値をこう変えたらもっと美しい問題になるのに」と、問題の分析をするくらいの算数好き。毎年中学入試算数や東大入試数学の問題を解き、日本の中学入試算数には「重要文化財級の美しい問題がある」と熱弁をふるうほど、算数への思いは並々ならぬものがあります。それが長じて、これまで、ベストセラー問題集「なぞぺ〜」の問題制作や、算数オリンピックの問題制作にも携わっています。

そんな川島さんですが、最近の中学受験について、パターン学習化し、徹底的に解法のみを訓練する傾向に思うところがあると語ります。

「中学受験というのは、子どもたちの有限で貴重な時間を割くわけですから、その時間を費やしてよかったと思えるような、一生に彩りを与えるような学習になればいいと思います。その一つの手助けとして、われわれもテクノロジーを使って、何か貢献できないかと思っていました」(川島さん)。

しかし、なぜ「立体の切断」に着目したのでしょうか。そこには川島さんの中学受験指導経験がありました。

「『立体の切断』は、苦手意識を持つ人が多い分野です。東大生ですら、立体分野ははじめから捨てていた、とか、よくわからず勘でやっていた、という人も少なくありません。なぜかというと、『立体の切断』の本質はシンプルなのですが、その本質自体が、板書や問題集などではイメージすることが難しいものだからです。それにも関わらず、開成や麻布、駒場東邦、ラ・サールなどの難関校を中心に、必ずといっていいほど出題される頻出分野です。分からないから『捨てる』となると、例えば開成のように大問として出題される場合、その大問自体を全て捨てることにもつながってしまうんです」(川島さん)。

頻出分野にもかかわらず、従来の勉強方法ではイメージが難しい「立体の切断」。塾で習って、苦手であればさらに家庭教師をつけて補習をして試験に臨んでも、本番で少しひねりの効いた問題が出たらたちまち解けなくなってしまう子どもたちが多いのです。

そこで川島さんは、この「立体の切断」こそ、アプリを用いて「イメージできるようになる」ことに大きな価値があると考え、アプリ化を決断しました。

「切断を描く」こと自体を楽しめるようなアプリに

ところでみなさんは「立体の切断」をどのように習ったかご記憶でしょうか。記者の小学校時代は、よく豆腐をイメージしてそれを切って…というような感じで習ったような覚えがあります。しかし単純な形での切断であればよいのですが、受験レベルの複雑さとなると、もはや豆腐を切るというイメージでは無理です。

今回、「究極の立体<切断>」プロジェクトリーダーを務めた金さんは中学受験の経験はなく、「立体の切断」問題については、見たことあるなというくらいの記憶しかなかったとのこと。そこで今回プロジェクトを進めるにあたり、改めてその分野を勉強。その過程で感じたのは「切断面を描くこと自体に楽しさがある」ということでした。

そこで「やっているうちに楽しくなってワクワクするし、どんどん進めたくなる」そう思ってもらえるアプリを、と開発を進めていきました。

「工夫したポイントは大きく二つあります。ひとつは、いかに気持ちよい操作にできるか、ということ。通常は紙に鉛筆で線を引いて解くので、タブレットの上であれば、指でスワイプすることで線を引けるようにしようと思っていたのですが、実際にお子さんにテストしてみると、なかなか指の動きと線が表示されるスピードが連動しない。線が引けるスピードの方が思考のスピードよりも遅くて、気持ちよくない。そこで、まず『同一平面』『平行』『延長』という『立体の切断』の『3つの原則』をボタン化しました。そして、線を引きたい面に適用できる原則をボタンで選び、面をタップすると線が引けるという形にしたんです」

立体切断の3つの原則
「立体の切断」の「3つの原則」

「もう一つは、原則が同じ面に複数適用できるパターンがある場合、いずれも認識できるようにし、線を引く順番もお子さんによってまちまちなので、どの順番で引いても原則に合っていれば引けるようにしました。そのロジックを組むのがなかなか大変でしたが、それによってあらゆるアプローチに対応できるようになりました」

線を引きたい面に適用できるボタンを選び、タップすると線が引ける。
「究極の立体<切断>」の問題より 線を引きたい面に適用できるボタンを選び、タップすると線が引ける。
切断面が描かれる。立体は指でスワイプすることで自在に回せる。
切断面が描かれる。立体は指でスワイプすることで自在に回せる。
ノーミスで制限時間内にクリアすると3つ星獲得。3つ星でなくても、クリアすれば次の問題に進むことができる。
ノーミスで制限時間内にクリアすると3つ星獲得。3つ星でなくても、クリアすれば次の問題に進むことができる。

収録問題は、過去10年分の中学入試問題を徹底分析し、頻出から難問まで合計100問を網羅。アプリなので、すべての問題に何度でもチャレンジできます。
紙ベースで学ぶのとは違い、三次元で、自分で立体を動かして「切る」ことを、徹底的に反復学習することで、これまで高度な空間認識能力とイメージ力が必要だった「立体の切断」について徹底的に身に付けられます。

「『立体の切断』は、中学校以降で習うような、複雑な立体の体積を求める積分の理解にもつながります。中学受験という枠を超えて、この先の学習につながる土台にもなるんです」(川島さん)

中学受験層が主なターゲット。小学校低学年の子どもたちにも大好評!

そうして7月に発表された「究極の立体<切断>」。今までなかったアプリだけあって、発売と同時に話題となり、リリースしてすぐに、教育アプリ分野でiOSでは3位、Androidでは1位になりました。教育アプリで数千円レベルというと、英語や辞書アプリが大半を占める中、算数のしかも一単元でのアプリでは異例。TwitterをはじめSNSでも「こういうのを待っていた」というコメントが寄せられ、さらにシェア数も次第に増加したとのこと。反響の大きさがうかがえます。

さらに、金さんや川島さんにとって予想外の反応だったのが、小学校低学年以下の子どもも楽しんでいるということです。

「受験を意識するような、小学4〜6年生に最もニーズがあると考えていましたが、ボタンとタップの組み合わせなので低学年の子でも試行錯誤しているうちに線が引けるようになっていくんですね。低学年の子たちまで今このアプリをやって、しかも楽しんでどんどん進んでいるというご意見もいただいており、とても嬉しいです」(金さん)。

「シンクシンク」を通して、ワクワクできる学びの場が提供できることを実感

同社の学習アプリとして現在中心となっているのが、冒頭でも触れた「シンクシンク」です。リリースから3年、2017年4月には全世界を対象とした「Google Play Awards 2017」のApp for Kids部門でもファイナリストに選出され、同年12月にGoogle Play「ベスト オブ 2017」において家族・子ども向けのベストアプリを表彰する「ファミリー部門」に入賞。さらに今年はGoogle Play Awards 2019「Best Social Impact」部門のTOP5に選出されるなど世界的に高い評価を受けています。

日本はもとより、世界各国で使われている「シンクシンク」ですが、学術的にもその効果が証明されているのです。

花まるラボでは、JICAの中小企業支援の枠組みにおいて、シンクシンクを用いてカンボジアの初等教育に思考力教育を導入するプログラムを推進しています。その中で、現地政府の協力も得て、シンクシンクの効果を実証する研究を実施。1,500人の小学生を対象に3か月間、半数は「シンクシンク」を毎日数十分間実施、もう半数は実施しない、というランダム化比較実験を行ったところ、国際的な学力調査(TIMSS)やIQテストの結果が、シンクシンク実施層の方が偏差値にして6ポイント以上高かったそうです。
「シンクシンクの社会への取り組み:カンボジアにおける思考力教育導入」

「それ自体もすごいことなんですが、なにより一番自分の心に残ったのは、1年生のクラス40人が『シンクシンク』をやりはじめて1か月くらい経った頃、これまでよそ見したりつまらなそうにしていた子どもたちも含めて、全員がすごく集中して意欲をもって勉強に取り組むようになっていたことです。そういう空間が作られている、意欲を引き出すような学びを提供できると確信できたことが、とても大きなことでした。」(川島さん)。

知的なワクワクを多くの子どもから引き出したい

学力=意欲×思考力×知識

川島さんが「意欲」に着目する背景には、こんな考え方がありました。

「私たちは、学力というものをこういう風に捉えています。

学力=意欲×思考力×知識

この場合、『意欲』には、いわゆる非認知能力と呼ばれるようなものも含まれます。学力とはこうした数式で表すことができ、特に幼少期の教育においては、『意欲』を引き出し、育てることが何よりも大切だと考えています。
有名なフレーズですが、孔子も論語において、『何かを得意になりたかったら、まずは自発的にやること。もっと得意になりたかったら、それを好きで好きでたまらない、という境地に達すること』という言葉を残しています。インターネットにたくさん教材がある時代だからといって、それを調べる意欲が無い子は何もしません。やりたいことをやり続けられる子は、どんどん自分の興味を追求していくことができるし、シンクシンクはまさにそういう『やり続けたいと思える意欲』を引き出したいと思って作りました」(川島さん)。

さらに川島さんは、これからは、学力や思考力の枠組みからさらに広げて、「知的なワクワク」を多くの子から引き出したいという思いがあるとも語ります。

「私たちは、考えることの楽しさはもちろんのこと、感じることや、作り出すこと、表現すること、そういった楽しさも含めて、『知的なワクワク』と定義しているんです。本来子どもたちは誰もがそういうものを持っていて、それをもっと引き出すようなサービスやプロダクトを提供していきたい。来年くらいには具体的な発表ができると思います。」(川島さん)。

「知的なワクワク」を引き出すのがどんなプロダクトなのか、聞いているこちらも、それだけでワクワクする思いがします。

今の時代の子どもたちにできることを大人たち全員でアップデートする

現在、行政や企業が中心となり、学校をはじめとする教育現場では、EdTech(※)を用いた学習のアップデートが進められています。2020年には生徒一人ひとりにタブレット端末を配布するという計画も進んでおり、今後、国内のEdTech市場は今まで以上に活況を呈するでしょう。

※EdTech(エドテック):Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語。テクノロジーにより教育にイノベーションを起こすビジネス領域として世界中で注目を集めており、新規事業者の参入が相次いでいる。

そうしたEdTech市場の今後について川島さんにお伺いしたところ、「現在、主に注目されているのは、テクノロジーによって学習の効率化や最適化を行うことかと感じます。それも現在の社会の中では大切なことだと思います。でも、私たちは、その時代にできるあらゆる手段で、子どもたちのワクワクを引き出す、そういう方向にテクノロジーを使いたい。そうすることで、将来そうして育った子どもたちこそが、想像もつかないようなイノベーションや、素晴らしい未来を生み出していくと思っています」とのこと。

これまでの、黒板を前に先生一人が数十人の生徒に向かって一斉に教えるというスタイルは崩れ、これからはタブレットやアプリなども含めた、生徒一人ひとりに合わせた学び方ができる環境整備が、急速に進んでいくでしょう。そうしたスタイルは、子どもたちが潜在的に持っている、非認知能力、好奇心、挑戦心など、さまざまな可能性を引き出すきっかけになるようにも思います。

大人たちがテクノロジーや柔軟な発想で子どもたちをワクワクさせた先に、彼らが作り出す予想もできない未来が待っている。同社の取り組みはその大きなきっかけを作っている、そんな印象を受けた今回のインタビューでした。

究極の立体<切断>
https://cubecut.ultimate-math.com/

花まるラボ
https://www.hanamarulab.com/


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