日本の教育が大きく変わる今、知っておきたい“地域留学”という選択肢(前編)

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東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年は、実は日本の教育にとっても大きな節目の年となります。大学入試改革、小・中・高の学習指導要領の改訂が行われ、学校教育が多様化することが予想されます。そんな今こそ知っておきたい“地域留学”という選択肢について、その先進校である離島の学校を例にご紹介しましょう。(文/笹原風花)

“答えのない時代”を生きる子どもたちには、“自ら問いを立て、本質に迫る力”が求められる

AIなどの技術革新やグローバル化の進展により、今後はさらに変化が激しく予測困難な時代がやってきます。研究者からは、「2011年度に小学校へ入学した子どもの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就く」(キャシー・デビッドソン)、「今後20年程度で、総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」(マイケル・オズボーン)というコメントも出されています。

そんな“答えのない時代”を生きる子どもたちにはどのような資質・能力が求められ、それを身につけるためにはどのような学びが必要なのかが議論され、学習指導要領が約10年ぶりに改訂されることになりました。小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校では2022年度から全面実施されます(現在は移行期間中)。

新しい学習指導要領では、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力など」、「学びに向かう力、人間性など」の3つを資質・能力の柱とし、これらを総合的にバランスよく育んでいくことを目指します。学び方も「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」とされ、授業も生徒主体で協働的な学び合いの場へと変わります。

また、高校では新たに「総合的な探究の時間」が必修科目となります。「探究」というのは、自ら課題を設定し、それについて調べたりフィールドワークを行ったりしながら知識や情報を集め、集めた材料から思考を深め、解決策を創造的に考えていく、というプロセス重視の学びです。まさに、“答えのない時代”に求められる“自ら問いを立て、本質に迫る力”を育成する学びだと言えるでしょう。なお、探究学習はプロジェクト学習(PBL)と呼ばれることもあり、近年は積極的に取り組む学校が増えています。

こうした動きは大学入試改革とも連動しています。大学入試も「知識・技能」の有無を問う問題から「思考力、判断力、表現力」が求められる問題へと変わります。入試制度においてもいわゆる推薦・AO入試(2020年度からは、推薦は「学校推薦型選抜」、AOは「総合型選抜」と名称が変更)が増えるなど多様化が進み、高校3年間の学びを評価に加える動きもあり、「学びに向かう力、人間性など」の部分がより評価されるようになります。

課題先進地域で行う探究学習を通して、答えのないリアルな課題に主体的・協働的に向かう

このように日本の教育は今、大きく変わろうとしていますが、約10年前から地域と連携したプロジェクト学習を実践し、子どもたちの“自ら問いを立て、本質に迫る力”を育てることに注力してきた学校があります。

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島根県隠岐諸島のうち、西ノ島町・海士町・知夫村の3島2町1村を「島前」と呼ぶ。本州から60km離れており、フェリーで3時間半の距離にある

島根県の離島、隠岐・島前(どうぜん)にある島根県立隠岐島前高校です。人口減少により廃校の危機にあった約10年前に、学校・地域・行政が連携した「隠岐島前高校教育魅力化プロジェクト」が発足。「島留学」と称して全国から生徒を募集し、多様な背景を持つ生徒が学び合う学校へと変化を遂げました。生徒数はV字回復し、今では離島・中山間地域の教育魅力化や地方創生の先進地域として知られるようになっています。

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地域の祭りや清掃活動などに積極的に参加することで、多世代間で学び合うことの価値に気づく

隠岐島前高校の教育の特色の一つが、地域の課題に高校生が地域の人と一緒になって取り組む探究学習です。3つの島からなる島前地域では人口減少や高齢化が進んでおり、日本全体が数年〜数十年後に直面するであろうさまざまな問題が、すでに顕在化しています。そんな“題先進地域”で行う探究学習を通して、主体的に課題を見つけ、多様な人々と協働しながら、答えのない課題に粘り強く向かい本質に迫る力を身につけていきます。

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チームによる協働的な探究学習では、役場の職員に来てもらいアドバイスを乞うチームも

この探究学習は「夢探究」と名付けられており、チームでの探究活動と自己についての内面的な探究とが並行して進められます。自分は何に興味があるのか、どんなことを大切にしたいのかという問いを常に持ち、生徒同士で話し合う機会も多く設けています。2年次の冬には全員がシンガポールへ海外研修に出かけ、自分たちが取り組み実践した地域課題について現地の大学生の前で発表を行います。さらに3年次には、これからどうなりたいのか、何がしたいのを深め、自らの進路選択につなげていきます。

ローカルとグローバルを往還しながら“グローカル”に学びを深める

隠岐島前高校では、地域に根ざしたローカルな学びを実践する一方、グローバルな視点を養うことにも力を入れています。文部科学省のSGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定を受け、ブータン、ロシア、エストニアなどと連携したプロジェクト学習を行い、生徒を現地に派遣。毎年、海外からの留学生も受け入れています。目指すのは、ローカルとグローバルを往還しながら学びを深める“グローカル”な学び。隠岐島前高校のある海士町(あまちょう)はJICAと協働でプロジェクトを進めており、海外からの視察者も多く、高校生にとってもグローバルな視点は日常的なものになっています。

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遠隔授業の様子。スタッフがモデレーターを務めながら進めていく

こうした学びや活動を支えるものの一つが、充実したICT環境です。男子寮「三燈寮」や公立塾「隠岐國学習センター」には大型のプロジェクターなどの最新のICT機器がそろい、宮崎や埼玉の高校生とつないでディスカッションをしたり、青年海外協力隊のいる途上国とつないで交流をしたり、日本科学未来館の科学コミュニケーターの講義を受けたりと、生徒にとって遠隔交流は日常的なものとなっています。テクノロジーが発達している今の時代において、離島であることのデメリットはほとんどありません。

公立塾で行う個別最適化の学習指導で、生徒一人ひとりの希望進路を実現する

学習面のサポートも充実しています。公立塾「隠岐國学習センター」には生徒の7割強が通い、それぞれの学力や進路に合わせて個別学習を行なっています。

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島生まれ島育ち、島留学生、海外からの留学生、そして地域の大人も交え、多様性の中で”本質に迫る力”を養う

担当スタッフが週1回面談を行い、生徒一人ひとりの学習進度や理解度を確認。目標設定や学習内容についてアドバイスをしながら、生徒の学びや挑戦してみたいことに伴走します。生徒の進路は多様で、就職する生徒も、大学・短大や専門学校に進学する生徒もいます。それぞれの進路決定においては生徒の意志や主体性を何よりも重視し、スタッフとの対話のなかで「なぜその進路なのか」を深めていきます。高校と密に連携した進路サポートで、AO・推薦入試のほか一般入試で大学に合格する生徒も多く、大学入試に明るいスタッフが高校の教員と協働して入試対策を行います。

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隠岐國学習センターでの夢ゼミの様子。場の進行も基本的には生徒が主体的に行う

学習センターには、個別学習のほかに「夢ゼミ」という時間があります。何をやるかは学年ごとに決め、地域の人を講師に呼んでプロジェクトを行ったり、地域の人も参加できるイベントを企画・運営したりと、生徒主導で進めていきます。この活動も、高校生にとっては大きな学びの機会となっています。

★後編では、実際の高校生活の様子や地域と学校との関係性、さらに隠岐島前高校の肝となる“高校生を取り巻く大人たち”の存在についてもご紹介します。

笹原風花 (ライター・編集者)
奈良県出身。京都大学文学部(考古学専修)卒業。教育系出版社で大学受験情報誌の制作に携わったのち、制作会社を経て2014年に独立。取材・執筆分野は教育や学び、子育て、ワークスタイルを中心に多岐にわたる。プライベートでは2児(7歳・4歳)の親として、我が子の子育てや教育に悩む日々を送る。


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