未来をつくる教育フォーラム2019より 2030年に向けて教育に必要なものとは?

inter-edu’s eye
2020年の教育改革がもう目前に迫った今、教育界ではさらにその先を見据えた“未来の教育”のあり方を探ろうとする動きが活発になってきています。先日、当メディアでは「未来の先生フォーラム」についてレポートしましたが、今回レポートするイベントは10月6日(日)、東京・御茶ノ水「ソラシティ」にて開催された「未来をつくる教育フォーラム」(主催:株式会社日本コスモトピア)です。
子どもたちをめぐる教育環境が大きく変わる中で、教育関係者、保護者、子どもたちが集い、どんなことが変わろうとしているのか一緒に考えを深め、共有することを目的に開催された同イベント。編集局Kがレポートします。

これからの必要な力はデジタル時代を生きる力を示す「DQ」

「未来をつくる教育フォーラム」はこれまで「2030年を見据えて今の日本に必要なもの」を基軸とし、2017年より開催してきました。3回目となる今年のテーマは「未来を切り拓く人材育成のために…」。「世界基準の生きる力を育む」をテーマにプログラムが展開されました。

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会場では「Kid’s プログラミングラボ」による小学生プログラミング体験ワークショップも同時開催

カンファレンスの1つ目は、「Ryukyufrogs」を主催する株式会社FROGS代表取締役/CEO 山崎暁氏が登壇しました。
「Ryukyufrogs」とは沖縄から、毎年シリコンバレーに中高大学生10名を派遣するプログラムで2008年からスタート。学生たちは約半年間の高度な研修、シリコンバレーに10日間派遣するなどの研修プログラムを実施することで、アントレプレナーシップを身につけたハイブリッドイノベーター型人材育成を行っています。10年間の活動において延べ83名の中学生から大学生が参加してきました。

前半では研修プログラムやシリコンバレー派遣の様子、さらにこれからの子どもたちに必要なスキルとは何かについて話がありました。中でも印象に残ったのが「これからは『DQ』がますます重要なキーワードになる」というもの。

これまで「IQ(知能指数)」が高いほど優秀と見られてきました。90年代に入ると、IQだけでなく「EQ(Emotional Quotient)」心の知能指数も重要だと言われるようになり、さらに最近では「DQ」の能力の高さも重視されるとのこと。

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DQに必要な8つの要素

DQとはDigital Intelligence Quotient(デジタル知能指数)の略。いわばデジタル時代を生きる能力と言えるでしょう。
日本の子どもたちはこのDQが欧米各国と比べて低いとのこと。否が応でもデジタル社会で生きていく今、DQで必要とされる8つの能力(写真)は子どもだけでなく大人にも必要な能力なのかもしれません。

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さらにRyukyufrogsに参加し、現在は慶應義塾大学に通う8期生2名、明治大学に通う10期生1名も登壇。カンファレンス後半はこの山崎氏と3名の学生たちが会場内の4箇所に分散し、観客も交えたトークセッションが行われました。

参加者はそれぞれ聞きたい場所に行き、時間が来たら次に移動を繰り返しながら、4名全員の話を聞くもよし、一人の話をじっくり聞くもよし、と自由なスタイルで参加していました。

他者とのつながり、社会課題の解決に向けて注目の「SEL」

2つ目のカンファレンスは「自分と社会が繋がる学びSELでSDGsの学びを深める」がテーマです。

さて、ここでまた新たなキーワードが出てきました。
「SEL」とはSocial Emotional Learningの略。日本では「社会性と情動の学習」と呼ばれている教育アプローチです。自分と他者の気持ちや思考、状態への「気づき」、「つながり、良好な関係性を築く」、「思いやりを持つ」、すなわち自尊感情と社会スキルの向上を目指す学びのことを指します。30年前に北米で犯罪を犯してしまった若者を社会とつなげるための学びのアプローチとして開発され、日本でも20年ほど前から徐々に取り入れられています。近年、SELには非認知能力を高める効果があり、特に問題発見・解決能力に効果があるとされています。

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登壇した下向依梨氏はペンシルベニア大学教育大学院で学習科学・発達心理学の修士号を取得。このときSELと出会ったそうです。「より良い社会をつくるための市民、”チェンジメーカー”を育てるためのアプローチとしてSELは注目されています。私たちもこの活動を広めるため今年、一般社団法人日本SEL推進協会を立ち上げました」と下向氏。

カンファレンスではSELの最新のアプローチとともに、SELを実感する具体的なワークも行いました。

SELは言葉どおり情動(Emotional)というなかなか言葉で伝えづらい状態を含めての学習方法です。下向氏は「先生自身がSELのプログラムを体験することでSELを理解していって欲しい」と言います。さらに「問題発見・解決能力への効果はSDGsで掲げられている課題解決にもつながるのではないかと考えている」とも語りました。

持続可能な開発に向けて、17の目標(課題)が掲げられているSDGsは、一つの課題をクリアするだけではなく、関連した課題も含めて解決していく必要性があるように思います。そのためには社会を俯瞰して考え、持続可能な社会を作るチェンジメーカーを育てることも必要な時代になっているのでしょう。

2039年にタイムスリップ!?「未来同窓会」に集った“昔の子どもたち”は?

最後は一風変わった公開会議、子ども白熱会議です。この子ども白熱会議は、未来の社会を担う子どもたちが議論を通して「共にアイデアを創る力」を養う学びの機会として、一般社団法人自立学習推進協会が4年前より実施しています。今回は元TBS報道キャスター下村健一氏(現・白鴎大学特任教授)が進めているプロジェクトである未来同窓会とのコラボレーションを試みました。

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登壇した子どもたちは、20年後、久しぶりにみんなが集まり同窓会に出席するという想定なので、29歳〜31歳になっている設定です。それぞれ、どんな仕事でどこに住んでいるのか、なぜその職業についたか、家族構成などを紹介していきます。

海外留学して塾の経営者になっていたり、ジュエリーデザイナーやインテリアデザイナー、恐竜を研究するため古生物学者になっていたり、火星で二酸化炭素の研究をしているなどさまざま。

職業名だけ聞くと、今(2019年)でもあるような職業だなと思いきや、その背景は意表をつくものも多く、例えば古生物学者になっているO君は副業でeスポーツ選手として活躍し、オリンピックで5位入賞(20年後にはeスポーツもオリンピックの正式種目になっているらしい)、二酸化炭素の研究をしているA君はなぜ火星で研究しているのか、というと、「地球がうっとおしいくらい暑いから地球をクールダウンして休ませる」とのこと。そして全員が海外、さらには地球外で暮らした(あるいは暮らしている)経験があるという設定でした。

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さて、それぞれの職業が出てきたところで下村氏から、どんな出会いがあった?今の仕事はうまくいってる?大変だったことはない?という質問に、子どもたちはアドリブで即答していきます。「木星のジュエリーを作りたい」と話したK君には、火星に住んでいるA君とコラボできないか?また自社ビルまであるそうで、それなら塾経営しているT君や、Jさんにスペース貸しできるんじゃない?恐竜ジュエリーとかどう?と、彼らの職業を次々に関連づけ、想像上の話であっても次々に話がつながり、本当にそのコラボレーションが実現しそうな雰囲気に。まるで一つのドラマができ上がっていく過程を見ているようで、話しを聞いている側の私も、ワクワクした気分になりました。

下村氏は「こうやってつなげながら、ぐちゃぐちゃに絡み合いながら作っていくのが“未来”です。私は、人生の坂をのぼるときに2つの想像力があると思っている。1つは良い想像力。これは上に引っ張り上げる力がある。もう1つは、悪い想像力。でも悪い想像力は後ろから支える力になる」と語り、さらに「これは大人が忘れてしまっていることですが、もう一つ大事なことは、登山道はくねくねしているのが当たり前で、未来への道もくねくねしているものなんですね」とも話しました。

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子どもたちは20年後の自分たちがなぜその職業についたのか、さまざまな経緯を経ての”今”であることを当然のように考え、語っていました。20年という間での経験や、出会いによって、その後の自分を形作っていることを自然と感じているかのようです。まさに一本道ではなくクネクネとしながら進む、できるだけ最短の1本道をつい想定しがちですが、曲がることこそ重要にも思えました。

大人が必要なのは変化する教育へのアップデート

3つのカンファレンスを通して、未来に向けての人財育成には、さまざまなアプローチがされており、そのどれもが進化系であるということ。フォーラム閉会の言葉では、「子どもたちの未来を可能性・力を大人が決めつけてはいけないと感じた」という言葉がありました。

従来どおりの方法だけに囚われてしまうと、拡げられるはずの可能性を遮断しかねないのが現代。新たな教育アプローチについてや、子どもたちの発言を聞いていると、われわれ大人は、子どもたちに対して、また教育に対しての考えを常にアップデートしていかなければいけないと強く感じたフォーラムでした。


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