「子育て」を生理学の視点から捉えると、もっと楽しくなる!

inter-edu’s eye
子育てや子どもの教育に行き詰まると、「なんで言った通りにできないの!」とイライラしたり、「やり方を間違ってしまったのだろうか…」と自分を責めたりしてしまうことがありますよね。子育てにプレッシャーを感じず、楽しくするにはどうしたらよいのでしょうか? 実はそのヒントが、「無理なく着実に才能を伸ばす! 脳に任せるかしこい子育て」にありました。
本の著者、ユークロニア株式会社代表の菅原洋平先生に詳しく話をうかがいました。

生理学で考える子育て、なぜ「睡眠」から?

行動を変える「睡眠マネジメント」という考え方

菅原洋平先生: 作業療法士・ユークロニア株式会社代表・アクティブスリープ指導士養成講座主宰
国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許を取得。民間病院精神科勤務後、国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事し、脳の回復には、睡眠が重要であることに着目。その後、睡眠改善をもとに社員の健康や人材開発に関するコンサルティング事業を行う。

インターエデュ・ドットコム(以下、インターエデュ): 心理学で考える子育てが一般的ですが、本書は、生理学の視点が軸になっていますね。とても新鮮ですし、睡眠の話から始まっているのも面白いと思いました。

菅原洋平先生(以下、菅原先生): 睡眠の話を最初に持ってきたのは、子どもの行動を変えるには、その子の睡眠のとり方を変えるのが一番手っ取り早いからです。教育方法はさまざまですが、どんな素晴らしい教育方法でも寝不足でぼんやりしてしまっていては十分効果が得られません。眠らない子がいないように、眠ることは、脳の働きを高めるために私たちが共通して持っているツールです。これをフルに活用します。

たとえば、子どもから「眠れない」と聞くと「何か悩みでもあるのか」と考えるのが心理学の視点です。それに対して生理学だと、眠れない理由は眠り始めに体温が下がっていないのだ、ということになります。悩みを解決することは難しいですが、体温のリズムを整えてあげることなら簡単にできる。生理学を使って簡単なことから子どもの行動を変えてみよう、という考え方です。

子どもの「睡眠」と「子育て」の接点とは

インターエデュ: では、子どもの睡眠についてですが、親が早く寝なさい!と言ったところで、寝ないですし、朝起きると機嫌が悪くて、どうしたらよいものかと悩んでいる親は少なくないです。

菅原先生: 小学校で行っている親子向けの睡眠の授業では、「早く寝なさい」と親が言えば、「なんで?」と子どもは聞き返します。でも親は答えられない。「その方がいいに決まっている」と親は言いますが、理由がないことを、子どもはできません。なので、理由を説明しましょう、というところから話は始まります。寝ることで何が起こっているのか、寝ることでどんなよいことがあるかを知って始めて、能動的に睡眠を捉え直すことができます。

それと、規範とか規則正しさ、義務とか律する力、睡眠をそういうジャンルに持ってくるのは、もうやめましょう、24時間社会を生きる技術として睡眠を教えましょう、ということを言います。私は、子どもが上手に睡眠を使いこなせるように、育ててあげるべきではないかと考えています。睡眠は技術なので、教わらなければ育たない。わたしたちは教えられていない国民で、海外では教わっています。そこで、親が教えられるようになりましょうというのが、最初のメッセージとしてあります。睡眠を教えられれば、子どもは睡眠を自分でコントロールできるようになり、生理学の課題はクリアできる。気持ちのコントロールよりは睡眠のコントロール。生理学の視点から考えれば、子育てはもっと楽にできる、ということをつかんでもらえるのではないでしょうか。

インターエデュ: なるほど。睡眠から子育てを考えると、子どもの行動を変えるにはどうしたらよいか、分かってくる気がします。

菅原先生: 睡眠は技術なので、大人も子どもも、睡眠という技術習得を共通課題にできます。睡眠トレーニングを通して、親自身に自分では気づかない先入観があって、それによって子育てが負担になっていることに気づけます。

分かりやすい例として、小さいお子さんを寝かしつけるときにベッドで絵本の読み聞かせをしない、ということがあります。ベッドで読み聞かせをすると、子どもの脳がベッドは読書をする場所だと記憶してベッドに入ろうとするたびに読書の準備をして臨むようになってしまいます。だから、読み聞かせはベッドの外でして、眠くなったらベッドに入ることを教えなければなりません。私たち親は、本当は一人で寝られるように育てたいはずなのに、目先のことだけ見ていると、反対の結果を生んでしまうのです。

親が子どもを変えるのではない。子どもが自分で行動を変える

子どもが自分で変わっていくための親の関わり方

インターエデュ: 「子育てを生理学から考える」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。

菅原先生: たとえば、子どもが何かを叩いていたとして、普段なら「やめなさい」と怒鳴ったり、それでもやめずにいると「私をわざと怒らせようとしているな」とイライラしがちです。でも、生理学で見ると、子どもはどれだけの力で叩くとどうなるのかを実験しているので、子どもの脳ではその行動で何を感じたかに注目しよう、という発想になります。子どもの脳からの視点だと、叩いて手が痛かったからやめよう、叩いても動かなかったからボールなど動くものを叩いて遊んでみよう、となるので、無駄にイライラする必要はなくなります。さらに、自分の体に起こったことを親の声掛けで理解できたので、手が痛くなるような物は自ら叩かなくなります。

ママ友が集まった場面でこのような対応をするのは難しいと思いますが、家で子どもが不可解な行動をしたときがチャンスです。「どうだった?」と声をかけてみれば、子どもは自分の行動の意味を理解しやすくなり、世間体を気にするような公の場では、不可解な行動はしなくなるはずです。

子どもは「ただいま実験中」。自分で答えを出すプロセスが大事

インターエデュ: 子どもが10歳くらいになると、身についてしまったよくない行動を変えるのには、すごく時間がかかるように思いますが。

菅原先生: 親の言うとおりに行動を変えるのは難しい、ということだと思います。これは、私たち大人でも同じです。上司から言われたことで行動を変えるのは難しいですが、自分から興味をもって行動するときには自然に行動は変わります。私たち親は、子どもの行動を変えたいと思う場面がありますが、無理やり今の行動を変えさせるより、もう少し先の視点をもって、自分で自分の行動を変えられるようにサポートしてあげるほうが、これから先、親自身が楽になります。

子どもは「ただいま実験中」なんです。やってみたらどうなったかということを積んでいって、自分にとっていい方法を選んでいく。そういう感覚をつかんでいくことが大切です。

親は、答えが分かっているからとはいえ、「結果はこうなるよ」と伝えたら、子どもは面白くないですよね。それに、答えだけもらうと、トラブルが起こった時や、間違ったときに戻れるところがなくなってしまいます。実験していろいろ分かって答えを導きだせれば、うまくいなかったとき、ここに戻れば…となる。プロセスを経験させてあげることが大事です。

インターエデュ: 最後に、親御さんに向けてメッセージをお願いします。

菅原先生: 親御さんに生理学からの視点をお話しすると、「気持ちが楽になった。今日からすぐにやってみようと思った」という感想をよくもらいます。自分の行動を、性格とか才能とか育ち方のせいにしてしまうと自分を変えられるチャンスを逃してしまいますし、何より息苦しくなります。それは大人も子ども同じです。毎日の生活を、子どもが実験している場面だととらえ直すと、子どもが「分かった!」と楽しそうに行動を変える場面に遭遇できるはずです。自分の脳に何が起こったのかが分かれば、面白くなり、能動的に行動は変わっていきます。自分も子どもも一緒に変わっていく面白さを、ぜひ実感していただきたいです。

編集者から見たポイント

子どもが言った通りに行動しなかったり、良かれと思ってやったことが上手くいかないとき、親は自分を責めてしまい、子どももつらい思いをします。それは、子どもを操作しようという気持ちがあるからなのではと、菅原先生の話を聞いて気づきました。子どもが何を見て、どんなことを感じているのか、観察し、うまく導いてあげると、もっと子育てが楽に、楽しくなるかもしれませんね。その具体的な方法が多数紹介されているのが本書、「無理なく着実に才能を伸ばす! 脳に任せるかしこい子育て」。すぐに実践できる内容ばかりなので、興味を持った方はぜひお手に取ってみてください。

無理なく着実に才能を伸ばす! 脳に任せるかしこい子育て

無理なく着実に才能を伸ばす! 脳に任せるかしこい子育て
すばる舎刊
作業療法士(=リハビリテーションの専門職)の菅原洋平・未涼夫妻が、子どもの脳への生理学的なアプローチによる子育ての理論とメソッドを解説する育児書。脳の仕組みを上手に利用することで、「集中力があって、かしこい子」「運動が好きな、活発な子」「聞き分けがよく、落ち着いた子」「思いやりがあって、やさしい子」を育てることができます。また、精神論ではなく科学的なアプローチなので、誰でも成果を期待できます。


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