中央大学の子ども向け講座に潜入取材! テーマは「哲学」!?

inter-edu’s eye
前回の大学リサーチでは、「大学のお子さま向けの講座に参加してみよう!」ということで、いくつかの大学が実施している子ども向け公開講座の情報をお伝えしました。
そこで、今回の大学リサーチでは、さらに一歩踏み込んで、実際に大学が行っている子ども向けの公開講座への潜入取材を敢行! 大学の先生や職員さんにもお話をうかがってきました。

「中央大学 クレセント・アカデミー」の『こどものための哲学教室』

今回、記者が取材を行ったのは、中央大学多摩キャンパスで7月20日(土)に開催された『こどものための哲学教室』。
一般的に、大学が子ども向けの公開講座を実施する場合、そのテーマは、理系のプログラミング教室や化学の実験、ものづくり、自然観察などが多くなっています。また、テーマが文系だとしても、「お金の仕組み」「身近な法律」など、実学寄りのものが主流です。そこに、「法科の中央」があえてぶつけてきた、小学生にはひょっとしたら難しいかもしれない「哲学」というテーマ。一体どんな講座になるのだろうかと、記者はそこにも興味をもっていました。

大学のゼミのような雰囲気で進行する授業

「こどものための哲学教室」の様子
「こどものための哲学教室」の様子。輪になって、リラックスした雰囲気でした。

授業は、今回の講師を務める竹中真也先生と参加した小学3年生から6年生までの子どもたちの自己紹介から始まりました。その後、この日のテーマ「哲学」とはどんな学問なのかの説明が行われ、続けてこの日のルールが子どもたちに伝えられました。

この日の話し合いのルール
「チュー王子のぬいぐるみを持っている人だけが話し、ほかの人は話し終わるまで静かに聞く」

ルールを確認したところで、教室では2つのアニメが上映されました。スタジオジブリの『千とちひろの神隠し』の一場面と、ディズニーの『アナと雪の女王』の一場面です。
よく知っている作品を見て、難しそうなイメージの「哲学」に少し構えていた子どもたちも楽しそうな様子になりました。
ここで、竹中先生から今回の講座のテーマが発表されました。

「しあわせってなぁに?」

子どもたちに「あなたは『しあわせ』ですか?」という問いが投げかけられます。
「急にこんなこと聞かれてもびっくりするよね。でもこれを考えるのが今日のテーマです。それじゃあ、今から5分間でワークシートを書いてみてください」と、竹中先生。

みんな真剣に自分の考えを書いていました
みんな真剣に自分の考えを書いていました。

子どもたちの手元のワークシートには、自分がしあわせかどうかについての6つの選択肢。

1. とてもしあわせ
2. しあわせ
3. ときどきしあわせ
4. 少ししあわせ
5. しあわせではない
6. わからない

さらに下には、その理由を記入する欄もあります。
シンプルなようでいて、大人でも少し手こずりそうな問いかけですが、子どもたちは一生懸命に考え、記入していました。

ワークシートの記入を終えたところで、一旦トイレ休憩。
ここまでで、学校の授業と同じ45分が経過していました。1時間にも満たない時間とは思えない濃密な前半でした。初対面同士の子どもたちですが、早くも何組かの友だちの輪ができていました。

さて、後半は各人が記入した内容の発表と「しあわせ」についての討論です。
ランダムに回ってくるチュー王子を手にした子どもたちが、自分はしあわせか、そうでないか、それはどうしてか、などを順に発表していきます。どの子も自分の考えを自分なりの言葉で語ってくれました。竹中先生は、それぞれの考えに相槌を打ったり、考えを深めるような問いを投げかけたりしながら、子どもたちの発言を引き出し、そのキーワードをホワイトボードに書き込んでいきます。

かわいいチュー王子を触りながら、話していきます
発言するのはチュー王子を持っている子だけ。かわいいチュー王子を触りながら、話していきます。

子どもたちの発表が一回りしたところで、話し合いはまとめの段階へ。
竹中先生は、子どもたちの発言の中から共通点を拾い出したり、発言を促したりしながら、「しあわせ」について板書していきます。
講座の様子は、まるで大学のゼミでの討論か、あるいはビジネスマンのブレインストーミングのよう。「しあわせ」という抽象的なテーマについて、小学生でもここまで深く考えられるのだと、記者はただただ感心しながら、その様子を見守っていました。

こどもたちの発言をもとに、板書をまとめていく竹中先生

話し合いの結果、この日のメンバーで導き出した「しあわせ」の条件は、

1. 生活面が満たされていること
2. 楽しいこと
3. 人との繋がりがあること(一人でも幸福になれるが、人とのつながりをもつ方がより幸福になる)
4. しあわせでないと感じるときもあること(しあわせの裏面には幸せでないことがつねにある)

の4つでした。
特に4は、なかなか考えさせられます。
「しあわせでないと感じるときもあるからこそ、しあわせなときは、これを続けたいな~って思う」と高学年の女の子が答えてくれました。
かなり深いところまで踏み込んだこの言葉には、記者はもちろん、竹中先生も「驚きました。大学生の議論かと思うほどでした。」とコメント。参加した子どもたちの考えを深めていく力に感心していました。このまとめを受けてもう一度ワークシートを記入し、2回目の休憩に。
先生に話しかけたり、頭の上にチュー王子を乗せたりと、先ほどの休み時間よりももっと子どもたち同士の距離が縮まっている様子でした。

保護者も思わずうなった振り返りタイム

保護者も思わずうなった振り返りタイム
振り返りの時間には保護者が同席。子どもたちの議論の結果に感心していました。

2度目の休憩の間に教室のレイアウトが変更され、最後は保護者の前で子どもたちがこの日考えたことや感想を発表しました。
教室は、子どもたちと先生だけの打ち解けた空気から、授業参観日のような少し緊張感があるものに変わりました。これまでの90分で、いかに竹中先生が巧みに「遠慮なく自分の意見を出せる場づくり」をしていたのかがわかります。
保護者を前にやや緊張しながらも、子どもたちは一人ひとり立派に自分の考えを述べ、我が子の姿に驚き、感心するパパ、ママが続出。終了後には「これは定期的にやらないんですか?」などとスタッフに尋ねる保護者の姿もありました。

知的財産を社会に還元することも大学の使命

「こどものための哲学教室」終了後、この日の講師を務めた竹中真也先生と、クレセント・アカデミー事務室の杉本育美さんにお話を伺うことができました。

インターエデュ: 今回の講座の狙いは何だったのでしょうか?

杉本さん: 実はクレセント・アカデミーとしても、こういった「こどもアカデミー」の開催は初の試みでした。ですが、今後も続けていきたいと考えています。
これまで本学クレセント・アカデミーでは、在学の学生はもとより、社会人向けの様々な講座を開催してきました。「法科の中央」らしい法学関係の講座だけでなく、人文科学や自然科学、外国語、スポーツの講座もあります。実は中央大学は哲学でも実績のある大学です。総合大学として、大学の「知」を社会に還元することも、大学の使命だと考えるからです。昨年(2018年度)からは新たに、知的財産を提供していく対象を小・中学生にまで広げていこうと考えました。
今、世の中には、凶悪犯罪とか、紛争とか、どう考え、対処していけば良いのかわからないような出来事があふれています。そんな不条理な、意味のわからないことの多い世の中にあっても、ていねいに物事に対峙し、考えていかなければなりません。その時に必要なのは今回の哲学教室を通じて得られるような「知」の力であり、それを子どもたちに身につけさせるのも、大学の役割なのではないかと考えています。

竹中先生: 現在、テクノロジーの発展はまさに日進月歩で、特に情報通信機器――パソコン、スマホ、ipadなど――の発展には著しいものがあります。その結果、多くの、あまりにも多くの情報がわたしたちに送られてきます。そうした情報をひたすら「消費」しているのがわたしたちの現状でしょう。しかし、そんな世の中だからこそ逆に、立ち止まり、冷静に目の前の出来事について考えを深めていく必要があるし、そうすることで経験したことのない新たな出来事に対処する力も身につくと考えています。慌ただしい日常生活の中で、一つのテーマについてあれだけ時間をかけてじっくり考えていくことはなかなかありませんが、今日の子どもたちには、そうした経験をしてほしいと思っていました。みんな本当に自分の言葉で、考えを深めてくれて、その点はとてもよかった。人前で自己表現をする経験というのは、この先どんな将来を選択したとしても子どもたちの中に残ると思います。

インターエデュ: 普段は大学生やシニア層の講義を担当していらっしゃるということで、難しさもあったのではないでしょうか?

竹中先生: そうですね。大人以上に、「出たとこ勝負」の難しさはありました。なので、アニメを見てもらったり、子どもたちを下の名前で呼んだりして、和やかな「場づくり」をすることを意識していました。

杉本さん: 今回、クレセント・アカデミーの講師陣の中でも受講生たちからの信頼の厚い、竹中先生にぜひにとお願いさせていただいたのですが、大成功でした。子どもたちとの接し方に、「愛」がありましたよね。

竹中先生: 哲学って、「とっつきにくい」とか「何の役に立つの?」とか思われる方も多いかもしれません。でも僕は、小・中・高生に哲学的な議論のやり方を伝えることはすごく有用なんじゃないかと思っているんですよ。議論の流れを作っていけるような人が、これからの社会で求められるのではないでしょうか。

インターエデュ: なるほど。本日は貴重な機会をありがとうございました!

「総合大学の『知』を社会に還元することも、総合大学としての使命」。記者はこの言葉にハッとさせられました。その大学の発信を、私たちも受け止めていきたいものです。多くの大学で、学外に向けての公開講座が開催されています。お近くの大学について調べてみてはいかがでしょうか。

竹中真也先生
竹中真也先生
1978年石川県生まれ。哲学博士。中央大学文学部兼任講師、中央大学 クレセント・アカデミー講師。