【緊急連載Vol.1】大学入試 英語の外部試験利用延期が意味することとは?

inter-edu’s eye
11月1日、「大学入試で英語の外部試験利用が延期決定」というニュースが日本中を駆け巡り、高校生やその保護者、教育関係者など多くの人を動揺させました。
そこで、エデュナビ編集局では、大学受験に大変造詣の深い教育ジャーナリストの後藤健夫さんに緊急インタビューを敢行!
今回の延期が意味するのはどういったことで、高校生や教育現場に何をもたらすのか?そして、大学教育も含む、これからの日本の教育で求められることは何か?熱いお話をお聞かせいただきました。
今月の大学リサーチでは、緊急連載として、そのインタビューの模様を3回にわたって紹介していきます。

外部試験導入延期が意味すること、延期に至った背景とは?

今回の延期を、学ぶということの本質を再確認するきっかけにしてほしい

学生が英語の辞書で学習している姿

インターエデュ(以下エデュ):日本中を驚かせたといっても過言ではない今回の大学入試英語の外部試験導入延期ですが、どのような印象をもたれましたか?

後藤健夫さん(以下後藤さん):今回の延期は、起こるべくして起こったことだと考えています。ですが、そのことで心乱されている人は多いと思います。私は、受験生には「これまでの準備は無駄にはならないよ」と、そしてグローバル化を標榜して英語の4技能教育を進めていた多くの学校(中高一貫校)関係者の皆さんにも「やってきた教育は間違いではないです」と、まずはお伝えしたいです。首都圏を中心に、中学受験への熱が高まっているのもその証左ではないでしょうか。
むしろ、今回の延期が、学ぶということの本質を再確認するきっかけになればと考えています。「勉強は受験のため」ではなく、「勉強は自分のため・将来のため」なのです。このことを今一度考えていただきたいですね。

そもそも、今回の英語外部試験導入には、制度的な問題が山積でした。
まず、大学入試センターは、従来の大学入試センター試験と同じレベルの試験を年2回以上実施することを各団体に求めていました。このことからして、制度に設計上の無理があることは明白でした。大学入試センター試験は年に1回です。しかも、大学入試センターと大学の共同実施だったため、大学側も試験会場や試験監督を提供していたのです。

それが、外部試験というかたちになって、大学入試センターが大学ではなくて高校や実施団体の方を見るようになってしまった。これではうまくいかないでしょう。

英語の外部試験導入を突き進めても大混乱は必至だった

エデュ:文科省大臣の「身の丈」発言が物議を醸しましたが…?

悩む姿

後藤さん:英語の外部試験に関しては、地域や家庭の経済力による格差が衆目を集めていましたね。ですが、実は都会に住む裕福な家庭の受験生ですら、必ずしも受験機会が保証されていたわけではないのです。

例えば、最も18歳人口が多く、大学進学率も高い東京。来年2020年にはオリンピックが予定されており、例年夏に行われていたイベントの多くが時期をずらして春や秋に開催されます。そのため大規模な試験を行えるような会場の手配が非常に難しくなっていました。東京に住んでいる高校生が周辺の県で受験せざるを得なくなる、あるいはそもそも受験自体ができないというような最悪の事態も起こり得たわけです。全員が受けられる保証ができていないのに、そのまま進めていくのはよくないですね。また、実施運営の面でも、できる限りの公平性を保つべきだったと考えます。6つの民間試験の全てが、全国47都道府県のどこででも受験できるような状態でないとNGでしょう。

こういった諸々を考えると、今回は、最低限、延期になっただけでもまだ良識があったと考えるべきだったのかもしれません。このまま突き進んでも、受験生や保護者はもちろん、参加団体も文科省も、大混乱は必至だったでしょう。そして、どの立場の人にも良いことはありませんでした。

エデュ:6つの試験と言えば、「目的の違うテストを同一に扱うのがおかしい」という批判もありました。

後藤さん:そこは逆に、今回の延期によって、より各自が目的に合わせた試験を自由に受けられるようになったと前向きに捉えれば良いと思います。

また、誤解している人が多いのですが、今回延期になったのは、民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入のみで、民間の英語テストを大学受験に使用するということ自体がなくなったわけではありません。

入試に民間の英語テストを活用している大学は、以前から多数ありました。ですから、「今まで英語の外部試験に向けた勉強をしてきたのに損をした」というのは当たりません。やってきた勉強は、資格取得はもちろん、大学に行ってからも社会に出てからも必要なものです。大学入試英語成績提供システムにとらわれず、つまり、2回の受験制限がなくなったと捉えて、例えば海外進学を考えている人がその希望に応じて、アメリカへの進学を希望するのならTOEFL、イギリスやオーストラリアへの進学を希望するのならIELTSというように、自分にとって必要なものを選んで受ければ良いだけのことです。

日本は社会課題先進国。しかし残念ながら社会課題解決先進国ではない

エデュ:そもそもは大学入試改革自体も、これからの世の中で必要な力を身につけてもらうためのものでした。これからの教育で子どもたちに身につけてもらうべき力についてはどのようにお考えですか?

後藤さん:これからの世の中で必要とされるのは、端的にいうと、「グローバル化」「デジタル・IT化」「社会課題」の3つに対応しうる力だと考えます。つまり、英語、ICTの活用やプログラミング、そして課題発見・解決能力ですね。

ここで着目したいのが、慶應義塾大学SFCの慧眼です。約30年前に設立した当初から、身につける力として既にこの3つ――自然言語としての英語、人工言語としてのプログラミング、問題発見解決能力を掲げていました。このときに大学でなされたことが中学・高校まで降りてきたのが今回の大学受験改革の背景にあるものなのです。

英語とICTについての教育は既に始まっていますね。しかし、3つ目の問題解決能力に関してはどうでしょう? 日本は社会課題先進国ではありますが、残念ながら社会課題解決先進国ではありません。

エデュ:その通りですね。では、これからどのような教育がなされるべきで、そのためには何が必要なのでしょうか?

この続きは、11/15(金)公開予定のVol.2で!

後藤健夫さん

後藤健夫(ごとう たけお)さん

大学卒業後、河合塾に就職。のちに大学コンサルタントとして独立し、有名大学のAO入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立にかかわり、早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。『大学ジャーナル』の編集委員も務める。


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