【前編】慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授 若新雄純先生 <慶応義塾大学SFC>

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若新雄純先生
若新雄純先生
ごく普通の女子高校生がまちづくりにかかわる「鯖江市役所JK課」プロジェクトや、全員がニートで全員が社長という「NEET株式会社」の仕掛け人である慶應義塾大学特任准教授の若新雄純(わかしんゆうじゅん)先生。4月23日にエデュママブックで紹介した『スタディサプリ 三賢人の学問探究ノート 社会を究める』に登場する先生の1人でもあります。この本の中で「世の中の『大前提』は本当にそれでいいのか?」と問いかけていた若新先生にお話をうかがいました。

SFCとは…?

SFCとは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの略称。湘南藤沢キャンパスには総合政策学部、環境情報学部の2つの学部と大学院政策・メディア研究科、健康マネジメント研究科が設置されています。
「多様化した社会に対する問題解決をはかる」ことをめざして設立されたSFCでは、既存の学問の枠にとらわれず、学生が自らの学習テーマや目標にそって自由に履修内容を選べるカリキュラムを採っています。意欲と能力次第で、SFCの研究活動の中心である「研究会」に1年次から参加することも可能。既存の学問分野を解体し、実践を通して21世紀の実学を作り上げることを目標としています。

若新雄純先生
若新先生の担当する講義の様子。

インターエデュ(以下、エデュ):各方面でご活躍なさっている若新先生ですが、大学ではどのような研究を行っているのでしょうか?

若新雄純先生(以下、若新先生):あえて専門の研究分野というなら「コミュニケーション論」となります。
僕の場合、慶應義塾大学での主な仕事はラボ運営。キャンパスに付属する産学官連携の研究所で「ゆるいコミュニケーションラボ」を運営し、企業や自治体との共同研究を行っています。
大学の大きな役割には「教育」と「研究」の2つがありますが、僕の場合は「研究」の方のウエイトがかなり高くなっています。
もちろん講義も。前期は「創造システム理論」、後期は「インプレッションマネジメント」と、各1コマずつ担当しています。

新しい取り組みについて話される若新先生は、子どものようにワクワクした表情に。
新しい取り組みについて話される若新先生は、子どものようにワクワクした表情に。

エデュ:なるほど。後ほど詳しくお話をお聞かせいただきたいと思いますが、そのラボでの研究活動の一環として「鯖江市役所JK課」や「NEET株式会社」などの斬新な試みをされているのですね。
ところで、「コミュニケーション論」とは、わかりやすくいうとどのような学問なのでしょうか。

若新先生:コミュニケーションの在り方を研究するのがコミュニケーション論です。時代の変化によって変わりつつある人と人とのコミュニケーションそのものについて研究するわけです。コミュニケーション論を研究したからといって、別に人との関わりが上手くなるとかではないんです。
僕は、その中でも、創造(Create)するコミュニケーション、新しいものが発見されるような場のあり方について研究しています。立場や価値観の違う人たちが関わり合うことで、既存の常識や枠組みを超えた発見を生み出すことに興味があります。これを「ゆるいコミュニケーション」と僕は呼んでいます。

「創発」という言葉があります。これはここ慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)全体の大きなひとつのテーマでもあるのですが、あるものとあるものを掛け合わせることによって、一つひとつの要素からは予測できなかったような新たな結果を生み出すというものです。
従来のように、何か目標を実現するために「AとBをかけあわせるとCになる」と考えるのではなく、AにもBにもない要素だったのに、掛け合わせると全く想像もできなかったようなXが生まれるといったような。そしてそこには、「〜までに××しなさい」というノルマも、数値目標もありません。
期待した結果が出るということよりも、新たな発見が生まれることを大切にしているのです。
創造=発見の連続と考えることもできますよね。この創造と発見、「創発」のための社会実験が、例えば「鯖江市役所JK課」のような取り組みです。

ごく普通の女子高生がまちを活性化!鯖江市役所JK課プロジェクト

女子高生の自由なアイデアが自治体に活気をもたらしました。
女子高生の自由なアイデアが自治体に活気をもたらしました。

エデュ:衆目を集めた鯖江市役所JK課について、お聞かせください。

若新先生:2014年に企画した「鯖江市役所JK課」プロジェクトは、まさに創発の社会実験でもありました。
市民が主役の街づくりをしたいと考えていた鯖江市に、市役所で勤務する公務員とはある意味対極の存在である女子高生を掛け合わせました。市役所職員×女子高生。どんなことになるのか本当にわからないですよね。でも、そこには必ず何か化学反応や発見があるはずで、わからないことそれ自体を楽しみ、そこから生まれる変化を面白がるのです。
結果としては、女子高生がJK課オリジナルスイーツを販売したり、首都圏の大学で講演を行ったりと、鯖江市の活気あるまちづくりに貢献できていますね。2016年度からはJK課が企画・運営して、「全国高校生まちづくりサミット」もスタート。2020年の今も、JK課の第6期生を募集中です。

エデュ:JK課は海外からも注目されましたし、市が総務大臣表彰を受けたり、一般団法人日本経営協会の「第11回協働まちづくり表彰」でグランプリを受賞したりしました。大成功といってよいですね。

コミュニケーションの本質に迫ったNEET株式会社

エデュ:もうひとつ。100人以上のニートを全員取締役にしたという「NEET株式会社」も話題となりました。

若新先生:ニートっていうのは、従来の社会の仕組みからはみ出してしまった人の最後の行き場だと思ったのです。学校を出て就職して…という当たり前の生き方だけが正しいのか? 「これが正しい」なんて線引きはできないんじゃないか? ズレてしまった人にも、ズレたなりの生き方や在り方があるのではないか? そういった疑問に向き合うための壮大な社会実験でした。
NEET株式会社では本当にたくさんの発見がありました。ただ、「ゆるいコミュニケーション」どころか、「あやしいコミュニケーション」になってしまったかもしれません。いまだに、NEET株式会社によって居場所ができて救われた人と、ただ傷ついてしまった人と、どちらが多いのかもわからないです…。

エデュ:そうだったんですね。

若新先生:ただ、コミュニケーションの意義という観点からすると、人にとっての究極の孤独は「傷つく場所すらない」ってことなのではないかと。
NEET株式会社では、全員が取締役で、対等な立場なんです。だけど、対等なはずのニート同士がマウントを取り合ったり派閥争いをしたり…。ただ、派閥争いとか喧嘩とかしながら、すごくイキイキしていたりするんですよ。前よりもずっとエネルギッシュに動いている。人間関係に疲れたり傷ついたりするかもしれないけれど、それでも居場所がある。こうなってくると、人間にとって必要な居場所って、別にその人にとってユートピアじゃなくてもよいのかもしれない…とか。
NEET株式会社は、ニートを甘やかしているだけ、あるいは傷つけているだけといった批判も多くありました。社会的に正しいことができたかどうかもわかりません。でも、世の中にははっきりわからないことがたくさんあります。それを私はやってみたいのです。

ロックの精神で世の中の「?」を発見していく

エデュ:なるほど。これからもそういった新たな試みに挑戦していかれるのですね。

若新先生:そうですね。まだ詳しくはお話しできませんが、通信制高校と組んだフリースクール事業なんかも考えています。

エデュ:ニートの居場所やフリースクール事業など、社会や教育の問題にも斬り込んでいらっしゃるのですか?

若新先生:いや、そういうわけでもないんですよ。
僕は基本的に、世の中の価値観や考え方に「絶対」なものはないと考えています。どんなに優れたものでも「それしかない」ということはあり得ない。政治でも、ビジネスでも、時代や状況に応じて変化し続けなければなりません。
ただ、「王道」といわれているものを作ってきた人は、自分たちがそこから利益を得ていますから、従来のものを変えたくないですよね。僕はそこに一石を投じ、絶対と見なされているものを揺らしていきたいのです。まさに音楽でいえばロックの精神ですね。

例えば、僕の生まれ育った福井県は、小中学校の宿題が日本一多いと言われています。子どもたちももちろん大変ですが、宿題を出す先生たちの手間も膨大で、教員の労働環境の悪化にもつながっているかもしれない。そこで、福井県で「脱・宿題プロジェクト」というのを始めました。

世の中を変えたいと思ったときに、例えば従来のデモなどのやり方だと、仲間を見つける敷居も高いし、反発も生まれてきます。僕がやっている「ゆるい」やり方なら、反発も避けられます。
実験的なプロジェクトや新しい視点を提示することを通して、僕は世の中に多くの疑問を投げかける存在でありたいと思っています。いっぱい「?」をつくりたい。それも面白い「?」を増やしていきたいのです。
従来の古い価値観を揺るがしていきたい。その揺るがした先で、疑問や問題が出てきたら、それについて考える人・解決する人は、僕よりもっと適任な誰かがいるでしょう。

エデュ:なるほど。先生のこれからのご活躍もますます楽しみにしております。

ロックの精神で世の中に一石を投じ続ける若新先生

ロックの精神で世の中に一石を投じ続ける若新先生。新型コロナウイルスで人々の生活様式が変わっていくこれから、ますます目が離せない存在になりそうです。
後編(7月13日公開予定)では、若新先生に子ども時代から現在に至るまでの経歴を語っていただきます。