ミステリー（推理）小説のレビューをどうぞ｜掲示板スレッド

　こんばんは、ケイト・モートン、カズオ・イシグロの話題で嬉しくなり出てきてしまいました。旧わかりやすい話で、です。新年初出でHN変更してみました。
　
　海外の作品から様、ロディ様

　ケイト・モートン、カズオ・イシグロ、邦訳物はほとんど読んでます。
ケイト・モートンは、何かの後書きで、「嵐が丘」「秘密の花園」「トムは真夜中の庭で」、トマス・H・クック「緋色の記憶」、デュ・モーリエ「レベッカ」、イアン・マキューアン「贖罪」などの影響は示唆されてたような。私もその辺、好きなストライクゾーンです。イアン・マキューアンの「贖罪」は「つぐない」という映画で見ました（ロディ様もおススメの映画じゃなかったかしら？？、シアーシャ・ローナンが印象的な）
　ケイト・モートンの処女作「リヴァトン館」はダウントン・アビー、「日の名残り」（カズオ・イシグロの最高傑作ですよね！　私的に映画のアンソニー・ホプキンスはイメージ合わないと思いますが、、）の世界観に似た秀作なんで、こちらもよろしければ！
　ケイト・モートンのThe　Distant　Hoursという作品が気になってるんですが邦訳がなく、、海外の作品から様、何かの折に、、って自分で読みなさいですよね（汗　　英文やっぱり難しい～
　
　アリス・マンローは以前「ジュリエット」という映画化もされたらしい作品トライして挫折したんですが、おススメの「ディア・ライフ」いつか読んでみますね。私は湖畔荘のアリスは「不思議の国のアリス」のイメージ想起してました（汗

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　永乗庵始末記様
今村昌弘「屍人荘の殺人」、レイモンド・チャンドラー「水底の女」（村上春樹の新訳版）、年末の本屋さんもおススメで図書館予約しました。「屍人荘の殺人」はまだまだ百人待ちなんで、永乗庵始末記様の感想待って、、でもクローズドサークル物の感想って書きづらいですよね、、
　
　国内好き様
芦沢央さん、知りませんでした。読んでみますね。私は国内物では柚月裕子さんが好きです。「盤上の向日葵」（本屋大賞なるか？？）、「慈雨」「ウツボカズラの甘い息」、佐方検事シリーズなどなど

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　今読んでるのはフランシス・ハーディング「嘘の木」です。宮部みゆきさんが去年の１推しと年末新聞で書評されてました。19世紀後半の英国社会、ダーウィンの「種の起源」が当時のキリスト教社会の人々に与えた衝撃と「創造論」と「進化論」の対立という物語背景。主人公14歳の少女フェイスは敬愛する博物学者の父にかけられた捏造疑惑と死の真相を探るために立ち上がる。嘘を養分に育ち、食べた者に真実を見せる実のなる不思議な木。フェイスはその木を利用して父の死の真相を暴く決意をする。精緻なダークファンタジー、ミステリーです。　

新人女流の作品ですが、なかなか面白かったので紹介します。

Everything you want me to be, by Mindy Mejia

作者のMindy Mejiaはミネソタ生まれ、育ちの女性で、この作品が２作目になります。
しかし、この作品は評判が高く、新聞社の書評含め高評価になっています。
Amazonでも、平均4.5スターと、ちょっと類を見ないくらい人気があります。

私は、なんの知識もなく、新宿の紀伊国屋で平積みされているのを見つけて買いました。

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舞台はミネソタ州の農村。ゆうしゅう
高校最終学年のHattieは、家を出奔してボストン行きの片道の航空券を買おうとして補導されそうになります。20日後、Hattieは優秀な文学少女で演劇に傾倒し、学校の演劇で見事にマクベス婦人を演じます。しかし、その演劇の本番の夜、湖のほとりで惨殺体となって発見されます。Hattieには、高校フットボールのスタープレイヤーであるボーイフレンドがいました。

捜査は、Hattieの両親と親交のある保安官Delが担当し、ほどなく、高校の文学の教師で演劇の指導者であったPeterとの関係が明らかになります。

小説は、１年前にさかのぼり、HattieとPeterが交互に自分の視点から日常（とお互いの関係）をつづり、この間に、Delの捜査状況をDelが語る、という複雑な構成です。

Hattieは演劇少女かつ文学少女で、どうやらそこそこの美人。女友達とガールズトークをし、フットボール選手をボーイフレンドとする、ごく普通の少女のように見えます。しかし、彼女は、Peterを誘惑してただならぬ関係になり、少しづつ、自分から、悲劇的結末に近づいていきます。

Peterは良識あり知性あふれハンサムな若手国語（文学）教師ですが、妻や義理の母との関係がきごちなく、また、田舎暮らしに満足しておらず、蟻地獄に落ちるようにHattieに絡め取られていきます。

農場、養鶏場、打ち捨てられた倉庫、砂利道、（農業用）トラックなどがうまく背景に取り入れられ、農村の閉じた人間関係や閉塞感を裏付けています。
また、背景として、「マクベスの呪い」が効果的に使われています。これは、マクベスを上演するときにマクベスの名を口にすると災厄が訪れる、というもの。

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Gone Girlを彷彿とさせる構成ですが、作者は自身のサイトで、Gone Girlのことは知らなかった、と述べています。
時間軸どおりに進まない進行、語り手が入れ替わり視点が変わっていく構成など、瓜二つなのですが。

Gone Girlは、完全に壊れたサイコパスに絡め取られていく恐怖が描かれていましたが、この小説は、実に普通の高校生や高校教師が蟻地獄にはまっていく怖さがあります。

日本語訳も出ました。

ハティの最期の舞台（ハヤカワミステリー文庫）坂本あおい訳

「ケイト (ID:/j0jYjc176w)」さん
うっかり忙しさにかまけて、今村昌弘「屍人荘の殺人」の感想を書きそびれていました。

ゾンビに囲まれたペンションに立てこもる人間たち。
ただでさえ超非常事態なのに、ああ、そんな時だというのに、人間たちの中で殺人が起きる。
それも一見するとゾンビによる殺人に見えるが、どうやって脳死したゾンビが密室殺人なんてできたのか？
犯人は人間なの？ゾンビなの？　というか、こんな状況で殺人を犯す意味ってなんだ？

実は至ってオーソドックスなミステリです。
山口雅也「生ける屍の死」のような、ゾンビトリックもございません。
でも、まあ面白いです。
こうしたロジカルな青春ミステリと言うのは……と、ここで俺は思ったのさ。
これは有栖川有栖「月光ゲーム」の本歌取りじゃないか、と。

「月光ゲーム」も噴火によって孤立したキャンプ場というクローズドサークルを舞台にした、ロジカルな青春ミステリ。
……だったよな、いかんなあ、最近記憶力が…というわけで再読。
ああ、そうだった、こうだった、などと読んでいくうちに、グッときた。
重要な内容に触れてしまうので、読みたくない人は*****のラインの中を読まないように。

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主人公アリス（男）は登場人物の一人、理代に心を寄せる。
理代も満更ではないようで、主人公のボルテージは上がっていく。
その結果、理代をかばって証拠隠滅までしてしまう。
事件の後、「大阪に帰ってから会いたい」という主人公に理代は
「アリス、悪いけどあかんわ。私、待ってる人がいてるから」

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初読時（俺まだ十代）、「ええ!?恋人がいるのに、あんなに気を持たせてたのか!?」と驚き半分、主人公への同情半分だったが、40もとうに過ぎると、まあこういうことってあるよな、と苦みを舌の上で転がすようになる。
で、こうした「苦み」が今村昌弘「屍人荘の殺人」にはある。
最終盤、探偵が放つひと言。「あげない。彼は、私のワトソンだ」
苦いなあ。

とにかく英語で小説を一冊読んでみたい、という人におすすめの作品。

Last Stop Tokyo, by James Buckler

イギリスのTV映像制作を本業とする新人のデビュー作。

成田空港の入国にはじまり、新宿とか高円寺とか浅草とか展東京駅とか、まあ関東人にとってはなじみの場所で話が展開して、それなりにリアルです。
私が定宿にしている（大嘘）帝国ホテルのインペリアルスィートの内部も正確に描写されています。
風景を容易に予測できる上に話の展開自体も非常に予測しやすいので、英語としてはたいへんにやさしい（私が英語で読んだ小説の中でもトップクラスに読みやすい）です。

話は、ロンドンでのトラブルから逃れた主人公Alexが日本に逃げてきて闇をかかえた女Naokoと出会い、二人でヤクザに絡め取られていく、という、ありきたりといえばありきたりの話ですが、劇画調にブンブン読めます。

ご興味がある方は是非。

海外の作品から さま

今更ですが、昔ご紹介頂いた「ミスターメルセデス」読みました！
面白かったです！
ドラマ化されていて、これがなかなか評判宜しいようで、見てみたいです。

勢いで、シリーズ第2弾も、借りてきました。

海外の作品からさまから紹介いただいた『ハティ、最後の舞台』、読み始めました。

まだ途中なのですが、鍵となるのがやはりアメリカ中西部の人間関係。
先日、観てきた映画『スリー・ビルボード』の世界ですね。
住民全員が顔見知りの長閑なところ。犯罪とは無縁な場所での痛ましい事件が
余計、悲劇性を増すのでしょうね。


最近読んだのは、インドリダソンの『湖の男』
こちらはアイルランドが舞台ですが、冷戦時の東欧と絡ませています。
北欧というと平和なイメージがありますが、やはり歴史の波にもまれていたのですね。日本の方が戦後は平和だったのかも。

ミステリーとしても切ないラブストリーとしてもおすすめです。

あとは、久しぶりのコナリー、『罪責の神々』

久しぶり過ぎて１シリーズ抜かしてしまったようで、読まないうちに前作の
ネタバレ。

法廷ものなので致し方ないのですが、専門用語の説明で流れがスムーズにいかない点は見受けられますが、さすがのコナリー、うまくまとめています。（安直に
めでたしめでたしで終わらないところも含めて）

けっこう面白かったので、一冊ご紹介します。

A Killing Frost, by R.D. Wingfield

このミステリーがすごい！2018年海外作品部門の第一位
日本語訳は、フロスト始末（創元社）です。

作者のWingfieldは放送作家などメディア業界で活躍した人ですが、その割に極度の人嫌い写真嫌いで、生前の写真はほとんど残っていません。また、作家デビューも相当に苦労した形跡があります。
しかるに、Frostシリーズの６作品は、ホームズでもマーロウでもコロンボでもない斬新な刑事像を確立し、不動の人気を誇っています。この作品は原著は2008年で、その直後に作者は癌でなくなっています。作品のセンチメンタルな部分から、作者は自分の病気のことを知って執筆したのではないか、とも言われます。

Frostは、ロンドン近郊の都市にあるDenton署の刑事（Detective Inspector）です。
Frostはほとんどニコチン中毒のようにタバコを吸い、下品な言葉遣い、領収書を改竄して小銭を稼ぐ、など、けっして典型的ヒーロー像ではありません。また、直感による捜査はときに的外れで犯人を取り逃がし、アポを忘れたりもします。しかし、ヨレヨレになりながら不眠不休で働き、いつしか事件を解決してしまう、不思議な刑事です。

Frostシリーズのもうひとつの特徴は、事件がいくつも同時進行で起こりカオスのような状況になることで、２つの事件をさばくのに四苦八苦しているHarry Boschとはおおいに違います。

この小説は、雨の夜に切断された人間の足が発見されるところから始まりますが、すぐに、少年少女の行方不明、毒物によるマーケットの脅迫、女性の変死体の発見、児童ポルノ、強姦事件、、、、と、次々に新しい事件が起こっていきます。徹底的な人手不足で、Frostは少ない部下や同僚を使って同時並行的に解決にあたりますが、どうしても穴だらけの捜査になります。また、署長Mulletと新任の部長刑事Skinnerは、部下の手柄を横取り、失敗はすべて部下に押し付け、現場の状況を無視して超過勤務を禁止する、など、邪魔ばかり。そして、結託してFrostを放逐しようとします。
中心な少年少女誘拐事件で、相当にシリアスでときに猟奇的なのですが、Frostと周辺の下品なジョークでつい笑ってしまう、という不思議な小説です。

作者最期の作品ですし、Frostの造形とともに、ブラックユーモア的ミステリーとして楽しめると思います。

英文のレベルは決して高くありませんが、スラングや卑語がわからないと楽しみが半減するので、ある程度は英語で小説を読み慣れた人のほうが楽しめるかも知れません。
日本語訳でも十分に楽しめるのではないかと思います。

付録：A Killing Frostの英語

フロストは部下に命令します。相当にシリアスで切迫した場面。
We mustn’t let him know he’s under suspicion, so leave your bloody helmets at home and let the only thing dangling be your dicks, not your handcuffs.

日本語訳。
彼に疑いがかかっていることを知られるな。そのヘルメットを家に置き、お前らのイチモツだけぶら下げてこい。手錠じゃないぞ。

Frostに好意的な女性監察医からFrostに。
And bring your dick with you, you might need it.

日本語訳、省略（笑）。

たとえば、次のような単語づかい、イギリスの小説でもあまり見かけないものです。

Sod 原意は汚泥ですが、アメリカ英語のFuckと同じように使います。
Bloody　血塗られた、というほどおぞましい意味ではなく、単に強調する場合にも使います。上の文例にあるyour bloody helmetsは、決して、物理的にヘルメットが血まみれになっているわけではありません。
Flaming　Flameは炎ですが、これも単なる強調語に使われます。Frameもときどき出てきてまぎらわしいです。こちらは、罠にはめる、というような意味。原意は額縁です。
Nick　Nick NameのNickですが、これは、ひったくる、かっぱらう、というニュアンス。
Bollock　原意は[削除しました]。ばかげたこと、のような意味。アメリカではBullshitが多いかな。
Mac　Frostがいつも着ています。ゴムを織り込んだような繊維のレインコートのことを言います。正式にはmackintosh.。アップルのコンピュータのイメージが強すぎますね。ゴシックミステリーの傑作Rebeccaには、短縮せず、mackintoshが使われています。

ご紹介した本を読んでくださる方がいらっしゃることは、たいへんに嬉しいです。

映画好きさま
Mr. Mercedes ３連作ですので、ぜひ３作ともお読みください。
主要な登場人物は同じですが、３作目はかなり趣の違う作品です。
しかし、さすが、Stephen Kingですね。

ロディさま
まさかこの新人の作品をお読みくださる方がいらっしゃるとは思いませんでした。
いかがでしたでしょうか？
日本でもそうですが、アメリカでも田舎町の閉塞感が主題になる作品は多く、Gone Girlも底流にはニューヨークのリッチな生活からミズーリに都落ちした焦燥感があります。John Grishamは、ミズーリやミシシッピに強く残る人種差別感情をうまく題材にしています（A Time to Kill, Sycamore Rowなど）。
これがOrdinary Graceのように心温まる物語になることもありますね。