inter-edu’s eye

今年、創立100周年を迎えた女子美術大学付属高等学校・中学校。女子が美術教育を受けられる場を作り、美術を通して社会貢献ができる新しい女性の育成を目指した女子美付属は、今も時代の先端で活躍するクリエイティブな女性を輩出し続けています。
生徒たちの中に、100年間変わらずに受け継がれているものとは何か、主幹教論の小島先生と、教育実習で母校に帰ってきた卒業生の松山さんにうかがいました。

100年前も変わらない“女子美”の雰囲気

生徒が持つ“これでなければダメ”という信念

小島 礼備先生

主幹教論(国語担当)・広報部主任の小島 礼備先生からお話をうかがいました。

美術大学の付属校は、世界的にも珍しく、日本では女子美術大学付属だけという稀有な存在です。長い歴史の中で、変わらないものとは何なのでしょうか。小島先生にうかがいました。

インターエデュ(以下、エデュ):今回、『創立100周年記念略年誌』も発行されるそうですが、昔と今とで変わらない部分はありますか?

小島先生:古い写真を調べていたら、舞台上で生徒たちが似顔絵を描いたお面を付けている写真がありました。おそらく、文化祭や発表会の様子だと思うのですが、その雰囲気が今と変わっていません。今も、文化祭前に先生の似顔絵を描いたお面をかぶっていたりと、同じようなことをしていますよ。

エデュ:先生との距離感も近いのですね。

小島先生:担任や教科担当とは別に、生徒には習いたい先生がいたりするので、よくエントランスにて一対一で勉強している姿を見かけたりします。生徒はみんな、“これでなければダメ”という信念を持っているので、おもしろい生徒ばかりですね。教員も生徒の視点や発想から学ぶことも多いです。

女子美だからできる日本唯一の「中高大」美術連携授業

100周年のロゴマーク

女子美付属創立100周年のロゴマークは、全校生徒のデザイン応募と投票によって選ばれたもの。
小島先生が着けるピンバッジにもさり気なくこのロゴマークが使われていました。

エデュ:“これでなければダメ”という生徒の信念は、創立当時から続くものなのでしょうか?

小島先生:100年前は、女性が美術を学べる学校がありませんでした。「良妻賢母」が求められた時代に、美術教育からひとりの人間として社会貢献できる女性を育てようとしたのが女子美の始まりです。今まで誰もやったことがないことをやろうという人間を、創立以来、ずっと輩出している学校なので、それが本校の生徒の気質なのでしょう。

エデュ:そうした女子美ならではの教育はありますか?

小島先生:世界的に見ても、美術大学付属の中高一貫校は、アメリカに1校と本校だけです。その良さを活かすために、大学に所属するいろいろな分野の専門家の先生と付属校の先生とがチームを組み、中高大の美術の連携授業を盛んに行っています。こうした連携授業は、美大でどのようなことを学ぶのか知ることにもつながるので、生徒にとって自分の将来を考えるきっかけにもなっています。

なりたい自分に向かって自ら行動する生徒たち

希望の就職先を目指して海外大学への進学も

未来へつなぐ展

5月には上野の森美術館で創立100周年記念「未来へつなぐ展」が開催されました。(既に終了)
力作揃いの展示作品を目の前にして圧倒されている観覧者の皆さんの顔が印象的な記念展覧会でした。

美術教育とは、「ときめく経験をすることで、人生を豊かにさせていくもの」だとお話しされた小島先生。女子美への進学だけでなく、「どの道へ進むにも、進路の重みは同じなので、どれだけ生徒の希望に応えられるかを重視しています。」という小島先生ですが、学校がキャリア指導をするよりも早く、生徒は率先して将来について考えて行動しているそうです。

「もともとは普通に日本で大学受験を考えていた生徒が、将来はアニメ制作会社のPixarに就職したいという強い想いから、自らPixarの社員の出身大学を調べて、その大学に進学した事例もあります。その海外大学では、在学中にPixarでのインターンシップがあり、そこから頑張れば社員になれるということを知って、そこへ進むことを決めたのです。」と小島先生。

生徒は日々の学校生活の中で、自分がやりたいこと、それを実現させるために足りないものを見つける力を、自然と身につけていると言えるでしょう。


“なりたい自分”があるから分かる学ぶべきもの

松山 美欧さん

大学4年生・プロダクトデザイン専攻の松山 美欧さん。女子美付属に入学したきっかけは祖母の七宝焼。中高大をとおして10年一貫の美術教育を受けてきた、筋金入りの女子美ガール。

将来の自分をイメージできない生徒はいないといわれる女子美付属。卒業生たちはどのような進路を歩んでいるのでしょうか。

現在、女子美術大学の4年生で、プロダクトデザイン専攻に在籍する卒業生の松山さんに、進路を決めた背景について教えてもらいました。

すでに、就職先として、グラフィックデザインの会社で、ブランディングの仕事をすることが決まっているという松山さん。「大学で立体物をデザインしているうちに、それをどう消費者に見せて伝えるのかということに興味があることに気づきました。」とのことですが、こうした“気づき”は付属生時代からあったそうです。

私の知っている小さな世界

松山さん高校3年時作品 卒業制作最優秀賞「100周年記念 大村文子基金女子美美術奨励賞」(デザインコース)
題名:「私の知っている小さな世界」
種類:発泡スチロール・アクリル絵の具
サイズ:90cm×90cm×90cm






女子美付属では、美術科の先生と何回も面談を繰り返し、進路を決めていきます。

松山さんは自身の進学を決めた時のことを、「学校では平面のデザインはたくさん学びましたが、立体のデザインはまだ勉強し足りないと感じました。まだ就職については漠然としたイメージでしたが、先生に自分の気持ちを伝えたら、後押しをしてもらえました。」と話してくれました。

松山 美欧さん

教育実習が終わったばかりの中学デザイン室前にて。松山さんから聞くところによると、「中学生が授業から何かを学び取ろうとする力はすごい!」とのこと。

就職先は海外からの依頼も多いデザイン会社に内定したとのことですが、そこで経験を積み、企画力だけでなくデザインセンスにも磨きをかけたいと話す松山さん。

「企画をするのが好きなので、最終的には企画や広告をやりたいです。就職活動中は広告代理店が向いていると言われましたが、企画の裏にはデザインがあります。でも、デザインについてはまだ理解できていない部分があると感じています。裏側まで理解していなければ、中身のある企画はできないと思うので、今は商品のブランディングやデザインを学んでいきたいです。」

2015年度 女子美術大学付属高等学校・中学校 公開行事情報

美術のひろば

8月6日(木)・7日(金)
※要予約
※小・中学生、美術の先生対象
「美術が好きなひと集まれ!」
「描く」「つくる」などの体験教室
(ワークショップ)

女子美ニケ中学生・高校生美術展(於 本校エントランス)

9月26日(土)~10月4日(日)
9:00~17:00
首都圏・アメリカ・中国・韓国の中高生と
本校生の作品交流と親睦の機会

女子美祭

10月24日(土)
中学の部 10:30~・13:30~
高校の部 12:00~・15:00~
10月25日(日)
中学の部 10:30~・12:30~・14:30~
高校の部 11:30~・13:30~
中高大同時開催!本校最大のイベント
※両日共にミニ説明会を開催します。
(10:00~17:00)

中学学校説明会

10月3日(土) 14:00~
11月28日(土) 14:00~
・公開授業 8:35~12:40
・公開授業 8:35~12:40

編集者が見たポイント

松山さんは「絵を描くのは何かを伝えたいからです。学校には、“何かを伝えたい”という想いから生まれるエネルギーが満ち溢れています。」と、教育実習で再び訪れた母校の変らない雰囲気を伝えてくれました。生徒たちに“何かを伝えたい”という想いが強いからこそ、自分の進むべき道が見え、足りないものを補っていく向上心や成し遂げる力が育つのでしょう。小島先生も「これまでの100年も、これからの100年も、こうした生徒たちが何かを伝えようと発信していくことが、我々にとって真に意味のあることなのだと思います。」と語ってくださいました。