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女子美術大学付属高等学校・中学校(以下、女子美)では、美術以外の教科や行事でも美術と関連付けて主体性をはぐくむ授業を展開しています。具体的にはどのような授業を行っているのでしょうか。今回は、中1歴史・高2日本史を受け持ち、高2クラスを担任している社会科の野村育世先生にインタビュー。研究者として活躍しながら教壇に立つ野村先生に、教育方針や女子美の魅力について聞きました。

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アーティストに必須の社会科って?

インターエデュ(以下、エデュ):先生独自の教育方針について教えてください。

野村育世先生(以下、野村先生):社会科としては、国際的な場で活躍できる生徒に育てたいと考えています。私自身も国際的な見方を意識しています。アーティストとして必要な世界中の文化を、曇りのない眼で見られるようになってほしいですね。

野村 育世先生

中1歴史と高2日本史を受け持つ野村 育世先生。日本中世史に造詣が深く、著書多数。博士(文学)号を持つ。

エデュ:社会と美術は関係性があるということですね。

野村先生:はい。たとえば、デザイン要素のアラベスク模様も、イスラム文化を知ることでより深く理解できるようになります。異国の文化であっても、美術と関連付けることで興味を深めることができると思っています。社会的に自立しづらい時代でも、自分の足で立ち、自分の頭で行動できる女性として育ってほしいです。

エデュ:授業でどのように美術を取り入れるのでしょうか。

野村先生:絵を描くのが好きな生徒が多いので、教科書に出てくる題材を絵に描かせると授業が盛り上がります。そのほかにも映像資料を使ったり、映画のワンシーンを使ったりして視覚で訴える授業を展開しています。北斎と広重の違い(浮世絵)に着目させたこともありますし、美術史と図像学を取り入れて、生徒の興味を引き出すこともあります。

美術が主軸になる授業

美術を主軸として、中高一貫教育のメリットを最大限に活かす授業を行います。

エデュ:興味のある美術を入口にして、歴史を学ばせるのですね。

野村先生:美術だけが優れていればよいという考えはありません。ただ単に勉強ができる生徒を育てる学校でもありません。あらゆるものへの興味、考える力を備え、自分らしく表現できる人間を育てる学校だと考えています。

美術につながる教育課程とは?

女子美生の授業風景とその進路

エデュ:授業中の生徒の様子はいかがですか。

野村先生:女子美大に進学するには全教科が評価されます。力を抜いていい教科がないんです。だから生徒は社会科もしっかり勉強しています。中学生は、手を挙げて発言するなど積極的に授業を受けています。

エデュ:全教科をしっかり学んでいれば進路選択の幅も広がりますね。

野村先生:進路の重みは生徒全員同じなので、希望する進路を実現させてあげたいと考えています。いろいろな方向で興味を伸ばせるように勉強しているから、生徒はさまざまな進路選択が可能になります。

教室

自然光をふんだんに取り入れる大きな窓のある教室。一番長い時間を過ごす場所だからこそ、勉強に集中できるように、清潔・快適が心がけられています。

エデュ:実際の進路は女子美大が多いのでしょうか。

野村先生:女子美大は約6~7割、女子美大以外の美大は約3割ですね。生徒たちは自分で進む道を決めています。

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授業と修学旅行のコラボレーション

エデュ:学校行事も、社会の授業内容や美術に関連付けているそうですね。

野村先生:高3の修学旅行では、京都・奈良の寺社で普段見られない特別拝観をします。美術を学ぶ学生ならではの体験です。
修学旅行のしおり製作では社会科の教員が中心に携わっています。社会の授業自体の工夫は、日本史と世界史は選択科目にせず、地理や現代社会・倫理なども含めて授業を行っています。文化に偏見を持たない学風も追い風となり、社会科授業への興味に好影響を与えていると思います。

修学旅行

美術史と関連した奈良・京都の寺院や美術館を見学する修学旅行。中学と高校の2回に渡って実施されます。

先生が教えてくれた女子美生の特長とは

エデュ:女子美とはどのような学校でしょうか。

野村先生:みんなが違っていても良いと認め合う文化があります。美術が好きだという一点で心がつながっているところも素敵だと感じます。好きという気持ちを持ち続けられる才能そのものを伸ばせる学校であり、その才能はあらゆることに活かされるのではないでしょうか。

エデュ:生徒の特長は何だと思いますか。

野村先生:勉強・部活動・行事でも、自分から進んで積極的に参加しています。主体性が身につくのが女子美の特長だと感じます。
それは、美術ができるようになるためには先生の助言が不可欠なことと関係しています。黙っていたら先生に見せることはできないので、生徒たちに積極性が生まれます。また、世界中の美術書を見て、絵の背景を知りたくなり、言語や歴史を自然に調べることもあるでしょう。

普段の風景

生徒同士の「美術が好き」だという思いを共鳴させることが、お互いの個性を尊重する女子美らしい文化を形づくっています。

実例として、英語が苦手だった生徒が卒業後、海外でデザインの仕事で活躍している例も多くあります。美術を通して生徒自身が主体性を伸ばした結果、他校にはない個性を生み出すのだと思います。

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編集者から見たポイント

さまざまな技術や情報に触れる機会が多く、文化的な面で苦手意識や偏見を持たない学風がある女子美。美術をきっかけにして、歴史や英語など幅広い知識の習得につなげるための工夫が、さまざまな授業や年間を通した行事に見られることがよく分かりました。卒業するまでには自然に主体性が身に付く。それが女子美の魅力の一つではないでしょうか。

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