アートを取り入れた課題で身につく発想力や表現力
inter-edu’s eye
美大付属校の女子美術大学付属高等学校・中学校(以下、女子美)では、普通教科に美術の要素を取り入れたり、自分の考えをアートで表現する課題を出すなど、個性豊かなカリキュラムを展開しています。今回は生徒たちからも「おもしろい」と評判のユニークな授業や課題の内容、そしてカリキュラムを通して育まれる力について、詳しくお伝えします。
美術を入り口に興味・関心を高めて、生徒の力を伸ばす
女子美では「知性」が「感性」を支えるという考えのもと、国語や数学などの教科学習に美術と関連した教科横断型の内容を取り入れています。生徒たちが学問に興味を持ち、学びを深めていく上で、美術がよい入り口となっているのです。さらに、夏休みや冬休みなどの長期休暇にはアートの要素を取り入れた課題を課して、生徒の個性や表現力を育成しています。
「キャンペーングッズ制作」で自分の得手不得手を知る
中学2年生が3学期に取り組むのが「キャンペーングッズ制作」です。身の回りにあるものを活用してオリジナルキャンペーンを企画し、その内容を簡潔に伝えるポスターを作ります。そして、キャンペーングッズを粘土を使って制作し、クラスメイトに向けてプレゼンテーションを行います。
課題について、美術科の浜田涼先生にお話をうかがいました。
インターエデュ(以下、エデュ):キャンペーングッズ制作を課題とする意図を教えてください。
浜田先生:デザインや芸術分野に限らず、社会に出て仕事をする際には、専門ごとに分かれ、ディスカッションを重ねて1つの物事を進めていくことが多いと思います。この課題では、企画から制作、プレゼンテーションまでのすべての作業を1人で行うことで、自分の得意分野や苦手分野を把握することができます。課題を通して、将来自分がどの分野に携わる仕事がしたいのか、考えるきっかけになればと考えています。
エデュ:印象に残っている過去の生徒作品を教えてください。
浜田先生:お菓子の缶の周りを粘土で覆って作った「ロイヤルブルーのケーキ型の小物入れ」は、プロフェッショナルな出来栄えに驚かされました。かわいらしいアリが数匹飾られていて、ユーモアのセンスも感じましたね。
猫が丸まって寝ているように見える「湯たんぽ」も印象的です。市販の湯たんぽを粘土で覆って猫の形を造り、毛の1本1本まで面相筆で細かく描写したものでした。制作した生徒は飼っている猫を何度もデッサンして、完成度を高めたそうです。
エデュ:先生が作品を評価する際のポイントを教えてください。
浜田先生:制作に集中し、楽しめたかどうかを重視します。また、しっかり調べて、資料を集めることができたかも大切です。インターネット検索のような簡単なもので終わらせるのではなく、自分の足を使って取材したり、スケッチをしたり、図書館に行くなど、五感を使って情報を得るように努力したかを評価します。これらのことができていると、おのずと説得力や魅力のある作品が生まれるように思います。
エデュ:キャンペーングッズ制作によって、生徒はどのように成長しますか。
浜田先生:美術の技術に関しては、ポスターの構成力や描写力に加え、粘土という素材の活かし方、道具の使い方などを学ぶことができ、今後の制作活動によい影響を与えます。また、グッズの完成によって達成感を得て、自分の力を信じることができるようになる生徒も多いです。
最後に作品のプレゼンテーションと鑑賞会を行うので、表現や考え方、伝え方の多様性を知ることもできます。
アイデアが詰まった夏休みの理科の自由研究
夏休みの理科の自由研究も個性にあふれています。中学1年生はグループごとに興味のある理科の事柄を調べてレポートにまとめ、発表を行います。中学2年生になると、個人で調べ学習を行い、iPadを使用して発表を行います。中学3年生では、1、2年で行った自由研究を踏まえて、個人かグループで興味のある事柄を調べて、発表を行います。
自由研究について、理科の青山晶先生にお話をうかがいました。
青山先生:テーマは生き物や星座、環境問題が人気です。見学レポートでは、イラストの使い方やまとめ方の工夫が個性的で、女子美らしさを感じます。
理科に関連した着想をもとに、作品を制作して提出する生徒もいます。作品はビニール傘を天球に見立てて夏の星座を再現したものや、12星座から12人のオリジナルのキャラクターを考案して作った変身ステッキなど、オリジナリティ豊かです。評価をする際は、内容の正確さや学んだことについての考察はもちろんですが、観る側を意識した構成に仕上げている作品にも高い評価をつけています。
パンフレット作りを通して英語力を身につける
中学3年生が英語の授業で取り組む「日本の寺院を紹介しよう」も女子美ならでは課題です。中学3年生は、修学旅行で京都・奈良にある13の寺院を訪れます。その中から特に印象に残った寺院を1つ選び、「外国人観光客に紹介しよう」という設定で、紹介パンフレットを英語で作成します。事前学習で調べたその寺院の歴史や特徴、実際に訪れてみて感じた見どころや感想などを盛り込みながら、魅力あふれる1枚に仕上げていきます。英文がわかりやすいか、写真やイラストが適切か、発表がうまくできたかが、評価されます。
編集者から見たポイント
キャンペーングッズや自由研究の作品は非常に手が込んでおり、生徒の「絵を描くのが好き」「ものをつくるのが好き」という気持ちが伝わってきました。ものを創ることには楽しさだけでなく厳しさも伴いますが、さまざまな課題に真摯に取り組むからこそ、発想力や表現力が身につくのだと感じました。女子美最大のイベント「女子美祭」にぜひ足を運んで、美術を愛する生徒たちの作品に触れてみてください。
イベント日程
イベント名 | 日時 |
---|---|
公開授業(中高共通) | 2019年9月28日(土) 8:35~12:40 |
中学校説明会 | 2019年10月5日(土) 10:00~ |
女子美祭 | 2019年10月26日(土)・27日(日) 10:00~17:00 |
公開授業(中高共通) | 2019年11月9日(土) 8:35~12:40 |
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