独自の美術教育が教養や感性、自主性を育む
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広く教養を深め、美術を中心に感性を磨き、創造性豊かな人間の育成を目指す女子美術大学付属高等学校・中学校(以下、女子美)。今回は美術科主任の遠山香苗先生にインタビューを行い、オリジナリティに溢れた女子美の美術教育について、たっぷりとお話をうかがいました。
女子美の「三つの美」とは?
女子美では建学の精神を表す教育目標として「三つの美」を掲げています。
その「三つの美」とは、「智の美」、「芸(わざ)の美」、「心の美」です。
【智の美】
さまざまな学びを通して、深く考え、自らの問題を解決する能力を身につける。
【芸(わざ)の美】
夢を実現するために、専門的な美術教育を通して、確かな実技力を身につける。
【心の美】
豊かな時間の中で、自分らしさを発揮し、世界の中で共生できる情操性を育む。
中学校、高等学校の6年間を通して、上記の「三つの美」を磨くきめ細やかな指導を行い、来たるAI時代に活躍できる女性を育成しています。
「三つの美」をより詳しく知る ≫中学の美術は何よりも「楽しむこと」が大切!
美術科主任の遠山先生に、女子美の美術教育についてお話をうかがいました。
インターエデュ(以下、エデュ):中学の美術教育について教えてください。
遠山先生:本校に入学する生徒は絵を描くことや物を作ることが好きな子がほとんどです。中学ではその「美術が好き」という気持ちをより大きく育てることが最も大切だと考え、生徒が楽しんで取り組めるユニークな課題を用意しています。画力やデッサン力を身につけるよりも、明るく伸び伸びとした雰囲気の中で作品制作ができるよう、創意工夫しています。
エデュ:中高の美術教育において大切にしているこだわりを教えてください。
遠山先生:なによりも手仕事を重要視しています。なぜなら、中高時代に自らの手で絵を描いたり、物を作る経験値を積んだ人ほど、アイデアの引き出しが豊富になるからです。現在はパソコンを使ってデザインや作品制作を行うことが主流なので、もちろんパソコンやiPadなどの使い方も指導しますが、アイデアの引き出しを多く持てばより抜きん出た存在になれると考え、生徒には手仕事を積極的に行うよう促しています。
エデュ:手仕事以外に生徒に薦めていることはありますか?
遠山先生:事象や素材をじっくりと観察するという意味合いで、何事も自分自身で取材することです。例えば花を調べる場合、パソコンで検索して画像を見るのと、自分の足で花を探して本物を見るのでは、体験の質が大きく異なります。五感を使って匂いや質感などを知ることが、作品制作のインスピレーションやひらめきにつながるのです。さらに、生徒には実物に触れたうえでスケッチを行うように薦めています。自分の目で観察して描くことで、創造力や表現力が身につくからです。
美術の要素が散りばめられた一般教科 ≫自主的に行動し、自己表現できる人間になる
エデュ:高校の美術教育について教えてください。
遠山先生:デッサンと工芸・立体制作を通して、美術の基礎となる描画力と造形力を強化します。また、女子美術大学との連携授業ではアーティストや研究者である大学教授陣の授業を受講でき、進学後の学部選択に限らず将来の職業観など、キャリア形成に大変役立ちます。
エデュ:高校2年生から始まるコース別授業について教えてください。
遠山先生:絵画制作の基礎力を高めながら水彩画・油彩画・木炭デッサンなどの技法や特質を深く学ぶ「絵画コース」、平面構成や鉛筆デザイン、デジタルデザインによる制作を通しての基礎力と技術力を発展させて表現の幅を広げる「デザインコース」、さらに2019年度からスタートした「工芸・立体コース」では工芸素材の性質や特性を学びながら道具の扱い方を習得していきます。これらの3コースから1つを選択し、大学・短大での美術教育に対応できる更なる技術力・表現力の向上を目指します。
エデュ:美術科主任として、先生はどのようなお仕事をなさっていますか?
遠山先生:3コースのカリキュラムの全体像を把握して、バランスを整えています。加えて、「絵画コース」の生徒の卒業制作にも深く関わっています。生徒と1対1で約7~8回面談を重ね、卒業制作の作品を決定していくのです。卒業制作はテーマの指定がないため、生徒は自分自身と向き合って描きたい絵や作りたい作品を見つける必要があります。生徒が自己と対話して本当に作りたい作品にたどり着けるよう、全力でサポートしています。
エデュ:とても手厚く指導されているのですね。生徒と接する際に大切にしていることはありますか?
遠山先生:生徒が自ら行動を起こし、積極的に作品に取り組む姿勢が身につくように導いています。また、生徒には常々「頭を固くするな」と言っています。他者の意見を受け入れることで化学反応が起こり、よりよい作品ができるからです。自分の考えに固執せず、柔軟に意見を取り入れて表現力のある生徒に育つことを願っています。
エデュ:受験生にメッセージをお願いします。
遠山先生:美術は何もないところから物を生み出せる、可能性にあふれた世界を広げてくれます。普段のちょっとしたことに新たな視点を加えることで日常生活を豊かにする力もあります。画材や道具の使い方は入学後にしっかりとレクチャーしますから、美術が好きだという方はぜひ受験してみてください。
さまざまな分野で活躍する卒業生 ≫編集者から見たポイント
自らが現役のアーティストでもある遠山先生によると、女子美では先生方が作った作品を展示する「教員展」を開くこともあるといいます。「作品づくりを通して研鑽を積み、そこで得たものを生徒に還元していきたい」と語る先生の力強いお言葉が印象的でした。
毎年3月頭には上野の東京都美術館で「卒業制作展」が開催され、女子美生の技術の集大成を間近に見ることができます。また、新年度からの説明会などで女子美を訪れて、美術への愛と活気に満ちた学校の雰囲気に触れていただきたいと思います。
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