サノフィ株式会社
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受験とかゆみの問題を考えるきっかけになる連載の第2回は、
皮膚のエキスパートとして活躍する「ひふのクリニック人形町」の上出良一先生から、
受験生への診療や家族との関係を通して蓄積された、
保護者の方が知っておきたいポイントについてお話をうかがいます。
お話を
聞いた先生

ひふのクリニック人形町院長
医学博士
東京慈恵会医科大学
皮膚科学講座客員教授
上出良一先生
乾燥肌が引き起こす
かゆみとストレスの関係
なぜ受験生にとってアトピー性皮膚炎は悪影響だと言われるのでしょうか
アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う湿疹が繰り返し現れるのが特徴です。患者さんにとって最も辛いのが「かゆみ」ですが、身体にとっては警戒警報でありながら、痛覚と比べて油断しがちな要素で、かゆみが続くと掻破(そうは ※かきむしり)が始まります。
一時的に我慢できてもいつの間にか患部を触わるようになり、不快感を和らげるために掻く衝動に駆られる依存状態になります。
また、かゆみとストレスには相関関係があるため、ストレスが生じるとかゆみが強まり、それがまたストレスを生むという、悪循環に陥る原因となってしまうのです。
そうなれば当然、実生活に困るほど集中力が欠如する結果につながり、勉強にも影響を及ぼすと言えるでしょう。
それほど苦しむとは想像もできませんでした
悪影響は勉強だけでないでしょうね
患者さんにとっては、かゆみから逃れることが最優先事項となり、他の要素は後回しの対象になります。
その状態は人間にとって重要な「睡眠」にも影響を及ぼします。無意識に掻き、熟睡できないとどうなるか。
近い将来、朝に起きられないほどの睡眠障害を抱えることになりかねません。
小中学生の保護者であれば想像しやすいと思いますが、学校がある日でも目覚めが悪く、学業に悪影響が生じることでしょう。
さらに、かゆみが原因で始まる睡眠障害は家族全体にも影響する例が少なくありません。
アトピー性皮膚炎に共通する要因
-
かゆみ
-
2型炎症反応
-
皮膚バリア機能の低下
受験生本人がかゆみに対処
することの大切さ
受験生に限らず、症状があるのを放っておくのは良くないことなのですね。
追い込まれた時こそ新しい治療法や新しい医師を探して頼りたくなる気持ちは分かります。
大切なのは普段から正しい知識を採り入れることです。
アトピー性皮膚炎に対する患者さんの誤解でよくあるのは、アレルギーが原因でアトピー性皮膚炎が引き起こされるというものです。
実は誤りで、本当のアトピー性皮膚炎の始まりは、乾燥肌による皮膚のバリア機能が弱いことです。
この状態がきっかけとなり、気管支喘息をはじめとするほかのアレルギー性疾患につながることを「アレルギーマーチ」と呼びます。
したがって、他のアレルギー疾患を引き起こさないためにも、皮膚のバリア機能を改善することは非常に重要です。
保護者としてはどうやって手助けしてあげられるのでしょうか
中学受験は小学生にとって新しい生活環境を迎えるチャンスですが、先ほど述べたように、かゆみで睡眠不足に陥ると受験勉強に影響が出てきます。
この年齢には本人が自立を試みるようになりますから、医師に相談してお子さんに合った治療法を見つけ、お子さん自身で症状管理ができることを目指してみましょう。
もしもうまく解消できれば、悩まされ続けてきたかゆみをコントロールできるのだから、勉強もきっとうまくいくといった自己効力感を覚えることでしょう。
その気持ちは中学受験を前向きなものに変えてくれるはずです。
アトピー性皮膚炎と付き合う治療の3本柱

- 薬物治療
- スキンケア
- 悪化因子への対策
将来に症状を持ち越さないために
3者協働が大切
どのように治療を進めていけば良いのでしょうか
治療を始める際には、お子さんの症状と予想される治療内容を主治医に相談しましょう。
以前であれば、アトピー性皮膚炎は外用治療が一般的だったのですが、患部の範囲や程度によっては全身療法に切り替えた方が良い場合があり、内服薬や注射薬といった選択肢が考えられます。本人の意向や生活サイクルなどをふまえて、お子さんや主治医と治療法をじっくり相談するのが良い結果への近道になります。
チームで寛解を目指す3者協働(通称PPP)の概念

- 患児(Patient)
- 保護者/キーパーソン
(Parents) - 医療者(Physician)
※看護師を含む
新しい知識を
採り入れることの難しさ
多様な治療法があることを始めて知りました
どれが正解なのか、悩んでしまいます
これまでは誤った情報収集が医療トラブルを引き起こすことがありました。インターネットで発信されている情報の多くは、本質的な治療法に結びつかないものであり、全てが信頼できるわけではありません。真実から遠ざけてしまう「新しいタイプの無知」と言えます。
医療者が患者さんごとに病状の本質を見抜き、治療法の選択肢(処方薬など)やコスト(薬剤費用・手間など)を提示しつつ、その人がどうありたいかに寄り添うことが求められる時代を迎えたからこそ、3者協働が大切なのです。まずは皮膚科専門医に相談いただくことをお勧めします。
小児にも新しい治療選択肢が増えたとお聞きしました
例えば、一昔前は漫然と処方する医師がいたため避けられがちなステロイド剤は、近年販売された新薬(分子標的薬と呼ばれる原因にピンポイントにアプローチする内服薬・注射薬)を代用もしくは併用して、最小限のステロイド剤使用で長期間良い状態を保つ「寛解維持」を目指せる可能性があります。
注意点として、即効性がある処方薬でも単体では長期寛解が難しい場合があるので、症状に合わせて他の治療法に乗り換えるようにアドバイスしています。
このような知識は通院しなければ得られません。患者さん個人にとって適切な診療が受けることが大前提になります。
アトピー性皮膚炎に関して知っておきたい基礎知識

- 自己判断で治療を
中断しない - 診療(診察・診断・治療)を
通して多様な治療法を知る - インターネットの情報は
信頼性を確認
受験スケジュールと治療計画は
同時スタート
どれくらいの治療期間を考えて行動すればよいのでしょうか
入試本番の期日が決まっている受験生は常に時間に追われるものですが、アトピー性皮膚炎の症状寛解にはそれなりの期間を要します。
そこで、私のクリニックでは中学受験であれば、小5の夏休みを目安にした中期的治療計画のスタートをおすすめしています。
肝心なのは、かゆみに左右されず健全な毎日を過ごすイメージを持てるようになることです。
受験生のお母さまにぜひメッセージをお願いします
医師として多くの患者さんの人生に長く付き合う中で、患者さんの成功体験の大切さを感じています。
私のクリニックでは受験生に学業成就のご利益があるといわれている鉛筆をあげているのですが、彼ら彼女らが小さな成功体験を重ねて大きく成長し、自分自身の生き方を改善しようとチャレンジする姿をたくさん見ています。
私の役割は、皆さんが抱えるアトピー性皮膚炎という足かせが軽くなる手助けをすることだと考えています。
かゆみをコントロールして勉強に集中できる状況を親子共通の目標にし、心身に無理がないように、そして頑張り過ぎないように続けていきましょう。

編集後記
お子さまに限らず保護者の皆さまにとっても、アトピー性皮膚炎はかなり身近な問題に感じられたと思います。
症状や診療について知っていたつもりの古い情報をアップデートする必要性や、医学の進化スピードにも気づかされました。
当記事を新時代の教養として、また世界を広い視野で捉えるきっかけとして読んでくださると幸いです。
企画・編集:インターエデュ・ドットコム
提供・取材協力:サノフィ株式会社
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