神奈川学園中学・高等学校
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2023年卒業生の進路実績が大幅な伸びを見せ、なかでも全体の3割超が理系学部に進学している神奈川学園中学・高等学校(以下、神奈川学園)は、女子の進路にまつわる先入観を一変させるインパクトをもたらしました。当事者である在校生・先生方のコメントを通して、新時代にふさわしい女子教育の奥深さをご紹介します。
かつて流行した「リケジョ」という言葉は、いまや当たり前のものになりました。強いこだわりや探究心を形にしてきた理系女子のお二人からお話をうかがいました。
お二人は部活動が入学のきっかけになったそうですね。
Y.T.さん
お父さんから「バイオエタノールの研究が面白そう」と聞いて以来、神奈川学園の理化部は自由に実験できると知って入学することになりました。入部当初は同学年の部員数が2名だけで大変な時期が続きましたが、徐々に部員が増えてきましたし、何よりもやりたいことなので続けられてきました。どれだけ努力しても私個人だけでは考えが及ばない場合があります。周りのメンバーから意見を採り入れて盛り立ててきたからこそ、みんなで助け合う大切さを強く感じています。
T.C.さん
生物部がある中学校だけを受験した結果、神奈川学園に入学することができました。1年生の部員は私だけですが、想像していた以上に楽しく、やりがいを持って活動しています。先輩たちと作ったビオトープでメダカを育てたり、学校に生えているセージの葉から紙を作ったりしています。
学校の授業に活用できることもありますか。
Y.T.さん
実験器具の扱いがだんだん慣れてくるので、授業中の実験成功率が高くなってきました。失敗する確率が低くなると教科書通りに結果が出るので、ノートに考察を書きやすいですし、勉強としても効率よく覚えられるようにもなりました。
T.C.さん
薬品の使い方が分かっているので、友達に実験方法を教えてあげることができます。自宅の庭に生えている猫じゃらしやミントの葉から紙作りをやってみようと思いましたが、手軽に入手できない薬品を使うので少し迷っています。
部活動で得られた経験や知識を将来にどう活かしますか。
Y.T.さん
実を言うと、大学で生物学を学びたいと考えているので、中高生のうちに化学実験をひと通り試してみようと思って理化部に入部したんです。先生から麻布大学に働きかけていただき、大学生とのプロジェクトに飛び入り参加するなど、大学の講義や校外活動にも関わってきました。卒業後は東京農業大学の生物資源開発学部に進学して、人と動物の関わり方や絶滅種を保護する方法を探ってみたいです。
神奈川学園だけのオリジナル要素を教えてもらえますか。
Y.T.さん
制服デザインが中学と高校で違って、私は高校生になってスラックスを履くようになりました。個人的にはスカートよりも今のスタイルが好きなので、同じような好みの受験生にとって入学の動機になると思います。
T.C.さん
生物部で神奈川学園オリジナルメダカを育てたり、高吸水性ポリマーに種撒きして育てた野菜を食べたりしてみたいです。それに、横浜駅から学校までの道中にある公園でいろんな動植物を観察できますよ。
理科教諭であり、理化部・生物部の顧問でもある先生方から、多様な進路の中からベストなひとつを選び取るための重要なヒントをうかがいました。
理系学部への進学状況が好調なようですね。
吉田先生
昨年は東京理科大学、慶応大学、上智大学などの理系学部に進む卒業生が多数いました。例年どおり、薬学部への進学者も多かったです。理化部の卒業生は上智大学理工学部に進学しました。
佐藤先生
以前よりも薬学部志望者が減って、理学部や理工学部を志望する生徒が増えました。資格取得よりも学習内容で学部を選ぶ傾向が強まっています。
それは理科の授業内容が影響しているのでしょうか。
吉田先生
中学からの「理科100実験」という生徒から大人気の取り組みが好影響を与えています。多くの実験を通して考察力を育てつつ、理科が自分たちの生活の根幹に関わっていることを実感させます。例えば「電流は家電製品と深い関係がある」と気づいてもらえるような仕掛けを用意しています。
佐藤先生
1年生に理科が嫌いか聞いてみたところ、6割の生徒が挙手した時期がありました。その原因を考えた時、受験は暗記に頼る部分が大きいからだと思い当たりました。女子は感性豊かなので、実物を見て楽しむことに長けています。そこで授業中は多くの実験に挑戦し、成功や失敗を楽しみながら勉強のモチベーションに還元したいと考えています。
大学受験で成功した生徒の共通点はありますか。
吉田先生
それは、模試などで学習の「やり直し」を重ねている点で、合格率にも明確に反映されます。また、常に質問をする生徒も同様です。佐藤先生にいつも質問していた生徒の場合は、もう大丈夫だと確信できるほど力を伸ばしていました。
佐藤先生
何度も失敗しながら手と頭を使う生徒の飛躍が目立ちますね。さらに、質問は数の多さだけでなく、自分はこうやって解いたのに結果が違うのはなぜか、と疑問点を言語化したうえで問いかける生徒が成功しています。
新しく始まった取り組みはありますか。
吉田先生
理科と家庭科の教科横断型授業を実施中で、さらに異学年間で実験を行う放課後講座、大学入試対策講座などを検討しています。最近の例では、佐藤先生の母校である東京理科大学内の数学体験館や研究室を訪れ、本物の分析器具が使用されるところを見学するなどして進学意欲をさらに高めています。
理化部は東京薬科大学と協力して薬の研究をしており、先ほどのY.T.さんは漢方薬の研究成果を発表しました。
中学受験生にアドバイスをお願いいたします。
佐藤先生
良い点数を取ったなど成功体験があっても余韻に浸り続けることなく、常に先を見て前進することが大切です。楽でなくとも辛すぎない、頑張れば何とかなるといった線を狙って努力を重ねていきましょう。気づけば自信がつくと同時に、夢を実現させる実力が身についています。合格点まであと10点足りないとしたら、どこを改善すれば良いのかを自分で考えるようになり、目標に到達できるようになりますよ。
神奈川学園の女子教育を先導されてきた校長の及川正俊先生からも、最新情報の数々をお聞かせいただきました。
2024年からリーディングプログラムが始動したそうですね。
及川先生
これは、東北大学の榊浩平先生を学習アドバイザーにお迎えし、読書とICT機器利用を意識的に見直すことで学習力を伸ばす取り組みです。7月に読書の実態調査を行った結果、自宅での読書冊数がかなり増えるといった一定の効果がありました。次の課題は読書の質と幅を広げていくことにし、読書検定やビブリオバトルといった取り組みを予定しています。
制服に新要素が追加されたとお聞きしました。
及川先生
バリエーションを増やしてほしいという生徒の要望や世情を鑑みて、スラックスや紺のソックスを導入しました。単にファッション面だけでなく機能性を考慮し、大変好評だと聞いています。合理性のある要望は積極的に採用していきますよ。
12月の入試問題体験会について教えてください。
及川先生
入試会場になる教室内で本番同様の体験をします。「こういう教室で受けるんだ」、「トイレはここにあるんだ」という細かなことでも、前もって把握しておけば心の余裕ができます。他の受験生と一緒に問題を解く経験は、本番もリラックスして臨める自信につながるでしょう。問題の解説は動画で確認できますから、解法やポイントを掴んでいただくと必ず当日に活かせるのでぜひご参加ください。
ひと言で表すと、神奈川学園はどういった学校ですか。
及川先生
生徒の可能性をできるだけ伸ばす学校です。
さらに、本校は「女性らしい私」ではなく、「私という個人そのものに向き合う」環境を用意しています。だからこそ、好きな教科を選んだ結果が文理の進学実績に反映されています。自分の可能性にふたをしない、自分の可能性を狭めない、そういう学校だと思っています。