inter-edu’s eye
130年以上続く伝統校、東洋英和女学院中学部・高等部(以下、東洋英和)と、江戸時代から続く伝統ある男子校、芝中学校・芝高等学校(以下、芝)は、東京タワーを挟んですぐ近くに校舎を構えています。今回は、両校の校長による対談が東洋英和にて実現! 共学人気が続く中、別学であり続ける理由や教育について大いに語ってくださいました。
133年前から必要とされ続ける女子教育
共学・女子校・男子校、それぞれの良さがあると私は思います。
東洋英和は、キリスト教が解禁されて間もない頃、日本の女性の地位の低さに驚いた宣教師が、女子教育の必要性を痛感して作った学校です。女子校の利点にこだわって別学にしているのではなく、理念を持って創設された歴史が現在の体制の所以。生徒も、「女子校だからではなく、東洋英和だから選んだ」と入学理由を語りますよ。芝もそうなのでは?
まさしく同じです。本校も、芝に入りたくて入学した生徒ばかりですよ。
芝は元々、江戸時代に僧侶養成と徒弟教育のために増上寺の中に作られた学びの場で、1906年に芝中学校となりました。こうしたバックボーンがあり、芝の教育方針の下に人が集まって、学校が存続されてきた歴史があります。
私立学校とはそういうものですよね。やりたいことを提示して、そこに人が集まって始まる。その中で、芝と東洋英和は建学の精神が校風に強く反映されている学校なのだと思います。
敬神奉仕と遵法自治
東洋英和の建学の精神には「敬神奉仕」があり、神を敬い、隣人(他者)を愛し、隣人に仕えることへ導くキリスト教教育を行っています。一方、芝は「遵法自治」を校訓に、互いを敬う「共生(ともいき)」の心を大切にした教育を行っています。
芝の人間教育のテーマ「共生」は、東洋英和の「隣人愛」に似ているなと感じますが、いかがですか。
おっしゃる通りです。武藤先生のお話によく登場する「人間として生きるとはどういうことか」という問いかけにも共感します。命は神によって与えられたものであり、人間としてどうあるべきかを教えることが、本校の教育の根幹だからです。学校教育は時代の変化に揺さぶられることが多々ありますが、宗教に基づいた教育は変わることも、ぶれることも決してない。これが我々のような学校の強みでしょうね。
憧れは誰にも止められない活力
武藤先生から、男子校らしいエピソードをぜひうかがいたいです。
中学1年の夏に、全員参加の臨海学校があるのですが、思春期にみんなと一緒に水着に着替えることを恥ずかしがる生徒がいます。しかし、帰る頃には恥ずかしいことでも仲間と一緒なら大丈夫だと感じて、自分をさらけ出すことができるようになるんです。
ジャージを忘れた生徒が、別のクラスの友達のジャージを着て体育の授業に出たという話もありますね。授業を終えた生徒が汗だくのジャージを返し、受け取った友達は、「冷たい!」と言いながらも平気でそのジャージを着て次の体育の授業に出たという…
面白いですね!
ジャージの話は親友ではなく、普通の仲のよさでも起こる出来事です。この“平気さ”が男子校らしいところであり、こうした場を目撃すると、うちは男子校だな…としみじみ思います。女子校はどうですか。
女子校は、先輩への“憧れ”が一番強い力です。代々受け継がれてきたことを私たちもやりたいと言い、教師が違うことを提案すると嫌がるんですよ。だから注意するときは、「それは英和生らしくない」という言い方が一番効き目がある。入学のきっかけも“憧れ”であることが多く、文化祭で在校生が踊る姿を見て自分も同じ舞台に立ちたいと思うそうです。この“憧れ”を活力とした行動が、伝統ある学校の文化を受け継いでくれているんですよね。その自負があるからか、卒業生の学校への帰属意識は驚くほど高いですよ。
男子は学校より、共に過ごした仲間への思いが勝りますね。ほかにも違う点を挙げると、女性は早くから感性に優れていると思います。
私は本校の卒業生が総理大臣になってくれたらなぁと思うことがあります。英和生のような感性を持った人間が、政治であれ経済であれ、各界のリーダーとして活躍してほしいと願っています。
どちらの卒業生が先に総理大臣になるか、競争するのもいいですね!
与えられた命をどう謳歌して、人のために使うのか
これから寿命が延びていく中で、最後まで人間らしく生きていけるように、芸術や文化への造詣を持ち、感性を磨く教養教育を大切にしていきたいですね。人間の幅を広げる教育です。
女性はライフステージが男性よりも複雑で、出産や育児のために退職・休職・復職をします。学生時代に身につけたものが、それぞれのタイミングで大きな力となるため、女子の中高教育に大きな使命を感じます。新しいことにも取り組みますが、教育のベースにあるのは、人ときちんと話ができるかということ。相手を尊重する気持ちがあれば、グローバル社会に飛び出すこともできます。受験を突破するテクニックではなく、昔から人として大切にされていることを、手塩にかけて、ぶれずに教え続けていきたいですね。
長い人生、定年退職して第2の人生を、伴侶を亡くして第3の人生を送ることになるかもしれません。だから男子も女子も、第2・第3の人生を考えられる生き方をしたほうが私も幸せだと思います。
芝の生徒が家庭を持ったら、出世より家族を大事にする考え方もできるようになってほしいですね。家事をするのは当たり前。学校の時間割に家庭科を週5で入れようかと思うくらいです。
互いを尊重し、男女それぞれのよさを活かすべきですね。
生徒には、東洋英和や芝という学校が、親からもらった最高のプレゼントだったと思える場所になってくれたらと思います。
いつでも帰る場所があると言えるのは私学の特権ですね。どちらの生徒にも、与えられた命をどう謳歌し、人のために使っていくかを常に考えて生きていってほしいと思います。
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