「生きる力」としての学力とは?花まる学習会の子育てシンポジウム参加レポート

inter-edu’s eye
今インターネット上には、子育てや教育に関する情報で溢れています。その情報が役に立つ一方で、かえって親の不安を煽り、子育てに自信が持てなくなってしまう親も増えているとのこと。そのような親たちの助けになればと、花まる学習会は保護者を対象に、4年前から「花まるカフェ」と称した子育てのお悩み解決の場を設けてきました。そして今回発展形として、6月9日に「子育てシンポジウム」が御茶ノ水ソラシティにて開催されました。参加してきたのは現在2児の母。親として共通の関心事である「これからの時代を生き抜くための子育と教育」について探ってきました。

子どもが自分の人生を“自分の力”で耕していくために必要なこととは

「子育てシンポジウム」午前の部の前半は、花まるグループ西郡(にしごおり)学習道場代表で同グループ公教育部部長でもある、西郡文啓先生の基調講演「『生きる力』としての学力」です。

親は、子どもが自分のやりたいことを仕事にし、自立した生活ができるよう「生きる力を身につけてほしい」と願います。では、「生きる力」とはどんな力なのでしょうか。

西郡先生は、「『生きる力』としての学力」を語るにあたり、花まる学習会代表の高濱先生と共に持ち続けている問題意識、「働けない大人」「不登校」を取り上げました。
西郡先生、ひいては花まる学習会は、この2つの問題を解決するため、子どもたちへの学習指導で取り組んできたことがあります。それは、隣の人とは全然違うということを出発点にし、子どもを絶対比較せず、子ども同士がお互いを認め合いながら学力を伸ばす環境を作るということです。

西郡先生は言います。
「人間はなぜ理解しあえないのか、どうして言葉が通じないのかと、子どもが嫌な思いもしながらもそれをさんざん経験してくと、人間は一人ひとり全然違う、能力が違うということに気がつく。その経験を積みながら、自分がどれだけの頭でどれだけことができるかを知っていくことが大事。『自分に正直に生きる』とは、美徳ではなくこういうこと。」

子どもが生きる力としての学力を身につけていくためには、まず子ども自身が「わたしはオンリーワンなんだ」と自覚すること。これが生きる力の根っこに必要なことなのです。

さらに、子どもが自分で学力を伸ばしていくためには、「当事者意識」と「自己肯定感」が大事と西郡先生は言います。

当事者意識とは、
「働くにしても勉強にするにしても、自分が当事者意識を持つこと。自分で何とかしようという意識がないと働くことも面白くないし、学習も自分でなんとかしようと考えないと伸びない」

自己肯定感とは、
「学習意欲というのは、『わかっちゃった』『できちゃった』という経験を積ませることで生まれる。自分の内なるものからの評価が大事。その積み重ねが自己肯定感につながる。親がほめるような外からの評価では実は弱い」
と、説明しました。

なるほど。親は子どものためと思い、手を出しすぎなのかもしれない。そして、親が力を入れれば入れるほど、わが子ができていないことを気にし、まわりの子どもと比べてしまう……。自立できるようにとあれこれやってしまうことが、かえって逆の方向に向かってしまう危うさがあると気づきました。

西郡先生は今回のテーマの結論として、「『生きる力』としての学力とは、生きるための知恵であり、人生を耕す鍬のようなもの」と話されていたのも印象に残りました。わが子にいつか伝えたい言葉です。

終身雇用が維持できない時代に生きて行くための必要な力とは

続いての講演は、花まるグループスクールFCの代表松島伸浩先生、聖ドミニコ学園カリキュラムマネージャーの石川一郎先生、いもいも教室主宰、栄光学園数学講師の井本陽久先生、エデュナビでもおなじみの教育ジャーナリストのおおたとしまさ先生、さいたま市教育長の細田眞由美先生という多彩な著名人によるディスカッションです。

松島先生は、前半の基調講演を受けて「終身雇用が維持できないこの時代で子どもたちが生きていくために必要な力とはどのような力なのか。今のお仕事に絡めた形でお話を」とお題を投げかけます。登壇者のお話の中から一部をご紹介します。

井本先生:子どもがやるバカっぽいことを魅力的に感じるのはなんでだろう…というところに本質がある。これからの時代を生きていくための学力を考えたとき、なんかいいなと感じていること、評価はされないけれど、そこを問い直すことが大事。

石川先生:クリエイティブとイマジネーションの2つの創造(想像)力が大事になってくると思う。創造(想像)力を鍛えていくためには、学習を通していろんなことを知る認知的な能力と、体験とか経験から得た非認知的な能力が大事になってくる。

細田先生:アメリカ留学時代「She is different(彼女変わってるね)」と言われ、それが褒め言葉だった。そういう個性が大事。「人生100年時代」と言われるこれからは、マルチステージの人生が待っている。人とのネットワークをつないでいく力、アイデンティティをいつも持てる力、生涯学び続けていく力が必要。

おおた先生:終身雇用が維持できない時代での生き方として、たとえばフリーランスというならば、そこそこの知力と体力、非認知能力の中でも特にグリット(やり抜く力)、さらにこれから必要な能力として、自分にはない能力を持った人とチームとなる力。単なる共感力ではなく、前提が違う人とネットワークと結んでいく力、そのための論理的な思考力とコミュニケーション能力、この分野ならわたしだという何かスペシャリティな能力が大事。

登壇者の方それぞれ表現は異なりますが、「生きる力」の根底に流れるものは共通していると感じました。

第一線で活躍する指導者が指南する“これからの教育”とは

ディスカッションは、時代の変化の中で教育はどのように変わっていくのか、登壇者のそれぞれの立場で考える“これからの教育”へと話が展開します。

井本先生:保護者が変わってきていることを感じる。今の教育、何かおかしいとどこかで思っている。時代が変わるといったときにどういう力が必要ということはあって、分析することも必要。でもそれがワクワクと共にどこか苦しさがある。それはなぜかというと、何かを子どもに身につけさせようとすると、絶対コントロールすることになるから。
子どもたちが大人から言われていることは「自己判断をしない」ということ。それは相手に責任を預けるということ。これだけすればいいとなる。子どもと接している現場から見ると、子どもの生き生きとした姿ってそんなところにあるのではない。魅力的なところがたくさんある。でも、これからの時代にはこういうことが子どもに必要となったとたんに、これが必要というものを通してその子を見る。その子自身を見られなくなって、その子が持つ魅力が邪魔になってしまうということがある。だからどこか重い気持ちになる。何かを身につけなければとなったとき、面白くなくなってしまうということがあると思う。

石川先生:昭和の時代、もっとがんばれがんばれで世の中でまわっていた。それが平成になって変わった。そこで子どもたちに対して言われたことは「自己肯定感」。これは、親や友人に愛されるということだけでない。わたしが世の中にいる意味がどうあるの?役になっているの?というところが大事。子どもたちのいいところを見つけていきませんか?それがこれからの教育かなと。

細田先生:教師時代、こういう力をつけると、心豊かに、経済も豊かに生きていけると自分の教育に自信があったが、それが15年前から自信がなくなった。そこで未来を生きる子どもたちに何が必要かと考える中、足掛け9年で大宮国際中等教育学校を開校。この学校では、3つのG「Grit(やり抜く力)Growth(成長し続ける力)Global(世界に視野を広げる力)」を身につけることを掲げ、国際バカロレアの教育プログラムを導入した。国際バカロレアも今や知る人も多くなり、日本の教育は変わるんだろうなと感じた。そういう教育を通して、子どもたちが本気で自分の頭で考えていく。いろんな違う考えを知り、自分の頭で考え抜くことをアウトプットしていきたい。

ディスカッションの最後には質疑応答もあり、充実の1時間半。時折会場は笑いに包まれ、終始和やかな雰囲気のシンポジウムでした。
正直なところ、今の日本の教育に対して不安に思う気持ちもありましたが、登壇者の教育への思いを聞いて期待が持てました。そして、その思いを今回のシンポジウムに参加した保護者の方と共有できたこと、そのこと自体がこれからの教育を明るいものにしていくのだろうと感じました。

登壇者の方は楽屋の打ち合わせで盛り上がった話もあり、また別の形でお届けしたいとのこと。今後のイベントにも注目したいと思います!

花まる学習会が運営するお母さんのためのコミュ二ティの場「花まるカフェ」では、私立中高の先生をゲストに、子育てのこと、受験のこと、将来のことを、コーヒー片手に気軽に話し合える場を提供しています。また「お母さんのための教養講座」では、思考力、算数、歴史、現代社会など10講義を通して、面白くてためになる、大人のための本当の学びの世界を体験できる講座を用意しているとのこと。興味を持った方はぜひ公式サイトをご覧になってみてください。