ノーベル賞受賞、中村修二さん「親だからこそできる教育」 第47回

ノーベル賞受賞・中村修二さん「親だからこそできる教育」2015年1月9日

ノーベル賞受賞・中村修二さん「親だからこそできる教育」 中村修二

「うちの子、言うことを聞かなくて」「勉強嫌いで困ってしまう」といった悩みを持つエデュママのみなさんに、ぜひ読んでほしい本があります。昨年、ノーベル物理学賞と文化勲章を受賞した中村修二さんの『反骨教育論』です。

というのは、中村さんの子ども時代はまさにそんなタイプだったのだろうと本書を読んで思ったからです。「暗記科目が大嫌い」「嫌いなことには全く興味が持てない性格」だったと書いておられます。
そして、そんな中村さんが算数好きになったきっかけは、小学校低学年のとき、算数の宿題をお父さまが教えてくれたこと。それがとてもうれしくて、九九もなかなか覚えられなかった中村少年は、徐々に算数ができるようになっていったのだそうです。

◆どこまでも体験に基づいた教育論

中村さんの教育論は、よくある教育評論家の提言とは違って、どこまでも中村さん自身の体験に基づいたものです。「子ども時代の記憶をたどり、父母から教えてもらったこと、大学へ入ったときに抱いた『怒り』から受験制度に対して持った疑問にいたるまで、個人的な体験から振り返り、日本の教育の問題点がいったいどこにあるのかを考え続けてきました」という中村さん。渡米後には米国の学校に転校した娘さんを通じて米国の教育の実態を知り、さらに日本の教育の現状に危機感を強くしたといいます。以下、「はじめに」から抜粋です。

「米国で教育を眺めてきて最近、特に強く感じるのは、米国では教育はあくまで親とその家族が主導する、ということ。そしてその大切さです。」
「私自身、両親から受けた教育に今でも大きな影響を受けています。理系科目が好きになったのは父親のおかげですし、英語が苦手でなくなったのは母親のおかげです。」 「どうも日本の親は、どうも自分の子について学校へ押しつけがちな面があるようです。(中略)自分の子なのにもかかわらず、どんな個性や資質があるのか、何に興味があるのか、よく知らない親も多いようです。」
「子どもの将来を考えるのは親の責任であり、その子の能力や可能性、将来に対する障がいを排除してあげられるのも親だけなのです。」

◆子どもをよく観察し、好奇心を引き出してあげる

本書の第1章「親だからこそできる教育」には、「大自然とのふれあいが創造性を育む」「勉強とはまず、親が教えるものと心得よ」「子どもの夢と希望を叶える教育を考えよ」など、毎日の暮らしに負われているとつい忘れがちな、でも決して忘れてはいけない親の心得が書かれています。経済的にも環境的にもごくごく一般的な地方の家庭に育った中村さんが、いかにして世界に冠たる開発を成し遂げるに至ったのか、そのルーツが見える章でもあります。

中村さんは、好きなことしかしない(できない?)個性的な男の子だった。ハンパじゃない負けず嫌いのやんちゃ坊主だった。そんなやんちゃ坊主がノーベル賞を受賞できたのは、そのやんちゃぶりを抑えることなくうまく伸ばしてくれたご両親や周囲の人々のサポートあってのこと…。

大自然とのふれあいがどうして創造性を育むのか? 雰囲気的なことではなく、そこにはきわめて科学的、具体的な価値があることがわかります。なぜ、勉強は親が教えるものなのか? なぜ子どもの希望を叶える教育がいいのか? 科学者らしいきちんとした理由が述べられています。

「親というのは、子どもの教育について周囲の環境に非常に影響されやすい人間」と、親の弱点についても語られます。
「自分の子どもの本質をしっかり見つめずに、他人と比較したり、他人を真似をしたりして育てる親が多い」けれど、「子どもが40人いれば、40通りの個性や人格があり、どんな大人になるのかという将来も40通り」だから、「他人の子育ての方法は、参考にこそなりますが、安易にマネをする必要など全くないのです。」

では、親はどうしたらいいのでしょう? 中村さんは熱く語ります。
「子どもというのは正直です。自分の好きなことは一生懸命にやりますが、嫌いなことはトコトン嫌がります。
表面的には従っているように見えても、やはりどこかに好き嫌いが出てくる。その信号を見誤ってはいけません。もしかすると、それは本当に小さい芽かもしれません。
子どもがどんなことが好きか。どんなものに興味を持っているか。日常的によく観察し、子どもの好奇心をうまく引き出してあげればいいのです。」
自分の子どもは何が得意なのか、どんな能力を持っているのか。それを育ててあげるのが大人の役目です。チャンスと場を与え、ほめてあげ、理解してあげる。」

中村さんの書いていることは、きわめて当たり前のことのようにも思えます。でもその当たり前が、差し迫った現実を前にした親の心の中で、「理想論」の一言で片づけられ、もろくも崩れ去ってしまうことも多いのではないでしょうか?
でも中村さんは、「好きなことしかやりたくない」を通してノーベル賞を受賞。ご両親のサポートにも感謝しておられます。
新しい年の始まりに、まっさらな心でお子さまにどう向き合うか、親子の原点に立ち返って考えてみてはいかがでしょう。

中村修二 LED

中村修二の反骨教育論-21世紀を生き抜く子に育てる-

中村修二著、小学館新書、(本体)760円+税
幼少期からの親の教育があって今の自分があるという著者が、「このままでは日本の子どもは世界で生き残れない!」と、海外に出たからこそ見えてきた危機的な日本の教育現状をふまえて、「親だからできる教育がある」「学校教育に任せるな!」「みんな一緒じゃなくていいんだ」と、子どもたちへの熱い思いを根底に、親には厳しい言葉も織り交ぜながら語る。「日本の子どもの、これからの時代に世界で“生き抜く力”を育てる」ために親はどうすればいいのか? 自分の体験に基づいた23の提言を、「親だからこそできる教育」「日本の教育制度批判」「米国の教育システムに学ぶこと」の3章で構成。2003年刊の単行本『日本の子どもを幸福にする23の提言』に受賞直後の最新メッセージを緊急掲載し、加筆訂正して新装刊。
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中村修二 LEDでノーベル賞受賞

中村修二(なかむら しゅうじ)さん
1954年愛媛県生まれ。徳島大学工学部電子工学科卒業後、同大学で博士号取得。大学院1年のときに結婚し、3女の父。79年に日亜化学工業株式会社入社。93年12月、20世紀中には不可能と言われていた高輝度青色LEDの実用製品化に成功。95年青色半導体レーザーの室温発光に成功。99年、日亜化学工業退社。2000年2月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校材料物性工学部教授。工学博士。2014年ノーベル物理学賞を受賞。同年、文化勲章を受章。