「教師の日」を知っていますか? ~「教師の日」を通して考える先生の長時間労働の実態と解消に向けて~

inter-edu’s eye
かつては人気が高く憧れの職業だった「学校の先生」。しかし、常に課題が山積みで長時間労働を強いられる過酷な状況に、今では志望者の数も減っているとのこと。そんな学校や先生の厳しい現実が報じられる中、明るい話題が舞い込んできました。「先生ありがとうフォーラム~『教師の日』を通じて感謝の気持ちで東京を埋め尽くそう~」というイベントです。先生を取り巻く環境を少しでも変えられるヒントが見つかるのではと思い、7月12日に板橋区グリーンホールにて開催された本イベントに参加してきました。

先生はなぜ、そんなに働かなくてはいけないのか

「先生ありがとうフォーラム」とは、公益社団法人東京青年会議所板橋区委員会が中心となり進められてきた企画です。2018年に初めて開催され今年で2回目ですが、会場は満席となり、関心の高さがうかがえます。

イベントの第1部では、「教師の日」の普及をテーマにしたパネルディスカッション、第2部では、実際に「教師の日」を実施した際の運営に関する講演、第3部ではPTAの視点から見る「教師の日」に対する感情や取り巻く環境についての演劇が行われました。

第1部のパネルディスカッションでは、司会を板橋フォーラム実行委員会代表の鈴木好行氏が務め、パネラーとして、東京都板橋区教育委員会教育長の中川修一氏、NPO法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長の生重幸恵氏、NPO法人Teach For Japanの代表理事であり、「教師の日」普及委員会の代表理事でもある松田悠介氏が登壇されました。

ディスカッションは、現在の教育現場の実態から話は始まりました。

東京都板橋区教育委員会教育長の中川修一氏
東京都板橋区教育委員会教育長の中川修一氏

中川氏は、
「現在の学校をトラックにたとえると、4tトラックに8tの荷物を積んで走っている状況。しかも毎日の走行時間も距離も長く、いつ事故が起きてもおかしくない状態です。さらに届け先からはもっと早く届けろ、ダンボール箱が痛んでいるぞ、と厳しい苦情や注文が告げられ、先生方は精神的にも追い込まれている。学校は積載量オーバー、スピードオーバーで長時間運転をしているトラックのようであり、先生方はまるでオーバーワークで疲労感いっぱいになりながらも目をこすり、頭を振りながらハンドルを握る運転手のようです。」と説明しました。

長時間労働の実態を数値で示すと、先生が学校にいる時間は、週あたりの平均で、小学校が58時間30分。中学校の教員は64時間35分。過労死ライン相当と言われている週60時間以上在校している教員の割合は、小学校38%、中学校で68%とのこと。

先生がこれだけ働かなくてはいけない理由とは一体何なのでしょう。

中川氏はこう続けます。
「1つは学校で教える内容がどんどん増えていること。小学校では来年から始まる英語の必修化とプログラミング教育のほかにも、さらに、主権者教育、消費者教育、法教育、環境教育、実験教育等々もある。また、子どもたちが主体的に学ぶ(アクティブラーニング)指導法を工夫するために、先生方は授業の準備に多くの時間を費やしています。2つ目は児童虐待の対応、いじめの防止対策、アレルギー対策、学校の安全対策など新たな対応や、課題を抱える子どもたちへの特別な支援、外国籍の子どもへの日本語の指導。そして、不登校や保護者からの様々な訴えなど、学校が対応する課題がより複雑化、多様化し、結果、学校や教育の役割が拡大せざるを得ない状況にあるのです。」

学校は、グローバル化、IT化が急速に進む中で、新しい教育にも取り組まなければならない。そして、子どもたちを取り巻く環境の複雑化、多様化によって引き起こされる課題にも対応しなければならない……。先生が働く環境を改善しなければ、先生はますます疲弊し、子どもたちにも影響が及ぶことが懸念されます。

はたして、学校が置かれている現状を少しでも良くする、解決の糸口はあるのでしょうか?

地域コミュニティが学校を支える役割に

そこで今期待されているのが、「コミュニティースクール(学校運営協議会制度)※」です。

親世代が子どもの頃は、近所同士の交流がさかんで、親だけではなく地域で子育てをするという考えもあり、その中心が学校であったように思います。しかし現代は、核家族化やライフスタイルの変化で地域コミュニティが形成されにくい状況です。そこで、制度化することにより、再びコミュニティが機能することを目指しているようです。

コミュニティスクールが制度化される前から、PTA活動を通して地域と学校をつなぐ役割を長年担ってきた生重氏は、地域コミュニティの役割、利点を次のように伝えました。

NPO法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長の生重幸恵氏
NPO法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長の生重幸恵氏

「自分の子どもは自分一人で育てられるというのは大間違いで、より多くの大人に関わっていくなかで子どもは育っていくもの。そういう思いでいれば、先生とともに一緒になって育てていこうという機運は高まるはずです。地域の側も場を提供し、子どもも独居老人もみんなでご飯食べようよとか、元塾、元学校の先生が勉強を教えてあげようよとか、そういう中で信頼関係が生まれてきます。子どもが大人を信頼できる環境があれば、学校でも子どもたちが抱えている課題がわかってくるでしょう。
たとえば、地域で行われている野球やサッカークラブ。そこで信頼できるコーチや監督がいることも大事。そこでの体験が子どもの『非認知能力』を育てる。学校で学ぶ『認知能力』に繋げるためにも、地域や親が責任を持って、子どもの『非認知能力』と言われるところにいかに関わっていけるかが大事です。」

地域コミュニティが機能することで、教員の長時間労働や子どもの貧困、ネグレクトといった社会的な問題を根本から解決できるわけではありません。しかし、地域、学校、家庭が一緒になって子どもを育てていこうという姿勢が、子どもと大人の信頼関係を築き、そこでの体験が、社会の中で生きていきていく力につながるのだと思いました。

※コミュニティスクール…学校と保護者や地域がともに知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら子どもたちの豊かな成長を支え「地域とともにある学校づくり」を進める法律(地教行法第47条の6)に基づいた仕組みのこと

みんなで学校を支えていく、だから“先生ありがとうの日”

第2部では実際に「教師の日」を行った事例が紹介されました。

板橋区立赤塚小学校の事例
板橋区立赤塚小学校の事例:PTAが主導となって企画。学校での時間調整が難しい中、朝の時間を利用して実施。発表は板橋区立小学校PTA連合会長沖田和雄氏。
私立宝仙学園中学・高等学校の事例
私立宝仙学園中学・高等学校の事例:教師への感謝を寄せ書きや手紙で伝えるセレモニーを実施。発表は宝仙学園高等学校の古井伊織氏。
NPO法人Teach For Japanの代表理事/「教師の日」普及委員会の代表理事の松田悠介氏
NPO法人Teach For Japanの代表理事/「教師の日」普及委員会の代表理事の松田悠介氏

実際に学校で行われた「教師の日」のイベントに参加した松田氏は、
「生徒たちが『教師の日』をやらされた感ではなく、本当に自分たちは日頃から先生に感謝しているので、そういう日があるのであればぜひともやっていきたいと主体的だったのが良かった。生徒が自分の親やPTAを巻き込みながら、生徒会が中心となって当日花を贈ったり歌を歌ったり手紙を贈ったりして、先生にインタビューすると『すごく感動しました、また明日から頑張ろうと思います』と感動されていました。先生はありがとうと言われるために日々仕事をしているわけではない。でも、実際に言われるとエネルギーが湧いてくると言っていて、とても素敵な事例でした。」と感想を述べました。

学校や先生をサポートし、みんなで子どもたちを育ててく。温かい輪が広がることで解決できることも増えていくのかもしれません。それは、たった一言の「ありがとう」でつながり、お互いが抱える課題を解決しようと、行動に移す活力にもなる。「教師の日」の普及にはそういった意味もあるのではと、考えさせられました。

教師の日
1994年国際連合教育科学文化機関ユネスコによって、教師が教育を行う権利や子どもが教育を受ける権利の認識や理解を高めることを目的とし、10月5日を『世界教師デー』として定められたもの。今では世界100カ国以上にわたり、教師に感謝を伝える日の記念日として広く認識されているが、日本ではまだまだ広く知られていない。そこで、一般社団法人「教師の日」普及委員会が中心となって、「教師の日」を広める活動を実施。「教師の日」の普及に取り組んでいる自治体はまだ少なく、「教師の日」普及委員会では、まず東京都23区から、そして全国に広めていきたいとのこと。