グローバル化が進む教育界で保護者がすべきこととは―未来の先生展2019・「教育とEducation」より−

inter-edu’s eye
「Education」の日本語訳は「教育」。でも「教育」は「Education」本来の意味と同じなのだろうか…。その一つの疑問が発端となって、日本の教育やグローバル教育について考えようという試みが行われました。
グローバル教育は人材育成の観点から近年、特に教育市場において加速化している取り組みです。多様な進路選択が可能になった中で、生徒・保護者、教育関係者が構築すべき教育や進路選択とは? その傾向を探るべくエデュナビ編集局Kが行ってきました。

本来は引き出し導く意味のEducation

この講演会は「未来の先生展」(9月14日(土)、15日(日)、東京・御茶ノ水・明治大学駿河台キャンパスリバティタワー開催 ※)にて行われたプログラムの一つです。

グローバル人材の育成は、文部科学省が発表する教育指導要領でも重要な柱であり、近年、多くの学校でも教育指標の一つとして力を入れてきています。国際バカロレア資格(以下、IB)を取得できる学校やインターナショナルスクールが増えていることも、その傾向が現れているといえるでしょう。

電通 教育ガラガラポンプロジェクト代表の福田崇氏
電通 教育ガラガラポンプロジェクト代表の福田崇氏

そこで、このプログラムでは「グローバル化時代に教員・保護者が知るべきこれからの進路選択」とは何かについて、電通 教育ガラガラポンプロジェクト代表の福田崇氏をファシリテーターに、ドルトン東京学園/参事(副校長補佐)安居長敏氏、 千代田インターナショナルスクール東京(以下、CHIST)学園長補佐 津吹達也氏を迎え、聴講者からの質問・意見を交えながら討論形式で進みました。

福田氏は開成高校から東大に入り、電通に入社。最難関校の受験を経て広告ディレクターの仕事をしていく中で、これまで自分が受けた教育とは何だったのかを振り返るとともに、今大きく変化していく教育業界に興味を持ち、社内プロジェクトとして「電通 教育ガラガラポン」を立ち上げ、教育業界のオピニオンに取材を続けています。

討論会は4つのテーマに沿って進められました。

1.教育って「ガラガラポン」するの??
2.その中でインターナショナルスクールは?
3.ずばり、グローバルスタンダードカリキュラムを受けさせた方がいいの??
4.結局、教育ってどうなるの?

まず討論の前にEducationの和訳が「教育」になった経緯について福田氏が振り返りました。

Educationが教育になった変遷

もともとEducationのもととなるラテン語のeducatesは引き出し導くという意味を持っています。
では、導き引き出すという意味合いからなぜ「教育」となったのか、これは明治時代、Educationを日本語に訳すときに、「教化」とするか「発育」とするかで大きな論争となり、間をとって「教育」となったという経緯がありました(写真参照)。

そうした背景を踏まえ討論はスタートしました。

テーマ1.教育ってガラガラポンするの?

「教育が大きく変化し、古いものがガラガラしながら新しいものがポンポン生まれている印象がある。まさに『ガラガラポン』であり、そう思っている人も多い」と福田氏。ちなみにガラガラポンという言い方は広告業界ではスクラップ&ビルドの意味合いでよく使われる言葉だそうです。

そこで、最初のテーマは福田氏がまさにガラガラポンだと感じた4つの新たな出来事について問題提起し、登壇者2名がそれぞれの見解を発表していきました。

その1.英語教育の低年齢化

「3年生から必修科目となるが遅くないか」という問いかけに対し、自分のお子さんをマレーシアのボーディングスクール(全寮制の学校)に留学させている津吹氏は「自分の子どもの経験からだと10歳くらいでもよいのでは」という見解を述べました。

一方、安井氏は「早い時期からやることはいいが、やるならほかのところを削ってでもやらないと。自分は英語を教科にした時点で大反対なのだが、今の方法では何を教育するのかが見えていない」と疑問をのぞかせていました。

その2.文部科学省が進める国際バカロレア推進

「2018年までに200校を目指すとしていたが、現在どこまで進んでいるのか、停滞しているようにも見えるが」という福田氏からの問いに津吹氏は「英語で行うとかなりの英語力が必要になるので、文科省は日本語でのIB取得をしていこうとしている。進んでいるか停滞かでは停滞しているように思う。また数ありきで進められているので、導入した学校の成果が引き継がれない。サッカーをやっていた先生がいきなり野球をするような転換だと思うので、先生が苦しそうだ」という見解を述べました。

その3.2019年10月に幼児保育無償化スタート

「プリスクールが増えるのでは?」という疑問について、安井氏は「無償化という言葉だけが先行。もっと大きな制度設計が必要だったのではないか」と述べ、どうなるかは様子見とのことでした。

その4.2020年4月新学習指導要領の改訂

「教育者主導が学習者主導になり、IBのほか、グローバルカリキュラムへの対応など、相当大きな変化が起こっている。生徒より先生が混乱していないか」という問いには、「それこそ野球とサッカーに種目が変わるくらい先生たちが大変」と津吹氏。

そこでどんな新しいことが起ころうとしているのか、福田氏が選定した項目についてそれぞれ話したい項目を選択していきました。

写真3

安井氏は4つ目の「未来型、進化型高校の創設が相次ぐ(N高、ゼロ高など)」を選択。
「N高、ゼロ高については、まだ危なっかしいと思っている人も多いかもしれない。また、中学受験を勧める立場ではあるが関東圏の中学受験の異様な過熱ぶりについては冷静に考えないといけない。そのためには、情報の質、量が重要」と情報をキャッチした上で、冷静に判断できる大切さを語りました。

これらの討論を受け、福田氏はピアソン社(世界最大の教育関連企業)の主席教育顧問 マイケツ・バーバー氏が備えた「教育40年ギャップ説※」やCHISTの大迫学長による「教育は変わることが前提では」という提言について紹介。安井氏は、「教員もそう思っているが、従来の成功体験を持っている。そこにガラガラポンではなく、新しいことを付け足そうとしているのが今の教育界。成功体験は切り捨てていかないと変化はできない」と述べました。

このセッションの結びとして、福田氏は「教育って、大人の後悔だ」とも語りました。
ちゃんと後悔している人が教育界に多くなれば多くなるほど、教育が変わる可能性が高くなる。また完璧な教育を受けた人間なんていないので、教育に期待しすぎるのもおかしな話なのではないか…。

写真4

40年ギャップ説というのは個人的には初めて聞いたものでしたが、確かにわれわれが教育を受けてきた時代と、今とでは子どもたちを取り巻く社会、世界事情、すべてが変わっています。昔これで良かったということが通用しない時代の教育について改めて考えさせられます。

※親は、自分が受けた「20年以上前の教育」を基準に、自分の子どもに教育しようとして、教育者は、「20年後の世界」をイメージして、教育しようとすること

テーマ2.その中でインターナショナルスクールは?

2つ目のテーマはインターナショナルスクールの現状ついて。登壇者2人の学校紹介とともに、インターナショナルスクールがここ10年で世界的に増えており、日本での需要も増えていますが、日本には小中義務教育という壁が。この事情について、安井氏は「仕事などで海外から日本に来られる人は日本の学校に入れようとしない現状がある。理由は IBを保証してくれないから。これからはどこにいても子どもが教育を受けられる環境が(日本でも)求められる」とのこと。

そうした規制をまさに”ガラガラポン”した事例としてマレーシアの事情を紹介。規制緩和したたことでインターナショナルスクールも増加し、通学する生徒も飛躍的に増えています。
その事例として福田氏の会社後輩でマレーシアに移住し、インターナショナルスクールに通っているお子さんが、「年齢の違う生徒同士で自由に学び合うことができていい」と発言していたことを紹介。ダイバーシティをまさに体現していると感じたそうです。

テーマ3.ずばり、グローバルスタンダードカリキュラムを受けさせた方がいいの??

世界標準の教育、「グローバルスタンダードカリキュラム」を実践する学校が注目されています。
そこで3つ目のセッションでは、

・これからの子どもが日本から出なくて一生を生きるのか
・少子高齢化が進む日本が子どもたちのやりがいをつくり続けられるか
・日本の教育は日本を出たくなったとき出られる能力を高められるか

この3つの疑問をもとに話が進みました。

毎年スイスで開かれるダボス会議において、2017年、「未来の仕事の65%はまだ存在しない」という数値が発表されました。今ある仕事を前提に話をしていたとしても子どもたちが社会に出るときには、現在では存在していない新しい仕事に就いている可能性がある、そういうことを意識しているのです。

こうした予測不可能な局面を表す言葉で、最近「VUCA※」(ブーカ)という言葉が使われています。ここで話されているように、さまざまな事象が絡み合い、予測不能なことは確かに多いように思います。これからはVUCAに対応する能力をどう身に着けていくかが問われる時代になると感じました。

※Volatility(変動性) Uncertainty(不確実性) Complexity(複雑性) Ambiguity(曖昧性)の4単語の頭文字をとった言葉

テーマ4.結局、教育ってどうなるの?

写真5

自国の教育を主とするナショナルカリキュラムで学ぶのか、あるいは世界を見据えたグローバルスタンダードカリキュラムを学ぶか、大きな選択を行うことになるだろうという見解が示されました。

福田氏は「教育の選択肢がようやく揃うのではないか。未来に必要な教育の逆算をし始めているのでは」とも語りました。

しかしながら新しい教育についてはお金もかかるだけでなく、受け皿も少ないのが現状。津吹氏は「新たな教育を行うにあたってはSDGsの考えも必要。またナショナルカリキュラムが崩れないかぎり大きくなるのは無理では」、という見解に対し安井氏は「広島のように教育委員会が変わっただけでガラっと変わったところもある。あとは、検索サイトの検索窓に自分でどんな言葉を入れて検索するか。日本語で検索するのと英語で検索するのでは情報の量、質まったく違う」と改めて情報収集の大切さを語りました。

日本語の「教育」は、英語の「Education」と似て非なるものでは?ということから始まり、Educationの本質と、今日本で起こっている教育の変革、世界の教育はどうなっているのかなど、90分という時間の中で教育の歴史と現状を壮大に駆け巡ったような討論会でした。

インターナショナルスクールやグローバルスタンダートカリキュラムについて話を聞く中で感じたのは、新たな教育を受けるにしてもやはり必要なのは情報収集、質の良い情報を取得することの大切さでした。

そのためにはどんな言葉で検索するかが重要です。検索は自分が知っている言葉以外ではできません。保護者自身も、教育事情の変化について感じとり、常に新たな情報に触れ、そして子どもたちの力を導き引き出すための知識が求められているようにも思いました。

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※未来の先生展とは
2017年度初開催。以降、日本最大級の教育イベントとして毎年開催。今年度は、21世紀がスタートして約20年。残りの80年で日本社会、学校現場、それらを取り巻く環境はどのようになっているか。テクノロジーからソーシャルまで、明日使える実践的なものから考え方を磨くものまで、日本各地や世界など幅広い範囲から21世紀の教育を考える、不易流行の要素を網羅しようということで、2日間にわたり講演会やワークショップなど延べ134のプログラムが催された。


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