「本物の音楽に触れ、学ぶ」。音楽を心から楽しめる音楽教室「音の森」

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花まるメソッド音の森代表 笹森壮大氏
音楽教室と聞くとどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。「同じ練習をひたすら繰り返している」とか「練習が厳しそう」など、たとえ音楽教室に通ったことがなくても、そんなイメージを持っている人もいるかもしれません。
今回取材した「花まるメソッド音の森」(東京・御茶ノ水)は新しい音楽教育を目指して、2015年に開校。これまでに4年で延べ1000人近くの子どもたちが学んできました。
「音の森」の方針は「本物の音楽を聞かせる」こと。「本物の音楽」とは何か、それに触れることで子どもたちにどんな成長が見られるのか、代表の笹森壮大氏にお話をお伺いしました。

音楽を学ぶことが楽しめない…16歳で気づいた音楽教育の違和感

代表を務める笹森氏は4歳よりチェロを始め、桐朋学園音楽大学に入学し、フランスに留学という経歴を持っています。幼くしてチェロを手にしたと聞くと、このまま演奏家としての道を進むようにも思いますが、「音楽の教育者になる」という思いは、16歳の頃から持っていたのだそうです。

「これまで演奏家としても、指導者としても素晴らしい方にはたくさん出会ってきましたが、なかには指導となると、うまくできないと怒鳴ったり、弓でたたいたりという現場もあり、そのせいで音楽が嫌いになっていく子どもたちも一定数いたんです。そういうことを目の当たりにしてきて、こうやって音楽が嫌いになってしまったら、その責任は一体誰が取るんだろうという憤りを16歳の時に感じたんです」。

そこで、40歳くらいになったら音楽教育者の集団をつくろうと考えた笹森氏。まずは自分の実技を磨くため、19歳でフランスに留学。帰国後は、演奏家としての活動を積み、また自身も学んでいた「スズキ・メソード」(※)では、指導者側として参加し子どもたちをウィーンの演奏旅行に連れていくことなどを経験してきました。

※ヴァイオリニスト鈴木鎮一によって創始され、音楽を通じて心豊かな人間を育てることを目的とする教育法の一つ。現在、公益社団法人才能教育研究会が普及推進しており、日本に限らず、アメリカなどでも教育活動が展開されている。

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そうした日々の中で、自分が教育者として勉強できる機関はないか探していく中で出会ったのが花まる学習会でした。
「躍動している子どもたちを見て、こんなふうに音楽の勉強ができたら最高だなと思ったんです」と笹森氏。まずはアルバイトということで入社しましたが、花まる学習会代表の高濱氏自身も音楽好きだったこともあり、「それならうちでやっちゃいなよ」と声をかけられ、すぐに契約社員になりました。

「うちでプロジェクト立ち上げていいから半年後には始めてよって。でも教材作るのに4年かかってしまって(笑)。昼は花まるの教師をして、夜は桐朋や芸大にいる仲間を集めて夜な夜な教材づくりをしていました。しかも設立後も1か月先の教材を作りながら授業をするという、まさに自転車操業でしたね(笑)」

しかもその教材作りは、月1万円の軍資金を集めながら作業していたとのこと。

「パソコンを用意して、制作ソフトの使い方を覚えるところから始める。しかもお金が出るどころか、自分たちで払う。しかも私からは大量の業務が降りてくるという…。でもそれがなんでできたのかというと、われわれのビジョンの中に、日本で一番いい音楽教育をやるんだということが明確にあり、音楽教室を開いたときに、それがちゃんと花開くと思っていた。だからできたんだと思います」。

世界各国の民謡は現地の言葉で。アプリも開発

「音の森」の音楽学習は大きく2つに分かれます。楽器は使わず、音楽の知識や理論を楽しみながら体験する集団音楽教室と、1:1で実技を学ぶ個人レッスンです。

集団音楽教室では、幼児対象の「リトミックコース」、5〜6歳対象の「年中長コース」、小学生全対象の「ベーシックコース」、小学校4年生以上が対象の「エキスパートコース」です。

苦心の末に生み出したオリジナル教材は音楽用語、読譜、記譜、民族音楽、伝記音楽、教会音楽など多様な分野に渡っています。

たとえば音楽用語は発声しながら3年間で300個覚えたり、作曲のノウハウをプリントで勉強したり、海外の民謡はすべて現地の言葉で歌い、グレゴリオ聖歌などの教会音楽はラテン語やギリシャ語などで歌うという授業もあります。

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自社で制作した教材の数々

「この伝記音楽教材の『おぺら』では、バロックから現代まで、60人以上の大作曲家たちと、約200曲の作品を伝記と生演奏で紹介していますが、オペラの物語は子ども向けに書かれたものがあまりなく、図書館などから資料を集めて自分たちで書き直したりしたんです。また授業で聴かせる生演奏も実際はオーケストラでやるようなものなので、ピアノ用に編曲したりしているんですよ」。

最近ではアプリ教材も開発しました。これは宿題に使っており、譜面を読む読譜、楽譜を読んで演奏する初見、リズム打ち、音を当てる聴音など、1日10分、ゲーム感覚でできるというもので、しかも1日1回しかできないのだそうです。

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「私たちは音大に入るために実技以外にソルフェージュ(※)の訓練もしますが、実はこのレッスンにはものすごくお金がかかるんです。この音楽アプリにはそのソルフェージュで行う要素が全部入っている。しかも毎日やることで音楽的能力は飛躍的に向上するんです」

※楽譜の読み書きやリズムの学習など音楽の基礎的な訓練

本物の音楽に触れることで育まれることとは

一から手作りした教材の数々もさることながら、「音の森」の一番の魅力は、毎回子どもたちに本物の音楽を聴かせるというところにあるでしょう。

笹森氏は「本物の音楽に触れること」について並々ならぬ思いを持っています。

「音楽に触れるからこそ生まれる効果はたくさんあります。教室では必ずピアノとバイオリン、チェロのアンサンブルで1時間半ずっと伴奏しますので、当然子どもたちのモチベーションはあがります」と笹森氏。本物の楽器で伴奏してもらいながら聖歌を歌う…想像するだけで大人でも感動するシチュエーション。活気あふれる授業の様が目に浮かぶようです。

さらに笹森氏は「教育業界で言われている非認知能力やグリット(やり抜く力)など、そういうものを育める要素が音楽の中にあると思っている」とも語ります。

「忍耐力も音楽で養えると思っています。花まる学習会の子どもたちが勉強を楽しめるのはなぜかというと、やり直しをさせない。毎日ドリルをやることで自然と力はついてきます。でも楽器の習い事は、できないところはどうしても反復練習させる。子どもにとって一番ストレスがかかる習い事だと思いますが、ただ私は習い事にも良いストレスと悪いストレスがあると思っているんです」。

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この良いストレス、上質なストレスこそ子どもたちの忍耐力を伸ばすことができると笹森氏は語ります。そして子どもがストレスを感じたときには「イライラしたらチャンスだよ」と声をかけるのだそうです。

「イラッとしたら上手になるチャンスだから、ムカつくなと思ったらそこを何回も練習すると上手になるんだよ、と伝えています。実技を受けているある5年生の生徒がいますが、その子は2年生まで同じところを4回やったらかんしゃくを起こしていたんです。でも今では30分のレッスン中、たった2小節をずっと繰り返し練習していました。すごくイライラするけど今ここをやったら上手になるとわかってきたんでしょうね。これって忍耐力がついた証拠だと思うのです」。

本質的に美しいものを感じ取る。それには”ご飯の音楽”

ともすれば音楽は教養としてやるようなものと思いがちです。音の森に見学に来たお母さんからは、「音の森に通うことで何が変わるのか」ということをよく聞かれるそうです。それについて笹森氏は、「よくお母さん方に言っているのは、子どもたちに対して、美しいって何か、その基準をつくります」と話しているとのこと。

美しさの基準をつくる、それはどんな考えがあってのことでしょうか。

「なにか好きなものがあってそれが欲しいとします。この欲しい、”want”に当たる欲求とは、自分の意思決定で決めるわけではなく、自然と湧き上がってくるものだと思うのです。それが基本的に何かを選択する際の根底にある。だとしたら上手にものを選ぶ力をつけるにはどうすべきか、そこは“感性”というフィルターを磨くことだと思うのです。本質的に美しいものとはなにかを感じるフィルターです」。

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その美しさを感じるフィルターを音楽によって磨いていくというわけです。
その感性を磨くため、音の森では”ご飯の音楽”を提供していると笹森氏は語ります。白米を毎日食べても飽きないのと同じように、毎回、クラシックだけではなく民謡、ポップスなど世界中のいろいろな音楽を聞かせ、本物の楽器での演奏を聴くことを繰り返し授業で行う音の森の方法はまさに音楽というご飯。子どもたちはいっぱいご飯の音楽を食べ、吸収していくことで、本質的に美しいものはなにかということを自ら知り高められるのです。

「子どもたちは教会音楽をずっと繰り返し歌っていますが、2年、3年歌っていても飽きないと言っている。飽きないってキーワードだなと思っていて、ご飯も毎日食べても飽きないですよね。そういう音楽を提供していきたいんです」。

今年4月には、花まる学習会のグループ会社として独立。さらに自分たちが開発した教材を音の森だけに限らず、他の音楽教室にも広めていくため、新たに教材専門の会社も立ち上げました。

また音楽教育以外にも、音大出身生のための就職活動にも尽力したいと笹森氏。自身もこれまで勉強してきた「花まる学習会」に留まらず、もっと勉強し音楽教育者としての研鑽を続けたいと熱い思いを聞かせてくれました。

これまでの音楽教室にはないアプローチで革新的な取り組みを続ける「音の森」。日本で一番の音楽教室を目指し、チャレンジし続けています。

花まるメソッド音の森
https://www.otono-mori.com/


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