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杉並区の閑静な街並みに緑豊かで広大なキャンパスにおいて、男女別学(※)の学校生活を通して中高一貫教育を実践する国学院大学久我山中学高等学校(以下、久我山)。多くの卒業生が著名人・文化人として活躍するなかでも、キリン博士としての研究内容が注目を集めている郡司芽久さんから、研究者に至るまでの道のりをお話しいただきました。
※普段の授業は別々に学ぶ環境でそれぞれの特性を伸ばし、学校行事や部活動では協働し互いを高め合っています。

郡司芽久さんプロフィール

郡司芽久さん

2008年3月に久我山を卒業した後、東京大学に入学。大学1年時に受けた講義がきっかけで解剖学と出会い、同大学大学院農学生命科学研究科に進学。2017年3月に博士課程を修了し、博士(農学)を取得。同年、第七回日本学術振興会育志賞を受賞。大学院を卒業後、国立科学博物館、筑波大学での勤務を経て、東洋大学生命科学部の助教に着任。主に哺乳類・鳥類を対象として、身体の構造に関する研究を進めており、特にキリンの解剖・形態の研究に力を入れて取り組む「キリン博士」として知られています。

久我山生として過ごした6年間

郡司さん

郡司さんにとって久我山の存在とはどういったものでしょうか。

私にとっての久我山は、社会のルールを身につけながら、一生付き合っていける友だちと出会えた大切な場所です。卒業してからも仲良く連絡を取り合っている友だちの数は、大学よりも久我山の方が多いかもしれません。一緒に助け合いながら受験期を乗り越えた仲間とのつながりは別格です。

女子部と男子部で分かれた別学制なので、「男の子だから」「女の子だから」といった先入観にとらわれることなく学問に励めたと思っています。当時は、スポーツや各種文化面においてプロフェッショナルを目指す在校生たちから刺激を受けて、私も何かの”プロ”になりたいと強く思うようになりました。何かに本気で打ち込む姿勢を認めてくれる久我山の校風が、私のハングリー精神を育ててくれたと今でも感謝しています。

部活動・修学旅行

行事やクラブ活動での思い出はありますか。

高1の語学研修でニュージーランドに行き、酪農家のお宅にホームステイをしたことをよく覚えています。当時は動物に関わる仕事として獣医になりたいと考えていたので、酪農家の仕事を手伝えた経験は現在のキャリア形成にも深く関わっています。先生に尋ねたところ、将来の夢に合わせてホストファミリーを選んでいたそうです。また、高2の修学旅行では当時九州を一周するというもので、知覧特攻平和会館を訪れた際に、生きることの意味を考えるようになりました。

所属していた弓道部では、先輩や後輩との上下関係を守りながらも、しっかりと信頼関係を築けていました。弓道は若さや体力で技量が変化するものではないので、またいつか人生のどこかのタイミングで再開するかもしれないですね。

勉強に取り組む際の姿勢はいかがでしたか。

面白いと思えることや好きなことには妥協しない性格なので、大学進学を目的とはせずに、興味のある事柄をきちんと理解したいという思いで楽しみながら勉強をしてきました。結果として、中2の頃から成績が伸び始めてきたのを覚えています。早い時期から、漠然と授業を受けるだけではなく、自分で選んだ興味のある内容を学ぶ重要性を感じていたような気がします。思い返すと、家庭では勉強を強要された覚えはありません。興味や好奇心を大事にして、久我山で学問に励めたことが、私のルーツだと感じています。

自然体験教室・授業の様子
郡司さん

久我山を卒業後、「キリン博士」になるまでを教えてください。

東大では、学生のうちから起業したり、JICAで海外に赴く先輩・友人に囲まれて過ごしました。私自身も、“プロ”として何かを究めたいと思っていた時期だったので、学ぶことに貪欲な友人・先輩たちから沢山の刺激を受けました。その後恩師である遠藤秀紀先生と出会い、解剖学の道へと進みました。
高校生の頃はそんな学問があることすら知りませんでしたが、大学1年生の冬休みにキリンの解剖に立ち会わせてもらって、「この道なら大好きなキリンに関わって生涯楽しめそうだ」と思い、研究者の道を歩み始めました。

“やっぱり気になる!”キリン博士のお仕事

研究の様子

現在はどのような研究活動をされていますか。

まず、キリンをはじめとする様々な動物を解剖し、身体の構造を調べています。解剖するのは基本的に、動物園で飼育されていた個体です。亡くなった後、博物館や大学に献体していただいて、研究に活用しています。

また、生きている個体の動きの研究もしています。動物たちはどんな身体をもっていて、どんな風に動き回っているのかを調べることで、「特殊な生態の行動に適した身体構造が進化してきているか」を探っています。

私自身は「動物たちの身体の“かたち”の意味を知りたい」という純粋な好奇心で研究を進めていますが、時にはキリンの首のように長いアームが付いているクレーン車を扱う重機メーカーから質問を受けることもあります。「得られた知識をどのように活かせば、より豊かになるのか」を考えることが大切なんだなと実感します。

郡司さん

助教として大学の講義も担当されているそうですね。

東洋大学生命科学部の「ライフサイエンス英語」の講義で、科学論文の読み方や専門用語などの学術英語を教えています。海外のニュースを英語で読むことで広い視点から深く物事を考えることができるだけではなく、ニュースの元となった研究論文を読むことができれば、記事の妥当性を自分で判断することができますし、最新の知識に触れることもできます。学生の気持ちを汲み取りながら、講義を通じて、「知りたい」という知識欲を後押ししていきたいと思っています。

キリンと郡司さん

受験生へのメッセージをお願いします。

学生から進路の相談を受ける機会があるのですが、そんな時はやりたいことと職業を切り離して考えるように伝えています。特に子どものうちは知っている職業が少ないせいで、無理に仕事を当てはめようと考えると本来の夢とかけ離れてしまうこともあり得ます。元来のモチベーションや興味・関心を大事にすることが人生を豊かにするのではないでしょうか。学校選びの際も同じことが言えます。こういう校風の学校で、こんなことをして過ごしてみたいという当初の気持ちが、「○○中学じゃなければダメ」となってしまうのはもったいないと思います。別の学校でも、当初の希望を叶えられるところもあるはずです。気持ちは時間が経つとあいまいになってしまうものなので、目標を定めた時の思いを大切にしてください。

郡司さんの出版された書籍「キリン解剖記」

書籍のご紹介

2019年にこれまでの研究生活の日々をまとめた書籍「キリン解剖記」(ナツメ社)を出版しました。大学入学後から「キリン研究者」になるまでを紹介しています。若い世代の方々に、研究の魅力が伝われば嬉しいです。読者の中には、小学校高学年の方も多いようです。

企画・編集:インターエデュ・ドットコム
提供・取材協力:国学院大学久我山中学高等学校