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inter-edu’s eye
思考力や表現力、読解力が求められる新大学入試の影響により、近年、重要視されているのが国語の学び。港区の男子校、高輪中学高等学校(以下、高輪中高)では、中1の国語の授業が「現代文・口語文法・作文」で構成されています。そこで、国語全体における指導方針や作文を科目にした意図、また、進路指導について先生方にうかがいます。
中1 現代文授業 ~あれこれ話す1時間~
授業の題材は宮沢賢治の短編童話「オツベルと象」。登場人物の「百姓ども」について、木村崇先生が「百姓は農家のこと。ただ、本来は『すべての人民』という意味だったんだよ。じゃあ、『ども』ってどういう意味かな」と尋ねると、「上から目線」「見下してる」と自由に発言する生徒たち。「君たちも『生徒ども』って言われるのは嫌だよね。じゃあ牛飼いが『百姓ども』と呼ぶのはどうして?」と次なる問いが。こうした問答が頻繁に行われ、終始わいわいしながら物語は読み進められていきました。
語彙を増やして思考する力を
国語科主任の木村崇先生が、指導で意識していることについて語ってくださいました。
作文授業
週1回、中学1年次だけ行われます。
生徒は各回、学期ごとのテーマ(1学期から順に「発想力」「論理的な説明」「手紙」)に沿った課題に挑戦。現代文や口語文法の授業との大きな違いは、オリジナルの教材を使うことと、少人数制であること。1クラス40人を2グループに分け、それぞれに先生がつくため、作品をじっくり添削し、生徒と密にやりとりすることができます。
課題例
・架空のCMを作る(宣伝対象の設定、起用タレントの人選、絵コンテ作成など)
・「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じ意味のことわざを自分で考える
・複雑な図形の文章化に挑戦
発想・記述・表現力まで磨く作文授業
作文授業の狙いや生徒の成長について、教頭の平野豊先生、作文担当の倉本綾先生、木村先生にうかがいます。
作文が中1限定の授業である理由は何でしょうか。
平野先生
中2から古典を学ぶようになるので、中1の段階でできることは何かと考え、発想力を養成すべく作文の授業が設けられました。生徒が興味を持つことを第一に授業を組み立てているので、ただやみくもに書かせることはしません。平成元年から続くこの授業では、CM制作の課題のように生徒が取り組みやすいテーマを時代に合わせてやってきました。ただし、各学期の最後には長い作文に挑戦させます。
倉本先生
ですから、基礎的なこともおろそかにはしません。中1生だと主語述語がしっかりある文章がなかなか書けなかったり、分からない漢字を調べる習慣が身についておらず、平仮名で書いてしまったりするので、こうしたところから指導していきます。添削時に毎回直していくと、だんだん理解していきますよ。
木村先生
“図形の文章化”では、ほかの生徒が書いた文章に従って図形を描くことにも挑戦します。モデルの図形のような絵が描かれることはほぼなく、生徒たちは自分の書いた文章が他人にどう読まれ、どんなふうに誤解されるのかを認識しますね。
原稿用紙だけでなく図形や絵コンテも使うことで、発想力や思考力、表現力を鍛えられそうですね。
倉本先生
そうですね。毎回必ずグループの中で発表する時間を設けており、回を追うごとに発表の質は上がっていきます。落ち着きのなかった生徒が人の話を聞けるようになったり、恥ずかしがっていた生徒が挙手してみんなの前で発表できるようになったりしているので、こうした主体的な姿勢がほかの授業でも活きているといいなと思います。
木村先生
3学期のテーマ「手紙」で敬語を扱うのですが、口語文法の授業でも敬語を取り上げるので、内容が一部被っていました。また、口語文法は暗記することが多くて生徒が苦手意識を持ちやすく、中2からの文語文法へのスムーズな移行が難しいという懸念が生じたため、新しいカリキュラムを2021年度から始めることになりました。口語文法や作文の学びは活かしながら、総合的な形に再編成する予定です。
生徒が興味を持つ内容はそのままに、より効果的に学べる教科へ。高輪中高の新しい国語の学びに期待しています。
“人を育てる指導”と“大学へ進学させる指導”という教育目標を持つ高輪中高。
先生方は進路指導にどう関わっているのでしょうか。
職員室前の机といすが意味すること
職員室の前には面談や添削に使われる机といすが置かれています。「教員はとにかく生徒が好きで、中1から高3まで持ち上がりなので学年全体で生徒を見ていこうという感覚があります。だから職員室にはアットホームな雰囲気があり、生徒がどんどん質問に訪れる。教員は休み時間のほうが忙しいのかも…」と平野先生は語ります。
生徒への純粋な想いが学校を変えた
「この10年で学校が変わりました」と語るのは、高輪中高で長年教鞭を執ってきた平野先生。木村先生が着任した20数年前は、今のように生徒が職員室に出入りすることはなく、文化祭や修学旅行など学校行事には活気がなかったそう。「その後、教員たちが『生徒が前向きに取り組み、思い出に残る行事を作ろう』と奮起し、仕事が増えることも厭わずに動き出したのです」(平野先生)。
先生を突き動かしたものは生徒への純粋な想い。行事の盛り上がりは学校全体に活気を与え、先生のやる気が勉強面にシフトすると進学実績は向上。生徒は学校を楽しみ、先生を信頼し、職員室はいつも生徒が行き来する場所になったそうです。
1対1の進路指導で筑波大合格
国語科の先生のところにも日々生徒が訪れます。「小論文や古典の問題など、添削を希望する生徒が毎日来るので、赤字を入れて翌日返しています。自分のクラスの生徒がほかの教員に添削を頼んでいることもあるので、1クラスの中で多くの生徒が個別に指導を仰いでいますね」と木村先生。
昨年度の卒業生で、AO入試で筑波大学合格を果たした生徒については、「どの教科の出来も芳しくなく、学力的に筑波大はとても無理な生徒でした。でも哲学が好きだったことから国語科の教員のところに話を聞きに来るようになり、毎日のように職員室にやってきては哲学の思想を学び、薦められた本を読み、やりたいことを突き詰めて合格を果たしました。
これは教員と生徒が1対1でやりとりしていたことが大きかったと思います」と振り返りました。
生徒にとって居心地のいい場所
職員室が生徒の集まる場所になると、生徒が学校で勉強するようになったといいます。「勉強するために学校に残る生徒が増えてきましたね。このため、自習室とは別に、申請すれば各教室でも勉強ができるようにしました」(平野先生)。
さらに平野先生は受験生へのメッセージとして、「どんな生徒にも居場所がある学校でありたいですね。男子校だから異性の目を気にせず、生徒は肩肘張らず過ごしているので、文化祭やオープンキャンパスで素の生徒を見て、学校の雰囲気を感じて、来校したお子さんが『自分に合うな』と感じてくれたらうれしいです」と語りました。
イベント日程
2019年9月28日(土)・29日(日) | 高学祭 |
2019年10月6日(日) | 第1回入試説明会 |
2019年11月3日(日・祝) | 第2回入試説明会 |
2019年12月7日(土) | 第3回入試説明会 |
2020年1月8日(水) | 第4回入試説明会 |
国語とは、言葉を自在に使って自身の考えや想いを表現する力を鍛える教科です。言葉が使えなければ思考することもできません。話の9割を理解するために必要な語彙を言語別に見ると、英語の3000語に対し、敬語や漢語・和語に加えて代名詞も多い日本語は1万語といわれています。ですから中学生に必要なことは、まず語彙を増やすこと。その過程で徐々に自分の思考ができるように努めています。
現代文の授業では、つまらないという印象を抱かせないように、教科書を読み進める間に生徒の興味を惹きつけるような話をあえて織り交ぜるようにしています。