開成・灘の卒業生の実態(職業・収入)がわかった!:第24回

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中学受験の最難関、開成と灘の卒業生は、社会人として活躍しているのか、職業や収入はどうなのか? 実際の卒業生を調査した結果が、初めて1冊の本になりました。

超難関校は、将来のためになる?

超」進学校 開成・灘の卒業生――その教育は仕事に活きるか?,教育書

よりよい将来のために、少しでもよい教育環境を与えたい、東大・京大などへの大学進学率が高い学校にわが子を入れたいと願って努力して入った超難関校。でも本当に、よりよい将来が待っているの? 本当のところはどうなの?  そんな素朴な疑問を抱いたことはありませんか?

この疑問に正面から取り組んだ人がいます。『「超」進学校 開成・灘の卒業生――その教育は仕事に活きるか?』の著者、濱中淳子さんです。大学入試センター准教授であり教育社会学の研究者でもある濱中さんは、開成・灘両校の協力のもと、年齢30代から50代の卒業生に調査票を送って得られた回答(1072名)を統計的に分析して本書を書き上げました。

ですから関係者のコメントや体験談でまとめられた書籍とは一線を画した、本格的な実態調査報告になっています。また、一般大卒の場合とどう違うのかの比較もあります。つまり、開成・灘の生徒になると、将来どうなるのか、過去の実績がはっきりと見えてきます。

医師・大学教員が多数

開成・灘の卒業生は、どんな職業についているのか? 役職は? 収入は?――本書にはこうしたデータが、一般大卒の場合と比較して掲載されています。それだけでも読んでみる価値は十分に思います。では、その中でいくつか注目した点を挙げてみましょう。

まず、職業では、医師と大学教員・研究者の比率がきわめて高く、一般大卒とは比較そのものが成り立ちません。

興味深いことに両校卒業生のうちの企業勤務者の年収は、一般大卒より個人差が大きくなっています(もちろん上のほうにです)。それに一般大卒の年収が年功序列的に上昇するのに対し、役職によって上昇するケースが多いのです。そういうタイプの職種・地位にあるということでしょう。さらに、一般大卒は転職によって年収が低下することが多いのに、両校卒業生の場合はプラスの効果をもたらす傾向があります。

また特筆すべきこととして、両校の卒業生にとっては、中高時代の人脈が、現在の仕事の面で大きくプラスに働いています。

東大・京大に行かなくてもメリットが

このように開成・灘に入ることは将来に十分な恩恵がもたらしてくれそうに見えますが、本当にマイナス面はないのでしょうか?

本書によると、卒業生の中で、卒業するまで開成・灘に馴染めなかったと回答したのは5%ほど。“優秀な生徒ばかりで勉強についていけなかった子かな”と想像してしまいがちですが、実は、そういう「気おくれタイプ」は、この中の3分の1程度ときわめて少数派です(その他は強い個性派など)。つまり、ほとんどの卒業生は、楽しく充実した中高時代を送っていたということになります。

ただし、大学受験に関していうと、開成・灘だったから楽ができたという卒業生は多くはありません。「大きな苦労をせずに第一志望に受かった」は一般大卒と同程度の比率。苦労して第一志望に受かった」が一般大卒の2倍弱で、その分「第一志望に合格せず別の学校に行った」の比率が少なくなっています。一般大卒よりは頑張り屋さんが多いのかもしれないし、両校の生徒ということで、より上を目指したといったこともあるでしょう。

また、就職では一般大卒との違いが歴然です。卒業生のうち東大・京大以外の大学を卒業した人であっても、「第一志望に就職した」という人が一般大卒よりずっと多く注目に値します。開成・灘での学校生活は、難関大への受験に有利といった学業面以外にも多くのものを与えてくれているのでしょう。

「人間関係が下手」とはいえない

本書では、両校の卒業生が、今働いている世界でリーダーになっているかどうかも綿密に分析しています。それによると、両校卒業生のリーダー比率は約4割(30代で35%強、40代で40%弱、50代で45%弱)。このリーダー比率には、その後入学した大学による違いはほとんどありません。そして中高時代をどう過ごしたか、勉強、読書、友人との交流や学校行事に積極的だったかどうかといった体験が影響を及ぼしているようです。

この調査を見る限り、「超」進学校の卒業生は、勉強ばかりしてきたから「人間関係が下手」「世間知らず」「頭でっかち」「融通がきかない」「打たれ弱い」といった世間一般のイメージにはあてはまりません。むしろ、卒業生の多くがよかったと語る「自由な校風」のもとで能力の高い子同士が中高生活を謳歌し、そのことが卒業大学の違い以上に大人になってからの糧となっている様子がうかがえます。

読み終えて、やはり名門校には絶大なメリットがあると納得しました。とともに高偏差値や東大合格ランキング常連の印象ばかりが先行して、実像が想像できにくかった開成・灘の卒業生を、だいぶリアルにイメージできるようになったと思います。お子さまに「超」進学校受験の予定があるならば、ぜひ読んでみてください。お子さまとの相性や将来への展望を考えるきっかけにもなるでしょう。もちろんだからといって、お子さまの希望を無視して“「超」進学校に入りなさい!”と強要するのはおやめくださいね。本人の個性や相性こそ、学校選びの最重要ポイントですから。

ドラえもん はじめての辞典,小学館,教育書

「超」進学校 開成・灘の卒業生 ─その教育は仕事に活きるか
濱中淳子/著、ちくま新書、780円+税
「受験の勝者が実力ある者とは限らない」「頭でっかちは打たれ弱い」あるいは「一三歳からすでに選別ははじまっている」「難関大学、優良大企業へのパスポート」…難関中高の卒業生について、よくも悪くも両極端な物言い、さまざまな印象がある。イメージだけで語られがちだったそれらを、アンケートをもとに、具体的な数字や事例で統計分析。超進学校の出身者は、どんな職業に就き、どれくらいの年収を得ているか。中学高校での経験は、卒業後にどれほど活かされているか。中高時代はどのように生活し、何に悩んだかなど、彼らの実像に迫り、そこから日本社会と教育の実相を逆照射する! …購入はこちらから

濱中淳子,エデュママブック

著者の濱中淳子(はまなか じゅんこ)さん
1974年富山県生まれ。大学入試センター准教授。東京大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。教育社会学専攻。アンケートやインタビューなど社会調査を駆使した分析を行っている。著書には『大学院改革の社会学――工学系の教育機能を検証する』(東洋館出版社)、『検証・学歴の効用』(勁草書房、第37回労働関係図書優秀賞受賞)『大衆化する大学――大学の多様化をどうみるか(シリーズ大学第2巻)』(編著、岩波書店)など。


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