要チェック! イマドキの小・中・高・大「受験の新常識」

inter-edu’s eye
エデュママブックでもおなじみの、おおたとしまささんの新著「受験と進学の新常識」(新潮社刊)が刊行されました。ここ数年の著者の業績からエッセンスを抜き出してまとめたような本で、内容が濃い。読めば、いま、日本の受験と進学の世界に何が起きているのかがよく分かります。子どもの受験をチラッとでも考えたなら、まず読んでほしい本だと思います。

受験エリートの3条件

受験と進学の新常識

本書は、副題に「いま変わりつつある12の現実」とあるように、いま、日本の受験・教育環境で起きている変化や、これから起きそうなことを12のテーマに分類して解説しています。

序 章 小・中・高のどこで受験すべきか
第1章 勢いがあるのはどんな高校か?
第2章 大学受験の塾・予備校選びの注意点
第3章 最難関大学への“王道”あり
第4章 9歳までの“最強”学習法
第5章 難関化する公立中高一貫校
第6章 中学入試が多様化している
第7章 私立大学付属校が人気になる理由
第8章 いま見直される男子校・女子校の教育
第9章 地方では公立高校が強い
第10章 受験エリートでなくても医師になる方法
第11章 海外大学受験の実際
第12章 インターナショナルスクールにご用心
終 章 大学入試改革の行方

最初から通して読めば、受験の新常識とはどのようなものか、明確に理解できる構成になっています。各章の最後には章のポイントが記されており、興味を持った部分をつまみ食いのようなかたちで拾い読みしても、非常に興味深く読めます。

序章と終章を除く12章のうち、第1章~第4章は最難関大学進学を目指す人向けの内容です。東大合格率で東京の日比谷など公立校が再び躍進してきた事実や、親世代が知らない私立の躍進校、塾の選び方の基本(合格実績の数字は単純比較してはダメ)などが詳しく解説されています。

東大生の3人に1人が公文式の経験者だということが証明するように、公文式は勉学の土台作りに適しているという話も興味深いものでしたが、もっと驚いたのは第3章の最後。昔の受験は、自分で目標となる学校を決め、目的を達成するための作戦を立てて段取りよく取り組むことが成功の秘訣でしたが、いまや受験の作戦立案は塾が行い、勉強のメニューもきめ細かく塾が作成してくれます。となると、受験生に求められる能力は、大量の課題をこなす「処理能力」と学び続ける「忍耐力」、それに「与えられた課題に対して疑いを抱かない力」の3つだけが残った。

その現実をふまえて、おおたさんはこんなふうに言っています。

「それを無批判に受け入れて『勝ち組』を目指すのか、あくまでそれとは一定の距離を置いてできる範囲で進学を目指すのか。途中でブレないように、受験生や保護者はあらかじめスタンスを決めておいたほうがいい。」

塾を含めた教育環境が充実し、指導方法が精緻になればなるほど、余計なことを考える暇はなくなるでしょう。ルールが変わったことで、早い段階で覚悟を決めて取り組まないといけなくなったようですね。

難関化が進む一方の公立中高一貫校

第5章~第9章は、最難関校を目指さない人向けの内容です。著者の言葉を借りれば、「中学受験をすべきか、高校受験ではダメなのか、疑問に思う」人向けです。受験エリートを目指さないならば、選択肢は以前より増えています。ただし、この道も楽ではないようです。

早稲田、慶応の付属校のほか、明治大学付属明治高等学校・中学校、中央大学附属中学校・高等学校などの私立大学付属校が、中学受験のトレンドとして人気が高まっています。第7章に詳しく解説してありますが、かつては「エスカレータ式」と揶揄されていた時代もありましたが、大学入試改革の影響で学力観が変化し、見直されてきたということです。つまり、付属校も以前よりずっと勉強させています。

また、一定の条件をクリアすれば、ほかの大学の受験を認めている付属校も多くあり、AO入試などの制度を利用すれば、高校の時点で希望する大学を受験することも可能です。付属校から他大学へ進むハードルが、以前よりもかなり下がっているわけです。

私立中学ではなく、実質無料で中高一貫教育を受けられる公立の中高一貫校という選択もありますが、第5章を読むと、「公立中高一貫校の難関化が進行していることは間違いなさそう」とあります。

初期には塾へ通わずに合格した子も大勢いたようですが、今やそういった子は減少の一途をたどっているのだとか。都立の中高一貫校対策に特化して高い実績をあげているenaによると、首都圏以外の公立中高一貫校でも「小学校の教科書+20%の知識」が必要で、首都圏の公立中高一貫校を本気で目指すなら「教科書+100~200%の知識」が必要になるというのです。これは、適性検査への対応とは別の、基礎学力としてです。こちらのコースも常識がかなり変わってしまったと言っていいでしょう。

ただし、公立中高一貫校を目指すための勉強は、決してムダにはならないというのが、著者の主張です。著者は、おおよそ次のように述べています。

「小学校低学年のうちは公文式などで基礎学力と学習習慣をつけ、高学年で適性検査への対策を無理のない範囲で行う。そして公立の中高一貫校を受検。うまく受かったらラッキー! 落ちたら地元の中学に通い、高校受験で頑張ればいい。」

とても合理的で実現可能性の高い方法に、いちいち納得してしまいました。

受験エリートでなくても医師になれる

第10章以降は、日本の受験・進学システムの外へと飛び出す方法について解説しています。要するに、海外の学校で学ぶ選択について、です。

海外の学校に進学するメリットとデメリットが詳しく解説されていますが、その中でも非常に興味深く読んだのが、海外で医師免許を取る方法です。ハンガリーの国立大学医学部が、積極的に外国人学生の受け入れをしており、日本にも窓口を設置しているというのです。まだ数は少ないとは言え、日本からもハンガリーに渡り、医師免許を取得して帰国した人がいるそうです。これには驚かされました。

日本で医師として働くには日本の医師免許を取得しないといけないのですが、著者が取材した時点で、ハンガリー帰国組49人中41人が日本の医師免許試験に合格しているとのこと。合格率8割です。こんな道もひらけているんですね。

むろん、言葉の問題もありますし、生活習慣も違います。外国ならではの苦労はあるでしょうが、おおたさんによれば、意外にコストが安い。しかも、日本の偏差値は関係ありません。誰にでもすすめられる方法ではありませんが、日本の国立医学部に進学するには偏差値が足りない、かといって私立の医大はお金がかかりすぎるという場合は、選択肢の一つになり得るでしょう。

そして終章。多くの人が気になる大学入試改革について、簡単に触れられています。これを読むと、著者が「当面は大きな変化はないだろう」と考えており、大学入試改革にはあまり期待していないこともよく分かります。不透明な部分が、まだ多いのですね。こうなったら、改革がどちらに転んでも対応できるように準備しておくしかないでしょう。

全体を読み終えて、この本はいまの受験の現状を正確に概説していると感じました。一つひとつのテーマを詳細に掘り下げているのではありませんが、受験常識がどのように変化したのか、全体像をつかむにはうってつけでしょう。これから子どもの受験にどう対処すべきかを迷っている方、小学校低学年以下のお子さんをお持ちの親御さんには、特におすすめしたい本です。

受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実

『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』
おおたとしまさ著、新潮社刊(新潮新書)、760円+税
激変を続ける受験の世界。国公私立に海外進学、幾多の塾・予備校…親子の目の前に広がる選択肢は多様化の一方だ。いま勢いのある学校や塾は? 東大生の3人に1人が小学生でやっていたこととは? 受験に勝つ子の「3条件」とは? 東大医学部合格者の6割超が通った秘密結社のような塾がある…? 子どもの受験・進学を考えるようになったら真っ先に読むべき入門書、誰も教えてくれない“新常識”が明かされる。 …購入はこちらから

おおたとしまささん

著者のおおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・麻布高等学校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。