「子育ての本当の目的」とは?子どもの「自律」を促す37のヒント

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一昔前までは「名門大学を出て、大手企業に勤める」というのが最も理想的な人生であるとされていましたが、それも今は昔の話。終身雇用制度が崩れ、たとえ大手企業に勤めることができたとしても、いつ首を切られてしまうかわからない時代になったということは、多くの人が感じているのではないでしょうか。

今は「このレールに乗って走っていけば人生、一生安泰だ」という「正解」がない時代です。そしておそらく、これからも、この「正解がない時代」は続いていくでしょう。このような時代において、子どもをどう育てたらよいのか戸惑い、その不安を今すぐにでも払拭したいと「すぐにできる」「これをやると子どもが伸びる」と謳うコンテンツに次から次へと飛びついている人は多いのではないでしょうか。

しかし、まったく同じ人が一人として存在しないように、子どもも一人ひとりまったく違います。顔はもちろん、性格や性質、能力、環境など、どれをとってもバラバラです。そのため、世の人々が謳う「これがいい」がわが子にピッタリ合うことはほぼあり得ません。

それなのに、わが子がオンリーワンの存在であることをすっかり忘れ、「これがいい」を「こうしなければいけない」と思い込み、理想の子育てを追い求め過ぎて、子育てに息苦しさを覚えている親御さんは少なくないでしょう。
そのような親御さんの息苦しさを少しでも取り除きたいと筆を執ったのが、公立中学校とは思えない数々の教育改革を行い、日本中から注目を集めている千代田区立麹町中学校長の工藤勇一先生です。

工藤勇一先生はその著書『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』の「はじめに」において、次のように語っています。

「こういった時代をいきていくためにもっとも必要なのは『自ら考え、自ら判断し、自ら行動する資質』

「時代の大きな変換点を迎えている現代において、『学校の本当の目的』と同様に『子育ての本当の目的』を考え直さなくてはならない時期に来ている」

工藤先生は「自ら考え、自ら判断し、自ら行動する資質」を「自律」と定義づけ、子どもの「自律」を促すことこそが、学校教育及び子育てにおいて重要なポイントだと考え、「37のヒント」を提唱しています。「ヒント」と言っているくらいですから、よくある子育てハウツー本のように「これをやったらこうなる」といった類の実践本ではありません。
きっと、工藤先生が出すヒントをもとに、親に子育てについて考えてもらうことを目的として編まれた本なのでしょう。

工藤先生の言葉を紐解くと、子どもが「自ら考え、自ら判断し、自ら行動する資質」を身につけるためには、親も子育てについて自ら考え、判断し、行動することが大切と思わされます。
今回は、工藤先生の経験知がぎっしり詰まった37のヒントの一部を、ほんの少しだけ紹介しましょう。

「発達障害」が問題になるのは周囲の大人の「多様性への不寛容」が原因

学校風景

ここ十数年で世の中の人々に広く知られるようになった「発達障害」。多くの親御さんが「わが子にも発達障害があるのではないか?」と不安に思った経験を持っているのではないでしょうか。

また、わが子に発達障害があることが明らかになり、その将来を不安に思っている人や、わが子の発達障害に起因する理解できない行動に悩まされている人も少なくないでしょう。

工藤先生はそのような親御さんに寄り添うべく、実際のケースを紹介しながら、発達障害があると考えられる子や発達障害を抱える子に寄り添うヒントを提唱しています。
中でも印象的なのは、工藤先生の「大人や学校が過剰に反応しすぎて、多様な人間がいる場を奪ってはいけない」という言葉です。

たとえば、参観日に多くの子どもたちが親に自分の活躍を見せようと手を挙げている中、わが子だけが手を挙げていなかったらどう思うでしょうか。
おそらく、多くの人はわが子にも元気に手を挙げてもらいたいとヤキモキし、人によっては、家に帰ってから「何で手を挙げなかったの?」と叱りつけてしまうかもしれません。

たしかに、わが子が皆と同じ行動をとることができていないと、わが子がダメな子なのではないかと不安になってしまうでしょう。

しかし、それは親の「多様性への不寛容」による過剰反応でしかありません。もしかしたら、わが子は「たくさんの人が手を挙げている中で手を挙げても当ててもらえる可能性は低いから、今は手を挙げないでおこう」という「合理的な考え」のもと、手を挙げなかっただけかもしれません。
それなのに、手を挙げなかったことを叱責したとしたら、わが子の「合理的な考え」をつぶしてしまうことになるでしょう。

工藤先生は大人が「多様性への不寛容」によって過剰反応をすることで、子どもの能力の芽を摘んではいけないと警鐘を鳴らしています。発達障害をはじめ、わが子が「問題」を抱えていると悩んでいる人は、工藤先生が示すこのヒントを参考に、もう一度考え直してみてはいかがでしょうか。
もしかしたら、わが子の「問題」が「才能の芽」に見えるようになるかもしれません。

「違いを認めてリスペクトする」ことが「いじめ」のない社会への第一歩

思春期を迎える子どもたちを持つ親御さんにとって、「いじめ」の問題は他人事ではないでしょう。
工藤先生はいじめについても、自身の豊富な経験に基づいたヒントを提唱しています。

世の中では「みんな仲良く」や「いじめを許さない」という言葉が躍っていますが、工藤先生はそれらの言葉を「ましてや、この多様性を排除する言葉がいじめを生み出す原因になったり、いじめを解決できなくする原因になったりするように、私は感じています」と一刀両断。
そして、これを解決するために必要なのが「おわりに」に掲載されている「卒業生のことば」にある「違いを認めてリスペクトする」ことだと提言しています。

これについて、工藤先生は「大人でも苦労する」と述べていますが、工藤先生の教えを受けた卒業生はたった15歳でこの真理に気づいたというのですから驚きです。

この他、いじめ問題で悩む人にとって、金言といえるものが『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』にはたくさん詰まっています。
わが子に関わるいじめ問題を解決に導きたいという人は、ぜひ、工藤先生のヒントをなぞってみてください。

「学校との付き合い方」で最も重要なのは「お互いが味方」と思うこと

三者面談

「モンスターペアレント」という言葉があらゆるメディアで問題として取り上げられるようになってから久しいですが、自分がモンスターペアレントになってしまうのではないか、既にモンスターペアレントだと思われているのではないかと不安に思い、学校と連絡をとることは最小限に抑えようと考えている親御さんも多いでしょう。

しかし、工藤先生は、何か問題が起こったときはとくに、遠慮なく、積極的に学校や教育委員会と連絡を取るべきだと提唱し、学校に意見を聞き入れてもらうためのコツを紹介しています。
そのコツの中でも最も注目すべきは、対話の際には「お互いが味方」と思うことが大切だということでしょう。

お互いが敵対していると思い込むとギスギスしてしまい、問題解決への道のりはどんどん長くなっていってしまうものですが、お互いが味方と思えば対話ははずみ、スムーズに問題解決が進められると工藤先生は述べています。

学校で問題が起こり、学校と対話しなければならないと悩んでいる人は、工藤先生の言葉にしたがい、学校を味方につけるような対話を心がけてみてはいかがでしょうか。
きっと、困難な問題もスムーズに解決に導くことができるはずですよ。

「卒業生のことば」から垣間見える「子育ての本当の目的」

工藤先生は「おわりに」において、「子育ての本当の目的」のヒントともいえる、次のような言葉を記しています。

自分で選んだ道を歩んでいたら、たとえ失敗してもそれは子どもたちの大きな力になります。
その決定を自分でさせること、つまり自律した人生を歩むことが、子どもたちにとって何より大切なのではないでしょうか。

工藤先生は首尾一貫、「自律」の重要性を説いています。

そして、最後の最後に「多様な人間を内包した社会をどう実現させていくのか、必要なすべてがここ詰まっていて、私がこれ以上語る必要がない」と述べ、「卒業生のことば」を掲載しています。

「卒業生のことば」をすべて読み終えたとき、多くの人は爽やかな読後感を得られるでしょう。
「子育ての本当の目的」とは何か、自分なりのビジョンが浮かび上がってくるはずですから。

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麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること
工藤勇一著、かんき出版、1400円+税

「子育ての本当の目的」って、なんだろう?

宿題、定期テスト廃止。固定担任制も撤廃。服装・頭髪検査はおこなわない。
公立中学校とは思えない数々の学校改革で注目を集める。
千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長が、子育ての「当たり前」について考えてみたのが本書です。

・友達は多いほうがいいはず。でも、うちの子は友達が少ない……。
・学校には行かなきゃならない。でも、うちの子は不登校になってしまった……。
・親子は仲良くなきゃいけない。でも、親子関係がうまくいっていない……。
・成績が悪かったら、いい学校に行けない。でも、うちの子は授業についていけない……。

多くの親御さんは、日々、さまざまなことに悩みながら
お子さんと向き合っていることでしょう。

でも、きっと大丈夫。
一番大事なことは何かを考えたら、そんなに気にすることじゃないかもしれません。

本書には、麹町中でなくても実践できる、子育ての心構えを詰め込みました。
不安を抱えて育児に奮闘する皆さんの心を、ふわっと軽くする1冊です。

【目次】
01 子どもはもともとは主体的な生き物
02 手をかけないほど、子どもは自律する
03 不幸になるなら「理想の子育て論」はいらない
04 子どもは思うようには育たない
05 どんな環境でも挑戦できる強い脳はつくれる
06 親はいい加減くらいでちょうどいい
07 親密な親子関係が幸せとは限らない
08 子どもの問題は大人が勝手につくっている
09 あえて言葉にしないほうが、うまくいくこともある
10 親が社会を否定してはいけない
………など

工藤 勇一(くどう・ゆういち) さん
千代田区立麹町中学校長。
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒業。
山形県・東京都の公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から現職。
公立中学校とは思えない数々の教育改革をおこなっているとして、各界から注目を集める。
教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員、教育長・校長プラットフォーム発起人などの公職を歴任。
著書に『学校の「当たり前」をやめた。――生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)、『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SBクリエイティブ)がある。