2030年の世界はどうなる?落合陽一さんと一緒に考える

2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望

inter-edu’s eye
メディアアーティストとして大活躍している落合陽一さんが昨年11月に出版した『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)。発売から半年で12万部を突破し、大きな話題を呼んでいます。世界の経済や環境問題はどうなっているのか、世界はこれからどこに向かうのか。世界共通の課題、SDGsの枠組みを借りながら、世界の問題点をわかりやすく解説すると同時に、今起こりつつある変化や今後起きうることなど、2030年の未来について語ります。

SDGsとは何か

この本は、300ページを超える大部ですが、「2030年の未来はこうなる」と予測した本ではありません。著者が読者と同じ地平に立ち、2030年に向けたビジョンを作るためには何を学んだらいいのか、どのように考えたらいいのか、そのための材料を提供するために書かれたものです。

書名に『地図帳』とあるように、本そのものがまさに世界の地図帳のよう。世界の経済指標や人口、貧困率、就学率、CO2排出量といったように、世界の現状を俯瞰するための各種統計情報が図表とともに収録され、それらをもとに、今世界で起きていることがわかりやすく解説されています。

その際、思考の補助輪として使われているのが、近年、話題となっているSDGs、日本語に訳すと「持続可能な開発目標」です。最後のGsはGoals(ゴールズ)の略で、「エス・ディー・ジーズ」と読むそうです。

持続可能な世界の実現のために定められた世界共通の目標で、貧困から環境、労働問題まで17のゴールと、169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
17のゴールとは、次の通りです。

1:貧困をなくそう
2:飢餓をゼロに
3:すべての人に健康と福祉を
4:質の高い教育をみんなに
5:ジェンダー平等を実現しよう
6:安全な水とトイレを世界中に
7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8:働きがいも経済成長も
9:産業と技術革新の基盤をつくろう
10:人や国の不平等をなくそう
11:住み続けられるまち作りを
12:つくる責任 つかう責任
13:気候変動に具体的な対策を
14:海の豊かさを守ろう
15:陸の豊かさも守ろう
16:平和と公正をすべての人に
17:パートナーシップで目標を達成しよう

これらの目標の内容とそれが生まれた意義を足掛かりとして、世界の統計情報を俯瞰しながら世界の行方を著者独自の視点から自由自在に語り、私たちが10年後の未来をじっくり考えるためのヒントを提供してくれます。

それぞれの専門家との対談も収録。世界をよく見る布石に

街並みイメージ

本書は次の4章構成となっています。

第1章:2030年の未来と4つのデジタル・イデオロギー
第2章:「貧困」「格差は」解決できるのか?
第3章:地球と人間の関係が変わる時代の「環境」問題
第4章:SDGsとヨーロッパの時代

第1章から第3章までは、人口、貧困、教育、環境など、今、世界で起きている問題について、それが起きている地域や要因、解決を阻むものについて解説。それらを打開するにはどのような手法があるのか、どんなふうに考えたらいいのか、著者が縦横無尽に思考を巡らします。

問題を俯瞰し、SDGsに沿って問題を解消するには、さまざまなテクノロジーが大きなカギを握るのではないかというのが著者の見通しです。特にデジタルテクノロジーの世界では、GAFAM(ガーファム。Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft社の頭文字から取った造語)を擁するアメリカが牽引。これらの企業が提供するサービスに浸って暮らしていますが、近年では中国がそれを猛追しています。また、19世紀から20世紀の「近代」を経ずに今日に至ったインドやアフリカ諸国から「サードウェーブ・デジタル」といううねりが現れているのだそうです。これらの国が提供するサービスを無視することはできない。そのことがよく理解できます。

最後の第4章は、SDGsについての詳しい解説です。SDGsが生まれた背景や推進する国々の狙い、そして日本の役目や活路について、さまざまな思考を巡らし、解説します。

興味深いのは、著者の思考が抽象と具象、世界を俯瞰する目と自分自身の目の間を行きつ戻りつしながら、あらゆる角度から対象を眺めて考えているところ。このあたり、本当に落合さんらしい思考方法です。

その理由について、著者は「はじめに」で語っています。SDGsの目標は具体的だけれど、わかりにくい、というのです。内容を要約すると、およそ次の通りです。

・SDGsの目標となるテーマと、各国の問題が一致するとは限らず、身近な問題として捉えにくい。
・持続可能と言われても、ピンとこない。「持続可能」な状態って、どういう状態?
・問題解決の複雑さがある。同じ手法がどこでも使えるとは限らない。

読んでいて、確かにそうだなあ、と感じました。人口問題にしても、高齢化が進む日本と途上国では問題が違います。先進国の相対貧困と途上国の貧困では、同じ貧困という言葉でも中身が全然違います。ものの価値も各国、まちまちです。

そのために著者は、具体的な問題をいったん抽象化したり、他の具体的な例に置き換えたりしながら、私たちに身近な問題として落とし込むかたちで語りかけてくれます。これが実にありがたい。

また、ジャーナリストの池上彰さん、大阪大学の安田洋祐さん、経済産業省の宇留賀敬一さんとの対談も収録されており、世界で起きているさまざまな問題を理解する助けとなっています。

今後の世界について、この本をベースに親子で語り合う時間を

本書で取り上げられているテーマは、大人であれば聞き慣れたものばかりですが、一つひとつバラバラに知っていたことの関連性が実によく理解できるよう、構成されています。

多様なテーマを扱っているにもかかわらず、ありがたいのは、通しで最初から読む必要はないことでしょう。むろん、第1章から順に読んでもいいのですが、SDGsを理解したい人は第4章だけを読み、その後、他の部分を拾い読みすればいい。時間がなければ地図帳を見るようにグラフを眺めているだけでも十分です。統計データとそのキャプションを読みながら、ひとりで「対話型」の思考をするのは快感です。

ただ、本の帯には「小・中学生から大人まで」を対象にしたと記されていますが、さすがに小学生には難しいかもしれません。大人でも意味をよく理解していない用語が多数、文章には入っているからです。しかし、世界の人口問題や貧困問題、子どもの就学問題、環境問題などの各種のグラフであれば、まるで図鑑を読むように、世界の状況を知ることができるでしょう。

2020年春、誰もが予想していなかった新型コロナの蔓延で、世界の経済成長には急ブレーキがかかりました。グローバル化の進展によって、国境をまたいだ人の往来のスピードと量が歴史上かつてなかったほど高まれば、目に見えないウイルスの危機も、あっという間に全世界に広がる…。そのことを、私たちはまざまざと見せつけられました。

世界が元通りになるまでには何年かかるのか、あるいは去年までとは違う方向に進んでいくのか。それはまだ、誰にもわかりません。しかし、世界が予想外の事態に陥っている今だからこそ、この『世界地図帳』を開き、著者の考えに同意したり反論してみたりしながら、親子で未来について語り合ってみる。そんな時間を持つのも、有意義なことではないでしょうか。

書影

『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』
落合陽一著、SBクリエイティブ刊、1500円+税

GAFAMによる世界支配を推進するアメリカ、一帯一路で経済圏を拡大しようとする中国、SDGsやパリ協定を通じてイニシアチブを発揮しようとするヨーロッパ、未開拓の市場で独自のイノベーションを生み出すサードウェーブ(インド・アフリカ)。これから世界はどう変化していくのでしょうか。
現在の世界はどうなっているのか、これから世界はどこに向かっていくのか。SDGsの枠組みを借りながら、世界の問題点を掘り下げると同時に、今起こりつつある変化について、気鋭のメディアアーティストとして大活躍する落合陽一氏が、わかりやすく解説します。多様化する世界を紐解けば、それぞれの地域に独自の戦略が根づいていることが見えてくるでしょう。
全編を通じて「地図」を多用し、世界の状況が一目でわかるような構成になっています。小・中学生から大人まで、それぞれの2030年に向けてのビジョンを作るために必要なデータが満載されていて楽しい。また、池上彰さん、大阪大学の安田洋祐さん、経済産業省の宇留賀敬一さんとの対談も収録!

落合 陽一(おちあい よういち)さん
メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学図書館情報メディア系准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prizeを受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞、2019年SXSW Creative Experience ARROW Awards受賞、2017年スイス・ザンガレンシンポジウムよりLeaders of Tomorrowに選出されるなど、国内外で受賞多数。
専門は計算機ホログラム、デジタルファブリケーション、HCIおよび計算機技術を用いた応用領域(VR、視聴触覚ディスプレイ、自動運転や身体制御)の探求。
個展として「Image and Matter(マレーシア・クアラルンプール、2016)」や「Imago et Materia(東京・六本木、2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京・表参道、2018)」、「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など展覧会多数。近著として『日本進化論』(SBクリエイティブ)、『デジタルネイチャー』(PLANETS)、写真集『質量への憧憬』(amana)など。


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