高学歴な親が子どもの伸びる力を奪うとき

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校則も定期テストもなくしたのに学力は上がった…そんな区立中学があるのをご存じですか? その世田谷区立桜丘中学校の元校長先生と、おなじみ尾木ママ、それに麻布OBにして麻布学園理事長の3人が、「管理教育」「過干渉」が子どもの能力を奪ってきた現代日本をバサリ! ではどうしたらいいのかを、わかりやすい言葉で語る衝撃の新書『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』はおすすめです!

今の日本は、深刻な教育の危機!

「過干渉」をやめたら子どもは伸びる,尾木直樹,西郷孝彦,吉原毅,小学館

今回ご紹介する書籍『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』は、教育熱心な親御さん、とりわけ高学歴なママ・パパに、ぜひぜひ読んでいただきたい内容の新書です。これほどリアルに、今の日本の教育が陥っている危機を語った書物は初体験でした。

学校など教育現場はもちろんですが、それぞれの家庭、さらに教育を受けた子が成人となって勤める企業においても、同じ根を持つ深刻な危機が生じています。そのことを、この本を読んではっきり自覚できました。しかもそれは、誰もがうすうす感じていたこと。にもかかわらず、同調圧力や変化を嫌う心によって見ないですまそうとしていたことでもあります。

本書は、2019年11月に東京世田谷で行われたトークイベントで、著者の方々が話されたことがベースとなっています。著者として名を連ねているのは、尾木ママの愛称で知られる教育評論家の尾木直樹さん、校則がない学校として注目されてきた世田谷区立桜丘中学の校長を10年務め、この春退職された西郷孝彦さん、そして麻布OBにして麻布学園理事長、城南信用金庫顧問でもある実業界の吉原毅さんの3人。それに世田谷区長にして教育ジャーナリストの保阪展人さんも登場します。

著者の方々は皆、過去数十年にわたって続いてきた「管理教育」が、この国を深刻な危機に陥れていることを、とても重大なこととして認識しておられます。「管理教育」は、すでにこの国のエリートと呼ばれる人をも蝕んでいるのです。

構成を簡単に紹介すると、第1章「“みんなが主役”の学校づくり」では、西郷さんが校長を務めた桜丘中学校での取り組みから現在の管理教育の弊害について、続く第2章「学校の“いま”、家庭の“いま”」では、同調圧力が蔓延する学校と家庭に現実について、第3章「可能性が広がる学校の“ミライ”」では、AIが発達する未来への教育の展望について、著者3人による自由闊達な会話が繰り広げられます。各章には、著者の方への、より詳細なインタビューも掲載されています。そして最後の第4章「親の“不安”、その先の“希望”」には、前述のトークイベント参加者(桜丘中学校ほか世田谷近郊の保護者と生徒たち)へのアンケート回答も掲載されています。

「過干渉」が子どもから「考える力」を奪っている

正直、読み進むほどに、著者の方々の言葉がズシッズシッと心に刺さってきました。そんな箇所に付箋をつけていったら、付箋が20枚、30枚と増えていってしまいました。今の教育が抱える問題と言えば一言ですみますが、その影響は学校だけでなく家庭、企業など社会のすみずみにまで及び、簡単な言葉でお伝えすることはとても難しいのです。

そこで今回は、心に刺さった著者の方々の言葉をそのまま引用して、ご紹介することにしました。これらの言葉が、いったいどんな文脈で語られているのか気になったら、本書を手にとって熟読してみてください。何となく気になっていたけど、でもどうしようもないと思っていたジレンマみたいなものに、きっとあなた独自の解決のヒントが見つかると思います。

■尾木直樹さん:はじめにP.10
いまの社会、いまの学校というのは、管理が行き過ぎて、子どもに対して過干渉になっている。このことが子どもの考える力や判断力を奪っているんですね。「子どもの自主性、自立性を重視しよう」という言葉が叫ばれていますが、過干渉な指導では、それらは育ちにくいのです。

■西郷孝彦さん:第1章P.37
これまでの学校教育は、子どもが反発すると、さらに力で押さえ込もうとしてきました。校則でがんじがらめにするのもそのひとつで、教員側が子どもを信じていない。でもね、信じてあげれば、子どもはちゃんとやるんです。むしろ、ああしろ、こうしろと過干渉になることで、子どもたちから「考える力」を奪っている。

■吉原毅さん:第1章P.43
いま、会社に入ってくる若者たちは、総じて元気がありません。おとなしすぎると感じます。何かにつけて「人事部はどう評価するのですか?」と聞いてくる人もいます。「そこを気にするのではなく、もっと自分の思った通りに仕事をしてもいいんじゃないかなあ」と言っていますが……。このまま自分の頭で考えて行動できる人が減っていくと、日本社会は大変なことになります。いや、もうなっています。

「教育虐待」は高学歴な親に多い

■西郷孝彦さん:第2章P.120
わかりにくい虐待があります。それが「教育虐待」です。 どういうことかと言うと、度を超した教育ママ、教育パパがいて、子育てに必要な環境を与えず、勉強ばかりを強いる。(中略) 国家公務員や大企業の社員など、世間でエリートと呼ばれている親に、教育虐待が多いように感じます。両親ともに高学歴、というケースが大半です。教育熱心の度が過ぎている。

■西郷孝彦さん:第2章P.122
2018年度に桜丘中学校で行ったアンケートを分析した資料があるのですが、それによると、特に父親が勉強に口うるさいケースは、子どもの自己肯定感も成績も低下する傾向にあることがわかりました。

■西郷孝彦さん:第2章P.127
いい高校、いい大学に入ることがはたして幸せでしょうか。いい大学を出て、いい会社に入れば安泰という時代ではありません。大事なのは、自分で考えること、自分の好きなことを見つけること、そのためにやるべきことは、塾通いではありません。

■西郷孝彦さん:第2章P.130
親御さんの多くは、自分が受けた教育しか知りません。それを基準に子どもを判断してしまっています。まずそこから改めてほしいと思います。自分たちの時代と、高校や大学のレベル、難易度は変わってきていますし、勉強の内容や受験のやり方も変わりました。何より、世の中が変わってきています。そんな中で、自分の教育観を振りかざすことは、子どもにとってマイナスでしかありません。

■尾木直樹さん:第3章P.144
AIがどんどん進化するのは間違いありません。「子どもの将来はどうなるのだろう」と心配になると思います。ただしAIに仕事をとられる、と考えるよりは、AIにできないことは何か、と考えたほうがいい。

■尾木直樹さん:第3章P.148
自分の好奇心で突き進んでいけば、おのずとほかの学力もアップするということですね。例えば、蜂の巣に興味があって、将来的にもその研究をしたいとする。どの大学のどの研究室に行けばいいか、子どもは考えるわけです。もし、京大がいいとなれば、たとえ英語が苦手でも数学が嫌いでも、きっとその子は勉強するでしょう。学力というものは、そうして伸びていくのです。

■西郷孝彦さん:第3章P.151
感情の表出――楽しいときは楽しい、悲しい時は悲しい、という感情がうまく表に出せる子ほど「自ら学ぶ意欲が高い」という結果が出るそうです。桜丘中学校の子どもたちは、それが総じて高いという結果になりました。

■保阪展人さん:第3章P.157
そもそも、入試は絶対ではない。入試で人生は決まらない。そのことをもう一度、確認したほうがいいと思います。入試結果で、子どもの未来は左右されません。

■吉原毅さん:第3章P.163
私は、「教育はこれをやると得になる」という、損得の観点を、まず変えるべきだと考えています。保護者の方にはぜひ、「子どもがどうやったら幸せな人生を送れるか」と考えてほしい。そうするとね、「幸せって何だろう?」と考えざるを得ないわけです。いい高校、いい大学、いい会社に入れば幸せなんだろうか。そう思いませんか?

■保阪展人さん:第3章P.165
私も親にひとつだけ感謝していることがあって、それは一緒にテレビのニュースを観ているときに、「きみだったらどうする?」「きみはどう思う?」といつも父が聞いてくれたことです。「これが正しい!」と上から押しつけるのではなく、自分で考えることを促してくれた、それがいまの私の「考えるクセ」につながっています。

■西郷孝彦さん:第3章P.166
人間はもともと“よく生きたい”と思う生き物です。ですから、そういう心が発動するような環境作りさえしてあげれば、子どもは放っておいても勝手に育ちます。イメージは植物ですね。いい土と水と肥料。それさえ用意してあげれば、自然に育つ。その代わり、押しつけたり、先回りしたり、過保護だったり、過干渉だったりすると、“よく生きたい”という思いは決して発動しません。(中略) どうかそのことを、子どもの可能性を信じてあげてください。

「過干渉」をやめたら子どもは伸びる,尾木直樹,西郷孝彦,吉原毅,小学館

「過干渉」をやめたら子どもは伸びる
著/尾木直樹、西郷孝彦、吉原毅 小学館新書、本体820円+税

教育改革最前線。うちの子はどうなる? 学習指導要領が約10年ぶりに改訂され、2020年度より小学校、2021年度より中学校で実施。かたや大学入試制度改革は迷走し、日本の教育が大きな転換期を迎えている。一方、国際経営開発研究所が発表した、主要63か国の「世界競争力ランキング2019」では、日本は順位を5つ下げ、30位に急落。東アジアの中でもシンガポールや中国、台湾、タイ、韓国の後塵を拝し、もはや日本型教育では、国際社会で通用しないことは明らかだ。さらに近い将来、現在ある職業の大部分がAIに取って代わられるといわれる。「いい学校に入れば、いい生活が送れる」時代は終わった。こうした危機的状況にいち早く気づき、子ども主体の教育に舵をきってきた人がいる。1人は「校則なくした中学校」の元校長、もう1人は名門男子中高一貫校の理事長、最後の1人は子育てやいじめ問題に真正面から取り組んできた教育評論家だ。立場の異なる教育最前線の3人が、意外と気づきにくい「子どもが生まれ持つ本来の特性」を解きながら、才能を伸ばしていく方法を明らかにする。学校に息苦しさを感じる親も子も、教壇に立つ先生も、ぜひ読んでほしい1冊です!

西郷孝彦(さいごう たかひこ)さん
1954年横浜生まれ。2010年、世田谷区立桜丘中学校長に就任し、生徒の発達特性に応じたインクルーシブ教育を取り入れ,校則や定期テストの廃止、個性を伸ばす教育を推進。2020年3月に退職。
尾木直樹(おぎ なおき)さん
1947年滋賀県生まれ。教育評論家、法政大学名誉教授、臨床教育研究所「虹」所長。子どもを主役としたユニークな教育実践を展開。中高大学で合計44年間教壇に立つ。愛称は「尾木ママ」
吉原毅(よしわら つよし)さん
1955年東京都生まれ。麻布学園理事長、城南信用金庫顧問。東日本大震災以降、被災地支援を精力的に行い、2017年に全国組織「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」を設立、会長に就任。


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