「安定した反抗期」に繋がる!親子の信頼関係を築く中学受験

inter-edu’s eye
前回「中学受験を『親子の絆が深まる成長ストーリー』に」では、中学受験をしてよかったと思える境地に至るにはどうしたらよいかを、おおたとしまささん著書「中学受験という選択」の世界から一歩踏み込んでお届けしました。今回は、同書から「中学受験をする意味」を主テーマとして、思春期と中学受験の関係についてインタビューしました。

中学受験という選択

今回取り上げた著書:「中学受験という選択」日経プレミアシリーズ刊

中学受験で得られるものは合格だけじゃない! スポーツに打ち込むのは「素晴らしい」のに、なぜ勉強に打ち込むのは「かわいそう」なのか?
中学受験、そして中高一貫教育は、子どもを大きく成長させる一生に一度の機会。塾・学校選びから、正しい併願戦略、試験に成功するための心構えまで、この一冊で中学受験の「すべて」がわかる。

小学生のうちは遊んだほうがいい。中学生はもっと遊ぶべきだ

教育ジャーナリスト: おおたとしまささん
受験や育児に悩む、お母さま方の気持ちに寄り添ったアドバイスが好評。

インターエデュ: 学校選びにおいて、難関大学の進学実績を気にしている親御さんはとても多いです。おおたさんの著書に書かれているように「思春期をどう過ごすか」という視点で考えるいる親御さんは少ないように感じます。

おおたとしまささん: 中学受験をする意味の本質は、分かりやすく言えば、高校受験を回避することです。象徴的な言い方をすれば、12歳の1年間を勉強に充てるか、15歳の1年間を勉強に充てるかという選択です。高校受験というのは、反抗期の真っただ中で、大人の言いなりになりたくないけど勉強しなさいと言われる。難しいときに難しい課題を与えられているんです。

思春期は、子どもから大人に変わっていく過渡期であって、人格が形成されていく重要な時期。自分固有の価値観を持ち始めていくからこそ反抗期があるわけです。

その時期に、親以外のいろんな人に会うことで、いろんな職業があるんだな、いろんな生き方があるんだなと実感して、広い世界でどうやって自分の居場所を見つけていけばいいのか、どういう人生を送っていったらよいかを考えることが重要であって、極端な言い方をすれば、勉強している場合ではないと。そのために、本を読んだり、旅をしたり、冒険をしてたくさんの失敗をすること。そうやって人生に必要なことを学び取っていくべき時期なんです。

小学生のうちは遊んだほうがいい、でも中学生はもっと遊ぶべきだという教育観、発達観を私は持っているんですよね。

私立中高一貫校こそ「ダイバーシティ」誰もが“主役”に

インターエデュ: 思春期における人格形成といった点に着目すると、高校受験で分断されずに6年間過ごせるというのはとても有意義ですね。一方で一般的に、「私立中高一貫校は学力的に均一で多様性に欠ける」ことも指摘されますが。

おおたとしまささん: 確かに中学受験で入った学校は、学力帯が似てしまうし、皆ある程度裕福な家庭。その点において、「多様性に欠ける」と言えます。だけどここで、本当の「多様性」とは何だろうかということを考えたい。

今、盛んに言われている「ダイバーシティ」とは、主に文化的背景や価値基準の多様性のことを指しますよね。多様な文化や価値観の人たちが集まれば、社会はそれだけ強くなる。でも、公立の中学校では、半径2〜3kmの地域の子どもたちが、似たような小学校から集まってきて、放課後に遊ぶ公園も同じだし、週末に家族で出かけるショッピングモールも一緒なら、どこに文化的多様性があるのでしょうか。

その点、私立の学校だと、生徒の多くが1時間近くかかる場所から、違う文化圏から来ていて、トランプやドロケイのルールも違う。使う言葉のイントネーションも違ったりする。自分とは違う世界で育った人たちに出会える。つまり「多様性がある」と言えます。

それと、似たような学力帯であることはメリットにもなり得ます。力が拮抗しているからこそ、状況に合わせてリーダーにもフォロワーにもなれるという面があります。学力、能力に幅があったら、いつも同じ人がリーダーになってしまい、リーダーを経験できる人は限られてしまいますから。

さらに、学力差が少ないからこそ、学力以外の個性が際立ってくる。人それぞれなんだなという価値を持つことができるんですよね。たとえば、鉄道に詳しいとか、アイドルに詳しいとか、あいつは頭がいいというのではなく。

そうやって、ポジションがつねにシャッフルして、それぞれの得意分野も合わさって、文化のモザイクになることが、私立中高一貫校が持つ「多様性」だと私は思います。

10歳から12歳、親子で何かを頑張る教育的価値とは

インターエデュ: 中学受験をする意味を、高校受験を回避し、思春期をどう過ごすかという点からお話しいただきましたが、では小学生で受験勉強をする点から言うと、どんな意味があるのでしょうか。

おおたとしまささん: 10歳から12歳は何かを頑張る、ということが大事な時期です。たとえばサッカーが好きであれば、サッカーを頑張ればいい。芸術や音楽に得意な分野があって打ち込めれば、それはそれでいい。でももし得意なことがなければ、勉強に打ち込むのも一つの手。勉強にも上手い下手はあるけれど、誰でもできる「競技」の一つですから。できる範囲でいい。一番よくないのは打ち込むものがないこと。10歳から12歳のときに何もしないという選択はあり得ない

何でもいいので、この時期に親子で頑張るという経験をすることが大事。一緒に頑張った経験があるから親子関係に対する信頼、土台が作られて、思春期あるいは反抗期を迎えても、親は安心して手放なすことができるし、子どもも安心して反抗することができるんです。そうやって、親子で反抗期を満喫してほしいですね。

また、中学受験で必死に頑張る子どもを見たことがあるからこそ、子どもが中だるみ期を迎えても、親は「またやるときにはやるんだろう。見守ってみよう」と考えられるようになって、心に余裕が生まれます。この境地に至ることが、子どもの精神的自立のためにとても重要。中学受験を通じて親子関係の絆を深めてほしいというのが私からのメッセージであり、「中学受験をする意味」に込めたい思いですね。

~取材を終えて~

著書のあとがきに記されている「合格すれば、いい学校で6年間を過ごし、比較的いい大学に入れる」というような表面的なメリットではなく、『中学受験という選択』に内包されるもっと本質的な教育的価値を明示したいと考えた。」という、おおたさんのこの思いを伝えたい!それが今回の取材の主旨でした。時に厳しく、時に親御さんの心境になって語られる言葉の一つひとつが、胸にすとんと落ちる内容です。しかし、中学受験当事者は、受け入れる気持ちの余裕がないのでは…?という疑問が。その答えはおおたさんの下記メッセージに込められていました。

~おおたとしまささんからのメッセージ~

きれいごとに見えるかもしれない、理想論に見えるかもしれない。でも、いつか現実と向き合ったときに、この記事の意味が腑に落ちるときがきっとくる。今すぐに理解できなくていいんです。このメッセージが頭の片隅のどこかに残っていれば、いつか役に立つと思います。

次回は「男子校」をテーマにお届けします。お楽しみに!
前回の記事「中学受験を『親子の絆が深まる成長ストーリー』に」はこちら

おおたとしまささん

おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。

開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす

おおたとしまささん最新著書:「開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす」祥伝社新書

幼少期、中学受験期、思春期…。一般に男の子の発達の仕方は、女の子に比べると不規則的だともいわれています。自信をもって見守るのはとても難しいことです。母親からしてみると、男の子にふるまいが理解できないことも多いでしょう。父親からしてみても、戸惑うことが多いはずです。かって自分が子どもだったころと今とでは、社会環境が違うからです。「理想の男性像」を押し付けることは、男の子がいきいきと伸びていく上で足枷になることもあります。本書では、日本を代表する名門男子校の先生方に、男の子をどう育てたらいいのか、どう伸ばし、見守ったらいいのか、話を聞きました。特色ある教育で知られる名門校の先生方の話には、21世紀に生きる男の子の教育のヒントが詰まっています。