ありのままの子どもを認める ~幸せな中学受験と豊かな思春期のために~【後編】

inter-edu’s eye
「子どもの才能を殺してしまうのは、親の“無関心”でなく、“熱心さ”です」。思わずドキッとする言葉は、栄光学園のカリスマ数学教師「イモニイ」による、親へのメッセージ。言葉に込められた真意は? 思春期の子をもつ親の関わり方とは? 5月21日に開催された『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師イモニイと奇跡の教室』(おおたとしまさ著/エッセンシャル出版社)出版記念トークセッションの後編レポートです。中学受験を経て、都内共学の中高一貫校に通う娘(高1)をもつライターがお届けします。

中高一貫校という選択、むしろ“中だるみ”をするため?

出版記念イベント第3部のテーマは「中学受験で得られるもの」。本の著者で教育ジャーナリストのおおたとしまささん、栄光学園中学高等学校の数学教員をしながら、花まる学習会で「いもいも教室」を主宰する「イモニイ」こと井本陽久さん、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役の松島伸浩さんの三人によるトークセッションです。

まず、おおたさんが「最終的に受験者の1/3しか第一志望に合格しないといわれる中、不合格になって第2志望や第3志望に入学した子は、どんなふうに気持ちを切り替えていくべきでしょうか?」と2人に問いかけます。

松島さんは長年の経験から感じた思いを、こんな言葉で語りました。
「受験失敗の影響は、その後、子どもがどう伸びるのかによって違ってくると思います。受験を通して、考えることや学びが好きになった上で進学するのと、受験の段階で、もう勉強はイヤだと感じているのとでは、その後の伸びに雲泥の差がありますね。また、子どもはすぐに環境になじみますが、大人のほうが気持ちを切り替えるのに時間がかかることが多いです。ご家庭によっては1校しか受けず、落ちたら公立に……というところもありますが、一つでも合格を得ることは、子どもにとって大きな喜びです。たとえその学校に進学しなくても、これまで受験に費やした成果が感じられるようにしてあげてほしいと思います」

おおたさんはその話にうなずきながら、想いを語ります。
「たとえ第2志望や第3志望でも、そこで良い先生や親友に出会えたとか、その学校でしか得られなかった新しい人生の道筋を見つけることがありますね。12歳からの6年間をどう過ごすかによって、事後に自分の正解にすることができる。それは、誰かに与えられた正解でなく、“自分で自分の正解を作りだす力”だと思うんです」。

すると、笑顔で2人の話を聞いていたイモニイがこんな話をしました。
「あんまり真面目に考えすぎなくていいんですよ。確かに、親や教師が子どもに関心を持つのは大切で、子どもにとっても嬉しいことです。子どもの心を殺すのは『無関心』ですが、才能に関していうと、子どもの才能を殺すのは『無関心』でなく『熱心さ』なんです。中高の段階で子どもを熱心にコントロールしてしまったら、逆に危ないと思います。その結果、家ではいい子なんだけど、外では危ないことに手を出してしまうという例もあります。中高時代、子どもは親にちゃんと反抗してくれるので、ほっとけなくても、ほっといていいと思います。今のうちから、こう育てないと子どもが曲がるんじゃないかと思っているとつまんないですよね。曲がったらそこが魅力になることもあるし」

第3部の最後に、おおたさんから参加した親たちへ、こんなメッセージが送られました。
「もどかしいときにも基本は放っておいていい。反抗期があるのは当たり前なんです。つけ加えるなら、よく『中高一貫校のデメリットは中だるみだ』と言われますが、むしろ中だるみするために入るんでしょって思います。先生や親以外のいろんな大人に出会って、失敗して、その中で自分を知り、世界を知り、自分の居場所がどこにあるのかを見つけていく。そういう時期が思春期で、それが自立につながるんです。そうした環境を与えてあげるのが、中高一貫校を選択するということだと思っています」

現在、わが子が通っている学校も、中学受験時は第一志望ではありませんでした。でも、そのことを忘れてしまうほど、子どもは入学後すぐに学校になじみ、今も学校が大好きで、親子ともに充実した日々を過ごしています。勉強はほどほどに、運動部と文化部を兼部したり、ジャニーズのコンサートにでかけたり、海外研修にチャレンジしたりと、中だるみ……いや、この期間でしか得られない出会いや体験に夢中です。イモニイやおおたさんがおっしゃっているように、親が熱心にコントロールしなくても、子どもは自分で正解を作り出す力を持っていることを日々実感しています。

子どもが『いま、ここで輝く』ために

トークセッション終了後は、会場の親たちからイモニイへの質疑応答タイムに。1人の母親から、こんな質問がありました。「小3の息子が中学受験を目指しています。本来はやんちゃで朗らかな性格ですが、受験勉強を始めてから、つねに大人の顔色をうかがうような、委縮した態度を見せるようになってしまい、心配です。どう接すれば、本人が自信をもって取り組むことができるのでしょうか」。

イモニイはうんうんとうなずきながら、こう答えます。
「じつは人って案外、できていることについては言われないものなんです。やる気を引き出すには、いま彼ができていることをどんどん言ってあげましょう。どんなにささいなことでもいいんです。当たり前のようにできていることを指摘してあげることで自信がつき、子どもはどんどん変わっていきますよ」

また、ほかの母親からは、こんな質問が。
「中学受験をした息子が、進学先と相性が合わずに退学し、海外の学校を経て、公立中へ転入したんです。本人は今の学校にもなじめないようで、『先生の授業がつまらない』『自分のほうがおもしろい授業ができる』と豪語しています。みんなとうまくやれなかったり、自分のことを過信しすぎたりしている生徒に対し、先生はどんな指導をされますか」。

イモニイは話にじっと耳を傾け、柔らかな笑顔でこう答えました。
「そういうときは、親がいくら言っても仕方がないですよね。彼が本気でそう思っているわけだから。大事なのは、自分で全部決めさせること。自分で決めて自分でやっていると、どうせ、いつかは失敗します。そこで学ばせるんですよ。親がそこに入って何とかしようとしたら、彼は試行錯誤する機会をなくします。だから、ほっといていいんです。お母さんは、本人の不満やグチを、否定せずに受け止めてあげてください。ちっちゃな大人を育てる必要はないんです。生意気なことを言っている彼にも、何か魅力がありますよね。魅力は自分で気づくものでなく、他人が気づいてあげるものです。どうしようと心配するだけでなく、子どもの魅力的なところとか、ここがいいなと思うことを言ってあげるといいですね」。

イベントの最後は、おおたさんの言葉で締めくくられました。
「今日の話を聞かれて、きっと皆さんの子どもを見る視点が、若干変わっているはずです。イモニイのやっていることは、その子にはこの世に居場所が必ずあるんだって確信させてあげることなんです。だって、この世の中に生まれてきただけで、奇跡なんだもの。みんな、それを忘れてしまっている。だから、そのことに気付かせてあげるだけでいい。その瞬間、子どもは『いま、ここで輝く』ことができると、ぼくはそう思っています」

トークセッションが終わり、これまでのわが子との向き合い方を振り返ってみました。中学受験という道を選択し、親子で悩みながら一歩ずつ前進したプロセスはすべて、家族の成長の歴史です。娘が考えることのおもしろさを知り、あきらめない心をもつことができたのも、受験のおかげでしょう。けれども、急速に変化していく未来に不安を感じ、安心を求めるあまり、「子どものため」と言い訳しながら、親の勝手な理想像や価値観を押しつけた場面もたくさんあったと思います。娘は、もう少しでちっちゃな大人になりかけていたのかもしれません。

親はたっぷり悩んで向き合っていけばいい。子どもを変えようとするのでなく、まずは大人が子どもの見方を変えること。そして、子どもをまるごと承認すること。3人の言葉の数々が、心の中に沁みわたり、家に帰ったら娘をぎゅっと抱きしめたい気持ちになりました。

『いま、ここで輝く。~超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』

『いま、ここで輝く。~超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』
おおたとしまさ著 エッセンシャル出版社刊 1,400円+税
全国の教員が! カリスマ塾講師が! 一目見たいと見学に訪れる授業では一体何が行なわれているのか?大切なのは「ふざけ」「いたずら」「ずる」「脱線」!?
――独創的な授業で子供たちのやる気を引き出す名物先生の、笑いと涙のルポルタージュ!
(はじめにより)「一人でも多くの先生がイモニイ流のコツをつかんでくれれば、大げさな教育改革なんてしなくても、日本の教育は意外にあっさりと変わるかもしれない。
イモニイと同じ視点から子供たちを見つめれば、多くの親の不安が解消し、偏差値に振り回されるようなことが減るかもしれない。そんな願いを込めて、本書を著す。現在の教育に対する痛烈な批判書であり、希望の書でもある。」 …購入はこちらから

おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。麻布中高卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業後、リクルートにて雑誌編集。独立後、多数の育児・教育関連媒体の編集・企画に関わる。学校や塾などの教育現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。しつけから中学受験、夫婦関係までをテーマに、講演・メディア出演も多数。中高教員の資格、心理カウンセラーの資格、小学校教員の経験もある。『ルポ塾歴社会』『名門校は何か?』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』など著書は50冊以上。


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