【緊急連載Vol.2】今の日本の英語教育に必要な視点とは?

inter-edu’s eye
「大学入試で英語の外部試験利用が延期決定」というニュースが流れたのが11月1日。
エデュナビ編集局では、翌11月2日に、大学受験に造詣の深い教育ジャーナリストの後藤健夫さんにお願いして、このニュースに関するお話を聞かせていただきました。
そのインタビューの模様を3回にわたってお伝えする緊急連載。第1回目では、これまでの英語の勉強が無駄になるわけではないこと、そして日本の教育の課題についてお伝えしました。第2回目の今回は、日本の教育の課題と今後すべきことについてお伝えします。

今は、英語のカリキュラムを本来の言語習得の順番に即したかたちに戻すための過渡期

学生が英語の辞書で学習している姿

インターエデュ(以下エデュ):これまで高校生がやってきた英語の民間テストに向けての勉強は決して無駄にはならないという力強いメッセージ、ありがとうございます。

それから、これからの教育が子どもたちに身につけさせるべきものとして3つの力(英語、ICTの活用やプログラミング、課題発見・解決能力)をご提示いただきました。では、そのためには何が必要なのでしょうか?

後藤健夫さん(以下後藤さん):その前に、まずは今の日本の英語教育についてお話ししたいと思います。今、従来の「読む(Reading)」「書く(Writing)」に「話す(Speaking)」「聞く(Listening)」を加えた英語の4技能習得の必要性が言われていますね。そして、「日本人は英語を話せない」ということで、小学校から英語の学習が行われています。しかし、言語の習得過程を考えてみるとわかるのですが、言葉を覚えるときは「聞く」「話す」の順ですよね。本来、従来の2技能の方が高度な活動なのです。

どうしてこんなことになっているかというと、英語も含む高校のカリキュラムが、高校進学率がまだまだ低かった頃の意識で、言わば「優秀な人向け」につくられていたからなのです。今のように高校進学率が高くなると、当然ながら、カリキュラムを消化しきれない高校生も増えてきます。だから近年、選択科目が増えていますよね。「すべての高校生に全部を学ばせる」ではなく「好きなことを選択して学ぶ」という流れがあります。

エデュ:小学校で今行われている英語の授業は、まさに「話す」「聞く」が中心ですね。

後藤さん:そうなのです。まさに日常会話レベルのことをやっています。グローバル化が進んでいるとはいえ、最低限求められる英語能力は日常会話レベルで充分なのです。誰もが高度に、大学レベルの英文を読み書きできる力をつけることは求められていません。

一方で、語学というのはスキルです。どんなスキルかというと、自分の思考をアウトプットするためのものですね。高度な英文を読めたり、英文を書いたりすることができる人に、今さら「This is a pen.」と喋らせることには何の意味もありません。基本的な日常会話と思考のアウトプットでは、活用能力に大きな差があります。東大の英作文などは深い思考そのものを評価するわけではなく、その思考のアウトプットとしていかに豊かに表現できるかを見ているのでしょう。

今は、英語のカリキュラムを本来の言語習得の順番に即したかたちに戻すための過渡期なのだと思います。小学校を卒業したくらいで普通に基礎的な日常英会話ができるよ、ということになれば、自然と、順を追って高度な技能を身につけていくという流れに戻ると思います。

教育格差是正のためには、「制服ではなくChromebookを」

エデュ:外国語の運用能力は、その人の母語の運用能力や思考力を超えることはあり得ないという話もありますね。

後藤さん:そうですね。英語とICT教育に目処がついたあたりで、「国語が大事だ!」という話に今度はなるのではないかと思いますよ。

話を英語に戻しますと、大学レベルの学術的な論文などを読みこなすためには、やはり従前の「読む」「書く」中心の英語力を鍛える必要があるのです。深く掘り下げられた高度な思考を人に伝える手段としては、やはりしっかりとした文章、論文としてまとまったものの方が適しているでしょう。

英語は世界の共通言語ですから、誰もネイティブ並みの発音は求めないというようになっています。中国訛りの英語でも、ベトナム訛りの英語でも構わない。日本人に多い、LとRの発音の区別がつかない英語でもOKなのです。それよりも、日本語で多くの文章に触れるのと同じように、多種多様な多くの英文に触れることが大切です。英語は言葉ですから、理想的には日本語の本を選ぶように興味関心に応じて個別最適化されたテーマのものに触れられるようにしたい。そしてここで、もう一つの格差が問題になってきます。

格差

エデュ:もう一つの格差、とおっしゃいますと?

後藤さん:「都会と地方の格差」「経済格差」に加えて、「私立・公立の格差」が、厳然と存在しているのです。これによって、大きな英語教育の格差が生まれています。

先ほど、様々な英文に触れることが大切だとお話ししましたが、そのためには英語の検定教科書に載っている英文だけでは当然足りません。それがわかっているから、私立中高一貫校は検定外の教科書を副教材として使っていますね。語彙も、文章のバリエーションも桁違いです。しかも、途中でリスタートがかかることなく6年間で見通しを立てて勉強をしていくことができますから、圧倒的に有利なわけです。

英語とICT教育に関しては、就学前や小学校入学直後から、習い事でやっていて「そんなのとっくに知っている」という児童と、まったく覚束ない児童が混在していて、現場が大変苦労されているそうです。その格差が、中学・高校くらいの段階で、さらに大きく広がる……。

エデュ:それは大きな問題ですよね。何か手立てはあるのでしょうか?

後藤さん:私は以前から「制服ではなくChromebookを」と提言しています。都会と地方の格差、経済格差、私立と公立の格差、これらの格差を是正するためには、不足している側が足りない分を補える環境を用意するしかない。そのためにはICT環境を整備し、誰もが同じように教育機会を得られるようにしなくては。

エデュ:なるほど。「制服ではなくChromebookを」について、もう少し詳しくお聞かせください。

この続きは、11/18(月)公開予定のVol.3で!

後藤健夫さん

後藤健夫(ごとう たけお)さん

大学卒業後、河合塾に就職。のちに大学コンサルタントとして独立し、有名大学のAO入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立にかかわり、早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。『大学ジャーナル』の編集委員も務める。