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受験直前期の今こそ知りたい 専門医に聞く!肌トラブル 受験直前期の今こそ知りたい 専門医に聞く!肌トラブル?

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いよいよ受験シーズン到来です。前回は「中学受験期の肌トラブルはストレスのサイン?」と題して、中学受験期を迎えたお子さまの肌トラブル、特にアトピー性皮膚炎について概要をご紹介する記事をお届けしました。今回は、アトピー性皮膚炎と向き合いながら受験勉強に臨み、学校生活を送るお子さまを持つインターエデュのユーザーから寄せられたトピックについて、Q&A形式で解説するとともに、アレルギー専門医の先生からのメッセージをご紹介します。受験直前のこの時期や受験後の学校生活を健やかに送っていただくために、ぜひご覧ください。現在、お子さまのアトピー性皮膚炎に悩んでおられるお父さま・お母さまにとって、少しでも最新情報に触れる機会になれば幸いです。

監修 堀向健太先生
東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医
日本アレルギー学会 アレルギー専門医・アレルギー指導医

アトピー性皮膚炎にはどのような治療法があるのですか?

肌トラブルに悩むお子様のイメージ図
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幼少期からアトピーがあり塗り薬などで対処してきましたが、小学校高学年になり受験勉強が本格化しているからか最近また症状が強くなってきて、かゆくて寝つきが悪いようで見ていて辛いです。
アトピーにもいろいろな治療法があると聞いたのですが、どんな選択肢があるのでしょうか。

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アトピー性皮膚炎の治療薬は、過度な免疫反応を抑えることでアレルギー反応やかゆみを鎮め、皮膚の症状や炎症を抑えます。そして治療薬の中心は、まずは外用薬。そして全身に使用する薬、つまり内服薬や注射薬があります。最近は研究が進み、治療選択肢の幅も広がってきました。
外用薬は、保湿剤のほかに、ステロイド外用薬、ステロイド外用薬以外の、過度な免疫を抑える外用薬があります(1)。ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の基本となる薬で、炎症を抑える働きがあります。ステロイド外用薬以外の外用薬としては、タクロリムス軟膏とJAK阻害薬軟膏のほかに、新しい作用機序の軟膏剤も開発中です。内服薬としては抗ヒスタミン薬がよく使用されてきましたが、最近、新しい作用機序の内服薬も使用できるようになりました。注射薬は15歳以上であれば使用でき、有効性の高い薬です。

症状に合わせて適切な治療薬を選び、まずは皮膚の炎症を抑えて改善を目指します。最終的には保湿剤を塗るだけでかゆみを引き起こさない肌になることが理想です(2)
アトピー性皮膚炎の症状は、残念ながら一朝一夕に治るものではありません。治ったと思っても何かのきっかけでぶり返してしまうこともありますので、長期的な付き合いを前提とする意識が必要です。しかし、治療法や薬の進歩で、丁寧に治療に向き合えば、十分に症状を改善させることができる可能性があります。
ぜひ専門医にご相談していただきたいと思います。

塗り薬を忘れてしまうお子さまへの対応

肌トラブルに悩むお子様のお母さんのイメージ
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これまでは親が塗り薬を塗っていましたが、子どもが中学生になってから徐々に自分で塗るようにしてきました。ところが、最近は塗り忘れが続き、注意しても塗り忘れたまま学校へ行ってしまうという有り様で、どうしたら良いものか悩んでいます。

朝から喧嘩になるので放っておきたいところですが、症状が悪化してしまうのは避けたいので怒らずにはいられません。治療をきちんと続けるために、どのように伝えていけば子どもに響くのでしょうか。

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アトピー性皮膚炎の話題からちょっと離れて考えてみましょう。誰もが心当たりがあることかもしれません。病気に対して何も意識していない時期から、少し治療への気持ちが芽生える時期、そして治療を開始して、その治療が習慣となるまでの段階があり、これは「行動変容ステージモデル」といわれています(5)

行動変容ステージモデル 行動変容ステージモデル

このステップは、皆が同じ様に進むわけではありません。例えば小学生・中学生くらいのお子さまは大人よりも先を見通す力が発達途上です。そのため、成人と同じように順調にステージを上がることが難しいことも多いのです。
ですので、今どのステージにお子さまがいるのかを冷静に捉えることが大切です。例えば、治療を開始した時期(“実行期”といいます)はとても大事な時期です。この治療という行動を開始したことを認めて褒めてあげることが、その行動を維持する第一歩となります。薬を塗るということは、お子さまにとっては大人が思う以上に実は大変なことで、「自分のことなのだから当たり前」と考えないことから始めましょう。それこそ大人の私たちでも、毎日のダイエットだったり、資格のための勉強を続けることは簡単ではないはずですよね。お子さまに任せっぱなしも問題ですし、塗らないときに叱るだけでなく、どのようにしたら塗り続けることができるのかを一緒に考えてみましょう。

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そして、小さなことでも「できたことを褒める」ことからはじめ、良くなった部分があれば一緒に喜んでみましょう。そうした一つひとつの積み重ねが、お子さまご本人が症状の程度を把握し、通院や治療を自主的に続けることへの第一歩になると思います。

学校生活におけるアドバイス

肌トラブルに悩むお子様のお母さんのイメージ
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子どもがアトピー性皮膚炎と診断されている場合、やはり屋外の部活動やプールの授業などは皮膚に刺激を与えるので参加しない方が良いのでしょうか。学校生活における注意点はありますか?

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せっかく受験勉強を積んで勝ち取った合格ですから、入学した後は多くの友達と同じように学校生活を思いっきり楽しみたいですよね。まずは、アトピー性皮膚炎が改善して安定すれば、皆と一緒に活動することができるようになります。修学旅行などの学校行事も、症状が改善すれば一緒に楽しむことができるのです。ただ、アトピー性皮膚炎の症状が悪化しているときは、注意が必要な時期です。

文房具のイメージ
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アトピー性皮膚炎の症状が悪化する時期は季節的な周期があります。例えば、体育祭に向けた練習が始まると皮膚への刺激が強くなり、症状は悪化することが多くなります。また、プールの水に含まれている塩素の化合物が皮膚を傷つける可能性がありますし(6)、プールの水は塩素以外にも多くの化学成分や汚染物質を含んでいます(7)。したがって、プールはアトピー性皮膚炎の悪化要因になると考えられます。

では、学校行事への参加やプールなどはすべて避けたほうが良いのでしょうか?
ここで一つ大きなポイントがあります。主要な学校行事のスケジュールは、比較的早い段階で日時が決まっていますよね。これらの主要行事に参加する日に向けて症状を良くしていくことを目標に、治療を続けることが大切なのです。
つまり、症状が改善していればいるほど行事に参加しやすくなりますし、行事の間に多少悪化したとしても、治療による改善はより容易になります。逆に、症状のコントロールがうまくできていない状態で行事に参加すると、行事の間に症状がさらに悪化し治療による回復も大変になります。ぜひ、学校行事を楽しむことを目標に、前向きに治療に取り組んでみてはいかがでしょうか。

プールへの参加についても、悪化している場合には控えたほうが良いですが、皮膚状態が安定した状態であれば可能です。この場合は皮膚を安定させたうえで参加し、プールの後は塩素や汚染物質を含んだプールの水をシャワーで十分洗い流す、プール前・後にしっかりとスキンケアを行う(保湿剤を塗布する)という対策がおすすめです。

最後に、受験生とお父さま・お母さまへ

アトピー性皮膚炎は短期での寛解が難しいことから、お父さま、お母さまはもどかしい気持ちになることも多いと思います。
日々、患者さんと診察室で向き合い続けている医師も、お子さまの苦痛を少しでも取り除くために一緒に考え、治療に取り組むように努めています。

お医者さんのイメージ
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昨今、アトピー性皮膚炎の治療薬は様々な治療選択肢が新しく加わり、これまでよりも高いゴールを目指した治療が可能な時代になってきました。これまで、お子さまに合う薬がない、これ以上は良くならない、うまく付き合っていくしかない、と悩んでいらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。お子さまが受験で合格を勝ち取り、少しでも自分らしい学校生活を楽しく送っていただくために、どうか諦めないで、ぜひ専門医のもとへご相談にいらしてください。

企画・編集:インターエデュ・ドットコム
提供・取材協力:アッヴィ合同会社

引用:
(1) 堀向 健太. 【イマドキのアトピー性皮膚炎治療】. 日本医事新報 2021:18-37.
(2) 「図解 最新医学で治すアトピー」 河出書房新社 大塚篤司・堀向健太 P32
(3) Oyetakin-White P, et al. Clin Exp Dermatol. 2015 Jan;40(1):17-22.
(4) Fishbein AB, et al. J Am Acad Dermatol 2018; 78:336-41.
(5) Webサイト 厚生労働省が提供する生活習慣病予防のための健康情報
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html(2021年11月22日閲覧)
(6) Chaumont A, et al. Environ Res. 2012; 116: 52-7.
(7) Richardson SD, et al. Environ Health Perspect. 2010; 118(11): 1523-30.