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【6447426】読書に耽溺する

投稿者: 時代錯誤というより存在自体が錯誤無効   (ID:V/aAt8hqz22) 投稿日時:2021年 08月 17日 00:55

雑誌について何かというお話がありましたので、別にスレッドを立てさせていただきます。
作る方についてはたいして何もありません。
せいぜい月刊プレイボーイのライターだったこととSM雑誌に小説を載せていたくらいです。
それで読むということですが、字が書いてあれば読み尽くす子どもでしたので、お気に入りは出版社の広報誌でした。
新刊書の紹介や再版の告知だけでなく、エッセイに読みごたえのあるものが多かったと思います。
岩波書店の「図書」はまあいいとして、新潮社の「波」筑摩書房の「ちくま」は単行本化を前提とした連載などミニ文芸誌の趣きがありましたし、未来社の「未来」の完全な個人誌テイストも好きでした。
共立出版の「蟻塔」東京大学出版会の「UP」はそれぞれの個性があらわれていて読みごたえがあったと思います。
特にUPは創刊号から愛読していて、ちょうど駒場で標準的な数学教科書を出していこうという時期だったので、中高生としては新刊情報は受験勉強の側面からもありがたかったです。
みすず書房の「みすず」はある意味もう少し本格的な「雑誌」でページ数も多かったと記憶しています。
外山滋比古さんが執筆されていることがしばしばで人気があったようですが、私はあまり気に入りませんでした。
今でも中学入試などで出題例がありますが、過大評価されているもののひとつであるように思います。
逆に興味深く読めたのは島崎敏樹氏の追悼記事で、「知能は高く教養人であったがその趣味は凡庸」という身内の方の批評が妙に印象に残っています。

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  1. 【6459273】 投稿者: 時代錯誤  (ID:SjSJiR1pUMU) 投稿日時:2021年 08月 27日 10:19

    作家の妻の回想には傑作が多く、小泉節子さんの「想い出の記」、坂口三千代さんの「クラクラ日記」など、美化や理想化から距離をおいた適度な主観性には魅力がある。
    対照的なのは高橋たか子さんの「高橋和巳の思い出」で、主観しかない呪詛の連続はこれなら「君がいると僕の脳波が乱される」くらいのことは言いたくなるだろうと強烈な説得力があった。
    何度でも読みたくなるのは色川孝子さんの「宿六・色川武大」で、失礼ながら「麻雀放浪記」の100倍は面白い。
    余談だが、阿佐田哲也名義の「麻雀放浪記」は戦後の混乱期を背景にしているかのように書かれているが、麻雀の基本的ルールについては連載中の時代に寄せられておりそこにリアリティを求めるのは無理があると思う。
    色川孝子さんについては、直木賞受賞のお祝いの電話に「はあ、私がもらったんじゃありませんから」と言い放った件をはじめとしてエピソードには事欠かない。
    色川武大名義の「離婚」などの連作でとんでもない人のように描写されていたのが不満で、その誤解をただしたいという動機もあったそうだが、どう読み返しても作家の筆は十分に抑制的だったのがよくわかる。
    阿佐田哲也と周辺の人たちは、特に麻雀を通して同時代感があったのだが、宮城県瀬峰(全くの偶然だが私の母方の祖父母の出身地でもある)の病院で亡くなってから30年以上経っているわけで、入試問題になるのも当然の距離なのだろう。

  2. 【6460710】 投稿者: 『金環食』  (ID:wWmR05FXUsQ) 投稿日時:2021年 08月 28日 11:42

    ご存じ石川達三の小説であり、山本薩夫監督が映画化した。表題の意味は「外側はきらびやかに見えるが、中身は真っ黒に腐っている」だそうな。総裁選で自民党内が騒がしい今日、この作品にあらためて目を通すと興味深い。

    とくに、そこに登場する人物らのモデルに思い致すと、臨場感がより増すようだ。しかも、アベ前首相に政治スキャンダルが噂され、さらに先の横浜市長選でのスガ総理直系有力候補者の大敗など、自民党をめぐる状況は混迷を極めているといえる。こんなときこそnonfiction‐writerの腕の見せ所であろう。

    だが他方で、上述のように小説や映画の形で著してくれると、実物を想像しながら読み進められるとの楽しみがある。憲法の授業での表現の自由とプライヴァシーの権利との関連で、三島由紀夫の小説『宴のあと』を再読、映画『エロス+虐殺』の存在を知った。

  3. 【6462012】 投稿者: 時代錯誤  (ID:SjSJiR1pUMU) 投稿日時:2021年 08月 29日 12:21

    坂口安吾は濫作の時代ほど傑作が揃っているという稀有な作家でもある。
    最初に発表した「風博士」は牧野信一が激賞したという周辺情報こそ興味深いが、見事に失敗した実験作だった。
    それがあるので、牧野信一の作品は可能なものは全部読んだ。
    2013年センター試験では国語の平均点の記録的低下に寄与したが、「地球儀」は愛すべき小品で、そもそも入試問題の材料には不向きだというだけのことだったと思う。
    これほどまでに世間的には無名だったというのは、私には馴染んだ作家なので考えさせられた。
    坂口安吾マニア以外にはほぼ忘れられた存在として矢田津世子がいる。
    矢田は才能ある同世代の人間として坂口を尊敬し、愛してもいたと思う。
    当時は矢田津世子は人気作家で原稿はよく売れていた。
    坂口はまだ作品によって名をあげたというわけではなく、大宰や矢田が芥川賞と浅からぬ因縁があるのとは好対照でもある(第1回芥川賞は石川達三で、失礼ながら大宰を押しのけるほどのものではない)。
    ということで、矢田津世子の作品もお腹いっぱいになるまで読んだ。
    最初は市立図書館になぜかあった戦前のプロレタリア文学作品集で、「罠を跳び越える女」だった。
    何とも言えない珍品で、これが出世作になったという当時の空気が逆に面白い。
    治安維持法があって共産党はつねに弾圧にさらされていたが、プロレタリア文学は一般文芸誌も席巻しており、本はよく売れていた。
    映画でも「傾向映画」がつくられたのはそもそも客入りが良かったからで、何が受けていたのかはあらためて分析する価値はあるのだろう。
    矢田自身は逮捕され拷問も受けている。
    初期のプロレタリア文学ふうの短編をつい珍品と批評してしまったが、そこから離れたあとの作品は格段に退屈で、彼女は公式がある方が「書ける」人だったという気がする
    矢田への想いを封じ込めた「吹雪物語」がほぼ破綻しているのに、書けずに悶々としていたころの身辺雑記は生彩に富んでいる。
    これはいかにも坂口らしいと言えるかもしれない。

  4. 【6472273】 投稿者: 時代錯誤  (ID:h/t3DjzzVv2) 投稿日時:2021年 09月 06日 14:20

    読みごたえがある作家という観点からは、犬養健をあげておきたい。
    かつて、文学全集が隆盛だったころは白樺派3人集のような雑な扱いでまとめられていた。
    父親からの強い希望で衆議院議員となり、すぐあとに五一五事件があったため、政治活動から離脱するタイミングを失った。
    もっとも、そこまで嫌々続けていたとも見えない。
    交遊関係は広く、ゾルゲ事件では厳しい取り調べも受けている。
    政治的には斎藤隆夫と似ているところがあって、メンバーのほとんどが公職追放にあった成り行きであるにせよ民主党のトップにもなっている。
    その後は吉田自由党に合流して、法務大臣時代にあの指揮権発動の当事者になった。
    「『指揮権発動』を書かざるの記」というエッセイを書いており、健康を害して亡くなる直前とは思えないよい文章だと思う。
    短編のいくつかは青空文庫で読める。
    下手な作家の揃っている白樺派の中では抜群の筆力を感じてもらえるのではないだろうか。

  5. 【6497162】 投稿者: 時代錯誤  (ID:Adme9dLkfPM) 投稿日時:2021年 09月 26日 13:32

    佐々木邦という作家がいる。
    ユーモア作家ということになっているようだが、初期のアメリカやイギリスの翻案ものは読むにたえないひどいものでおすすめはしない。
    しかし、少年倶楽部の大変な人気連載であったらしい「苦心の学友」以降は「大正から戦前にかけての学校教育」についての同時代資料として実に興味深い。
    佐々木邦自身は明治学院出身の英語教師でその経験が生かされている。
    というより、知らないことは使わない姿勢が今でも読むに足るものにさせているのだと思う。
    別の作品では、帝国大学卒業生の席次が官報に掲載されていたという話がさらっと出ている。
    戦後はそういう野蛮が廃止されていて助かった。

  6. 【6507415】 投稿者: 時代錯誤  (ID:6U8.U5Wt4n.) 投稿日時:2021年 10月 05日 09:30

    自伝は面白いものが多い。
    カサノヴァ伝は、かなり盛った話が多いのだが、一番興味深かったのは彼に惚れ込んだ女性のひとりが「あなたの手形には必ず裏書きする」と誓う場面だった。
    その時代に生きた人が自分で言っているというのは大事なことで、村山知義自伝もそういう要素が随所にある。
    開成中学時代、キリスト教に傾倒して平和主義に打ち込んでいた結果、学内の硬派集団から鉄拳制裁を受けたという話。
    文脈から言って、殴った側の首謀者は明らかに後の北海道知事町村金吾と特定できる。
    その頃からそういう奴だったんだなと思うと同時に、札幌農学校の教えは何だったんだろうなと(金吾の名前は辰野金吾からとられたと言われている)思うところがあった。
    また、第一次世界大戦後のヨーロッパ遊学時代にさる美少女と交際していた件。
    当時の日本は戦勝国で為替の急激な変動の結果一時的に金満状態になっていて向坂逸郎が文献を買いまくったのも齋藤茂吉が本に不自由しなかったのも全部これだと思うと感慨深い。

  7. 【6507425】 投稿者: 初めまして  (ID:dGJgYQDxXVE) 投稿日時:2021年 10月 05日 09:40

    自伝ということでしたら
    ガウク自伝
    お勧めします。

    旧東独からあえて西に行かず、牧師をしながら民主化に尽力したガウク氏が、後にドイツの大統領に選出されるまでのことが著されています。

  8. 【6512584】 投稿者: 時代錯誤  (ID:cqjyOz79bmc) 投稿日時:2021年 10月 10日 14:28

    小三治師匠の訃報があった。
    師匠は芸からすると当然小さんを襲名する立場の人だったが結局先代の実子にゆずることになった。
    名跡というものの位置付けが歪んでいった風潮のあらわれのひとつとして、残念だったと今でも思う。
    小三治師匠は噺のまくらの名手で、同じテイストの優れたエッセイもある。
    圓生師匠にはそのまま「噺のまくら」という本もあり、こちらは幼少時から寄席で育った人でなければ語れない貴重な同時代資料になっているが、小三治師匠は多芸多趣味をのぞかせる雑談が主で全く違った面白さがあった。
    今は動画が数多く残っているので、とりわけホール落語の名演はいくつか観ることができる。
    泥棒ものや「五人廻し」などは何とも言えない味があった。
    よろしければぜひ。

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