中学受験を「必ず笑って終わる」ためには?

inter-edu’s eye
前回の記事「中学受験をはじめる前にやっておくべき 3つのこと」では、中学受験への心構えや、受験に向けて準備しておきたいことをお伝えしました。気持ちが整理できたところで、「中学受験『必笑法』」の中から、中学受験を目指すご家庭にぜひ伝えたい!と思った点を詳しくうかがいました。

中学受験「必笑法」

今回取り上げた著書:中学受験「必笑法」(中公新書ラクレ)

中学受験に「必勝法」はないが「必笑法」ならある――。第一志望合格かどうかにかかわらず、終わったあとに家族が「やってよかった」と笑顔になれるならその受験は大成功。他人と比べない、がんばりすぎない、子どもを潰さない、親も成長できる中学受験のすすめ。気鋭の育児・教育ジャーナリストであり、心理カウンセラーでもある著者が、不安や焦りがスーッと消える「コロンブスの卵」的発想法を説く。「中学受験の新バイブル」誕生!

「“必笑法”的」塾との付き合い方

インターエデュ: 著書に「塾に頼っても塾に振り回されない」とありますが「振り回されない」とはどういうことなのでしょうか。

おおたとしまささん(以下、おおたさん): 2012年に四谷大塚の予習シリーズが大改訂され、カリキュラムの難易度が上がりました。サピックスを上回るような内容で、中学受験全体がレベルアップ・スピードアップしたんです。以前は地頭の良い子が多少余裕のあるカリキュラムで上位校から順当に合格していったという状況でしたが、今は平均レベルの子が難しいことをやらされていて、かなり無理をして合格する子もいるという状況になっています。

受験対策の教材としては、完成度の高いものができ上がっていて、どれだけ量をこなしたかというところで勝負が決まるような戦い方になっているのが現状です。大量にやった者が勝つというシンプルなルールであることは誰にでもチャンスがあるということ。それはそれで良いのかもしれませんが、それはあくまで塾の理屈です。本来ならその子にとってちょうどよい学びを見極め、ちょうどよいレベルのものを、ちょうどよい量を与えていくというのが、その子の学力を高めることだと思うんですよね。スポーツに強くなるためには、身体づくりのための食事が大切ですが、量を食べればよいというものではなく、吐くほど与えることはないですよね。その子その子の許容量というのがありますから。学習量についても同じことです。

大量にやった者が勝つ、それが原理原則である塾の形態は変えられないし、塾はそういうものなので世の中的にはそう動いていても、「うちの子はいいんです。子どもにとっての適切な勉強の仕方を見つけていきますから、どうぞお構いなく。」と、心の中でそんな勇気とスタンスを、親には持ってほしいと思います。それが「塾に振り回されない」ということです。

負け戦をしない「併願戦略」の考え方

インターエデュ: 著書には併願戦略についてとても詳しく書かれていますが、実際そこまで考えるご家庭は少ないのではと思いました。

おおたさん: 少ないでしょうね。塾もそこまでは突き詰めないでしょうから。でも、合格の可能性をしっかり見極めることは「必笑法」的には大事な視点です。拙著の「偏差値を利用した併願戦略ステップ②『どこかには合格できる確率を計算する』」では、模試の結果や偏差値表から分かる合格の可能性、パーセンテージをもとに合格の確率を計算する方法を紹介しています。

  第一志望 第二志望
受験校 A中学 B中学 C中学 D中学 E中学 F中学
合格の可能性 20% 30% 50% 50% 80% 80%
不合格になる可能性 80% 70% 50% 50% 20% 20%

【合格の確率】

①A・B・C校受験の場合… 0.8×0.7×0.5=0.28(28%の不合格率)
⇒72%の合格率

②A・B・C・D・E・F校受験の場合… 0.8×0.7×0.5×0.5×0.2×0.2=0.0056(1%以下の不合格率)
⇒99%の合格率

(「中学受験『必勝法』」126頁より引用)

「なんとなく勝算8割ぐらいだなと思っていたけど、計算してみたら実は6割しかなかった…。」そんな風に気づけるので、この方法での検算をおすすめします。

強気の学校を複数受けたいから滑り止め校で押さえておく、全滅でなければいいという考え方の併願計画を見受けますが、この場合、滑り止め校との落差がありすぎると、滑り止め校に決まったときのショックは大きくなります。併願校をなだらかな階段上にしておけば落差を感じません。どの学校に受かってもいいと思えるイメージづくりをしておくことも大切です。併願戦略をこのように考えることで負け戦をしないですみます。

一つの学校で数回入試を受けられる「複数回受験」ですが、どうしても行きたい学校がある場合、複数回受ければ同点のときに優位になるという情報もあるので、チャレンジしたい気持ちは分かります。でも深追いはせず、ときには勇気ある撤退も大事です。例えば2月1日の第一志望校が合格率50%で、同じ学校が2月3日は20%だとします。その判断をするときに、50%偏差値を見てみると意外な発見があるかもしれません。80%偏差値では高嶺の花に見えていた別の志望校が、50%偏差値表の2月3日を見ると届いていたということもあるからです。合格の確率は2月1日の第一志望校が50%、2月3日の別の志望校が50%となり、合格する確率が上がるのです。

「必笑法」とは、“何が何でも中学受験を成功体験として終わらせること”

「必笑法」とは?

インターエデュ: 最後に、著書のタイトル「必笑」に込めた思いを教えてください。

おおたさん: 中学受験というのは人生を豊かにするための選択で、しなくてもいい選択です。その選択によって人生が開けていくものだから、そもそも苦しむためにするものではないんです。ですが、実際笑えないケースというのが多いように感じます。それは中学受験という機会が悪いのではなく向き合い方が悪いのです。第一志望に受かる方法はないけれど、やってよかったと思って終われる方法は必ずあります。これが「必笑法」です。

合否という結果だけに囚われているとしたら、第一志望に合格したときにしか笑えませんよね。その確率はとても低いです。そうではなくて、努力した結果に対して他人がどう言おうと、自分自身が誇りを持てる状態であれば「必ず笑って終われるはず」。そういう状態をどういう風に作っていったらよいかを説明した本なんです。

努力した結果に対して笑っていられるというのは、プロセスを大事にして、プロセスに誇りを持っているということ。そのためには子どもが精いっぱいやり切ることが大事です。子どもがそう思えるように、親が環境設定でどんなことをしてあげられるのかを考えることが大切。そうして親として精いっぱい取り組むことで、親も結果に誇りを持つことができるんです。

合否に関わらず中学受験を子どもの成功体験とすることができるかどうかは、親の接し方しだい。「何が何でも中学受験を成功体験として終わらせる方法」、それは親の工夫しだいなのです。そこに中学受験での親の役割を求めてほしいと思います。

前回の記事、「中学受験をはじめる前にやっておくべき3つのこと」はこちら

おおたとしまささん

おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・麻布高等学校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。

おおたとしまささん著書:「受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実」(新潮新書)

受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実

激変を続ける受験の世界。国公私立に海外進学、幾多の塾・予備校…親子の目の前に広がる選択肢は多様化の一方だ。いま勢いのある学校や塾は? 東大生の3人に1人が小学生でやっていたこととは? 受験に勝つ子の「3条件」とは? 東大医学部合格者の6割超が通った秘密結社のような塾がある…? 子どもの受験・進学を考えるようになったら真っ先に読むべき入門書、誰も教えてくれない“新常識”が明かされる。