中学受験をしない選択、公立中学校への進学で親が知っておきたいこと

首都圏に住むご家庭にとって、中学受験は進路選択の一つとなっています。特に東京都では中学受験率が年々上昇し、4人に1人が国立・私立に進学している状況。親が子どもに行かせたいと思う学校を選択できるというメリットがある一方で、「中学受験をしない」という選択においても迷いが生じます。そこで、中学受験に長年携わり、6,000以上のご家庭をサポートされてきた教育専門家の小川大介さんにうかがいました。
(2020年2月12日掲載記事に加筆)

「中学受験をする・しない」の選択は、親の覚悟の決め方が異なる

小川先生1

エデュ:中学受験をする、しないの選択で、まず親御さんが知っておくべきことはなんでしょうか?

小川先生:中学受験を選択するのと、公立中学進学を選択するというのでは、親としての覚悟の決め方において種類が違うということです。

中学受験では、子どもにとってどんな意味があるのかというのを親が見定めて、何をいかにこなすかというプロジェクトをがんばってやっていく、大変だけどやることがはっきりしている世界です。がんばったらがんばっただけの成果が出しやすい、努力量に対して、何かしら答えをもらえる世界が中学受験です。私立中学はそれぞれに校風があり、学校生活についても方針が明示されていますから、入学してからも「こんなはずじゃなかった」ということが少ないですね。行動の負担は大きいけれど、安心感、安定感を得られるのが中学受験だといえます。

一方、公立中学進学は不確定要素が多い選択となります。子どもは中学生になると自我が育ち、自立していくので、親のコントロールを離れていきます。そして公立の学校は仕組み上、いわゆる勉強というものに対して思いっきりエネルギー割くわけではなく、標準的なこと、基本的なことを進めていって、文化祭や体育祭や部活など、人との関わりやさまざまなことに触れる中で自立した人間を育てようという場所です。つまり、私立のように学校があれこれと環境を整えておいてくれるというのではなく、公立は本人次第の世界になります。

「公立でたくましくなる」はすべての子どもに当てはまらない

エデュ:公立中学の不確定要素とは具体的にどんなことでしょうか?

小川先生:一つは内申です。内申は先生の主観が反映される仕組みとなっています。なので、納得のいかないことがたくさん出てきます。子どもなりに、親なりに頑張ったことが評価として返ってくるわけではないという不確定性があります。よって公立に行くということは、何かがんばったから状況を変えられるということに対して、どこか諦めを交えた“覚悟”だと私は思っています。理不尽がたくさんある。だからこそ、社会に出た時に人間関係においてもいろいろな社会の理不尽がたくさんありますから、そうした中で生きていくたくましさが生まれるといわれます。それが公立の良さとしての事実だと思うんですね。

でも勘違いしてはいけないのは、公立に行ったらみんなたくましくなるかといったらそれは違っていて、生き残った人がたくましいだけなんです。特にお父さん方の傾向として、あれこれお膳立てしてやらなくても放り込んだら何とかなるさと、ということを言いがちですが、お母さんが繊細に子育てをがんばってきたご家庭の場合、まず公立の学校の理不尽さや不透明さ、自分が関われないというストレスが耐えられないこともあります。

また、公立は絶対評価で子どもを画一的に見る傾向にあり、いわゆる「公立的良き子ども像」の枠に入らないような、たとえば、自己アピールが苦手なお子さんや、何か黙々と自分の好きなことに集中したいお子さんはなかなか汲み取ってもらえない。評価されない。汲み取ってもらえない子が理不尽に対して強くなるかというとそれはちょっと難しい。なので、公立中学に向いている子かどうか、自分は向いている親なのかどうかという事前判断はとても大切なことだと私は考えていますが。しかも公立は先生が任期制で定期的に入れ替わるので、今学校の雰囲気はいいらしい、勉強熱心なんだって聞いていても、それをリードする先生が異動した瞬間に変わるんです。その点も不確実です。