麻布OBたちが赤裸々に語る名門・麻布の実態(2ページ目)

今、大人に親にできることは?

12名の卒業生(著者のおおたさんと仮名の人含む)と2名の現役生の合計14名の麻布でのエピソードは、詰まるところ、平気でバカなことをしてしまう思春期の少年の姿です。個々の体験は何も麻布だからということではないでしょう。ただ他の学校と違うのは、校則で行動を縛ったり、上から指図されたりということがほとんどない環境が、どのように少年の心や行動に影響を与えたかということ。それについては、ぜひご自身で読んで考えてみていただきたいと思います。

インタビューの中に、「卒業して初めて、自分は麻布で守られていたんだということがわかった」という言葉がよく出てきました。この「守られていた」は、危ないからやめさせるというのとは真逆の守られ方です。また、「いい学校に行ったほうが選択肢が広まる」とよく言いますが、逆に、「いい学校にいくことで、自ら選択肢を狭めることもある」という見方も語られていました。

新型コロナウイルスの流行も手伝って、世の中は、いよいよ正解のない時代、自分自身で自分の答えを作っていくしかない時代に突入しています。そういう時代に、大人は親は、子どもに何ができるのか? 正直、できることはあまりなさそうな気がします。麻布の創立者・江原素六の好んだ言葉に、「青年即未来(せいねん すなわち みらい)」があるそうです。込められた意味は、「君たちが、自分で考えて、自分の手で未来をつくるんだ」ということです。

本書を読んだ後、もしかしたら今の親の多くは、子どもに余計なことをしすぎているのかもしれないと思いました。中学受験は確かに一大事ですが、それでも中高をどの学校で過ごしたかが本人の人生にどの程度の影響を与えるのかはわからないし、それこそ一人ひとり違うはずです。

そしてもうひとつ、心に刻んだのが、今のビジネス界で「プレゼンの神」として引っ張りだこのエバンジェリスト・伊藤羊一さん(第6章)のキャッチフレーズ「FREE FLAT FUN」。最近になって「な~んだ、(これは)回り回って麻布そのものじゃん」と気づいたそうなのですが、「FREE」とは、あらゆる常識や当たり前から解放されようということ。「FLAT」とは、人にはそれぞれのモノサシがあって、それらは優劣の付けられるものではないということ。「FUN」は、「何が楽しいの?」言い換えれば「あなたは何なの?」ということ。正解のない時代のキーワードのような気がしました。

本書は、いくら噛んでもまだ味が残っているチューインガムのような本です。関心を持たれた方は、ぜひ味わい尽くしていただきたいと思います。その価値は100%保証します。

麻布という不治の病 ―めんどくさい超進学校―

おおたとしまさ著 小学館新書 880円+税
書影_麻布という不治の病 ―めんどくさい超進学校―

底抜けに自由なのに東大にバンバン入る内幕。東京都港区にある麻布中学校・高等学校は「自由な学校」の代名詞として知られている。制服もなければ校則もない。不文律として「授業中の出前禁止。校内での鉄下駄禁止。麻雀禁止」の3項目があるだけ。それなのに、戦後中高一貫体制の一期生から60年以上、東大合格者数ランキングトップ10から一度も外れたことがない唯一の学校でもある(なのに一度も1位にはなっていない)。各界で異彩を放つ9人の卒業生のインタビューから、「麻布病」の実態をあぶり出し、「いい学校とは何か」「いい教育とは何か」「子どもに大人は何ができるのか」といった普遍的な問いに迫る。
あまりに個性的な卒業生たちが、いまだから話せる在学中のエピソードを明かすとともに、卒業して時間が経ってから気づいた「麻布で得たもの」を語っていきます。「自由な進学校」というイメージが一面的なものでしかないことも、読み進めるにつれて少しずつわかっていきます。

おおたとしまさ さん
1973年、東京都生まれ。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育媒体の企画・編集に関わる。教育現場への丹念な取材に基づく執筆に定評があり、メディア出演も多数。中学・高校の英語の教員免許をもち、私立小学校教員や心理カウンセラーの経験もある。『名門校とは何か?』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』など著書は60冊以上。