サピックスに通い、最難関を目標にしていた娘が、突然受験をやめると…

塾・学校の実態に精通する教育ジャーナリスト・おおたとしまささんが、「中学受験を家族にとってのいい経験にする」というコンセプトで、中学受験のさまざまな相談にアドバイスしてくれます!
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育児・教育ジャーナリストおおたとしまさの中学受験 心すっきり相談室 vol.5

Q.サピックスに通い、最難関を目標にしていた娘が、突然受験をやめると…

1年のときから1,2番の成績をとり続けてきたので、いい学校に行かせてやりたいと、4年からサピックスに通わせ、これまでは本人も私も満足する成績をとってきました。塾の先生からも最難関の私立や国公立に挑戦できると言われています。

ところが6年になって、本人が突然受験はいやだ、公立に行くと言い出しました。塾も行きたくない、勉強もしたくないと言います。親としては突然のことでどうしたらいいかわかりません。今のところ通塾はしていますし、家での勉強時間もあまり変わっているようではありません。ただ先日もらってきたテストの点は、これまでにない悪い点でした。「どうしたの?」と聞くと、「だから、もう受験したくない」と言うのです。

小さい頃から手のかからない子で、勉強もていねいに見てやったことはありません。親があれこれ言わなくても、なんでも進んでやってくれる子でした。4つ違いの弟がいて、ちょっとした障害があることもあって、「お姉ちゃんはおりこうさんだし、なんでも自分でできるから」という感じでした。

何の問題もおこさず、成績も親が期待する以上をとってくれてきた娘なので、今さら、こうしなさい、ああしなさいというのも申し訳ないような気がします。でも、どうして突然受験がいやになったのか、勉強がいやになったのか、何もわからないままでは、親として失格では?と思います。

同じような年の子どもを持っている親しい友達に相談したら、「思春期だからいろいろあるのよ。これまで弟にかまけて話をしてこなかったつけなんだから、これを機会によく話し合うように」と言われました。私も話し合うべきだと思いますが、とりつくしまがないというか、すきがないというか、娘のほうが上手をいっていて、いつも逃げられてしまいます。

悪い友達ができて、家に帰ってくるのが遅くなったとかの生活態度に変化があるわけではありませんし、塾に通っているので、100%受験をやめるつもりでもないような気もします。ただ、自分の部屋にいるとき勉強をしているのか違うことをしているのかは、わかっていません。一度入っていこうとしたら拒絶されてしまいました。

おおたさん、こういうとき、親はどうしたらいいのでしょうか? 娘のしたいようにしておくのがいいのか、何かアプローチをしたらいいのか、もちろんこれまで一生懸命勉強してきたのだから、中学受験はしてほしいと思っています。どうぞアドバイスをお願いいたします。(mini)

回答はこちら

A.

受験してほしいという思いは脇に置き真剣に純粋に、否定も肯定もせず、娘さんの気持ちを聞いてみてください

これは、中学受験の専門家というよりは、心理カウンセラーとしてお応えしたほうがよさそうですね。

今、中学受験の大事な時期だからこそ、「中学受験をしない!」という意思表示をしているのであって、たとえばピアノをやっているのだとしたら「もうピアノはやらない!」と言っていたかもしれません。

娘さんはいつも「いい子」でいなければいけないと、本人も気付かないうちに無理をしていたのかもしれませんね。優しい娘さんなのでしょう。同時に、「今さら、こうしなさい、ああしなさいというのも申し訳ない」とおっしゃるお母さんも、本当に優しいお母さまなのでしょうね。

でも、娘さんは、思春期にさしかかっていることもあって、「いい子」の殻を破ろうとしているのかもしれません。お母さんからしてみれば、戸惑うことかもしれませんが、それ自体は健全な成長の証しです。

いずれにしても、そのような言動をとることによって、何らかのメッセージを発していると考えられます。このようなときに親としてどうやってコミュニケーションをとればいいのでしょうか。

ひと言で言えば、娘さんの気持ちをしっかり受けとめてあげることです。「中学受験はしてほしい」という思いが、お母さんにはおありのようですが、一度その気持ちを脇に置いて、ありのままの娘さんだけを見てあげてください。

「受験はしたくなくなっちゃんたんだ。そうなんだ」という感じで、そのことを否定も肯定もせず、娘さんの思いをそのまま受容してあげてください。そして、純粋に娘さんの気持ちを知って共感してあげたいという思いをもって、「あなたの気持ちを絶対に否定したり、お母さんの思い通りにさせようだなんて思わないから、なぜ受験をやめたいと思うようになったか、教えてくれないかしら?」などと聞いてみてください。

とりつく島もないのだとしたら、娘さんの心の中に「どうせ私の話は聞いてくれないんでしょ」という思いがあるからかもしれません。お母さんが、真剣に純粋に自分の気持ちに耳を傾けようとしていることがわかれば、娘さんだって少しずつ心を開いてくれるのではないかと思います。

少しずつでも娘さんが自分の気持ちを語り出してくれたら、それを否定も肯定もせず、「○○○だったんだね」「○○○という気持ちなのね」などとそのままオウム返しをするように聞いてあげてください。

アドバイスや評価は不要です。ただ「それはつらかったね」とか「よくがんばったんだね」などと、ただ共感してください。最後は「話してくれてありがとう。うれしいわ」と言っておしまいにしましょう。

今、どんな気持ちが娘さんの中にあるのかは私にはわかりません。「なんだ、そんなことだったのか」というちょっとしたことかもしれませんし、お母さんが話を聞いたところで解決をしてあげられない問題を抱えているのかもしれません。いずれにしても、誰にも話せなかった心の中の異物を吐き出すことができれば、きっと娘さんの視野は広がり、自分の意志で正しい選択をしてくれると思います。

自分の気持ちを脇に置いて、ただひたすら純粋に子どもの気持ちに寄り添うことを心がけてみてください。

弟さんのこともあり、お母さんは大変だと思います。でも、お母さんはこうやって、見ず知らずの私に相談をしてでもこの状況を何とかしようとする勇気と行動力をおもちです。それがあれば、きっとできます。

もしよろしければ、拙著『もし中学受験で心が折れそうになったら』をお読みください。受験ノウハウではなく、中学受験をテーマにした小説仕立ての本です。いろいろな葛藤を抱えた親子が出てくる物語です。少しは参考になるかもしれません。

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