私立高校の授業料実質無償化で受験は変わる?【2019年度版】

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東京都での「私立高校の授業料実質無償化」開始から約2年が経ちました。これは、東京都に住む、年収約760万円以下の世帯で暮らす私立高校等に通う生徒に対し、都が授業料の一部を助成することで授業料を実質無償にし、家庭の経済的負担を軽減するというものでした。では、はたして受験への影響はあったのでしょうか? そこで今回は、高校の授業料に対する1都3県の助成制度の違いと、利用時の注意点を再確認。合わせて2019年の受験を振り返りつつ、家計と受験や進学にかかるお金とのバランスについて考えていきたいと思います。

1都3県でも、私立高校授業料の実質無償化制度には大きな差が!?

1都3県、私立高校授業料の実質無償化には大きな差が!?

初めに、「私立高校の授業料実質無償化」とは何かをおさらいしておきましょう。

まず、私立高校等に通う生徒に対しては、全国共通の「高等学校等就学支援金制度」があります。この制度は、年収約910万円未満の世帯が対象です。支援金の額は、年収(厳密には、世帯の市町村民税所得割額と道府県民税所得割額の合算額)に応じて異なります。この国の支援制度と各自治体で実施している助成を合わせたとき、授業料が実質無償になることを「私立高校の授業料実質無償化」と言います。

つまり、国の支援制度を拡充する形で、各自治体が私立高校の授業料の実質無償化を実現しているのが、「私立高校の授業料実質無償化」なのです。ここで注意しておかなければならない点は、自治体によって助成の額と対象世帯が異なるということです。

※授業料実質無償化のイメージ

授業料実質無償化のイメージ

そこで、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県で助成の内容を比較してみました。

東京都

助成の対象は、東京都内在住で、私立の「高等学校(全日制課程・定時制課程)」「特別支援学校(高等部)」「高等専門学校(1~3年)」「専修学校(高等課程)」等に通う生徒です。都内から近隣の県の私立高等学校等へ通う場合も対象となります。

私立高校の平均授業料が値上がりしたことを受け、2018年度は国の就学支援金と都の助成を合わせて年額449,000円だったのが、2019年度から456,000円、月額換算で1,000円のアップとなりました。

東京都内在住で私立高校等に通う場合

世帯の目安年収 国の就学支援金 都の助成 年間合計 月額換算
生活保護 297,000 159,000 456,000 38,000
約250万円以下 297,000 159,000 456,000 38,000
約250~350万円以下 237,600 218,400 456,000 38,000
約350~590万円以下 178,200 277,800 456,000 38,000
約590~760万円以下 118,800 337,200 456,000 38,000
約760~910万円以下 118,800 0 118,800 9,900

参照元:授業料負担軽減パンフレット
授業料以外の奨学給付金や育英資金についても、こちらに詳しく記載されています。

神奈川県

助成の対象は、東京都とは異なり、神奈川県内在住で県内の高等学校、中等教育学校(後期課程)及び専修学校高等課程が対象に通う生徒のみです。たとえば、神奈川県在住で東京都の私立に通う場合は、国の支援金は受け取ることができても、県の助成は受けられないので注意が必要です。額で言うと、世帯年収約590万円以上750万円未満であれば、74,400円の県の助成は受けられないということになります。

神奈川県も東京都と同様に、私立高校の平均授業料が値上がりしたことを受け、2018年度は国の就学支援金と県の助成とを合わせて年額432,000円だったのが、2019年度から444,000円、月額換算で1,000円のアップとなりました。

神奈川県内在住、神奈川県内の私立高校等に通う場合

世帯の目安年収 国の就学支援金 県の助成 年間合計 月額換算
生活保護 297,000 147,000 444,000 37,000
約250万円未満 297,000 147,000 444,000 37,000
約350万円未満 237,600 206,400 444,000 37,000
約590万円未満 178,200 265,800 444,000 37,000
約750万円未満 118,800 74,400 193,200 16,100
約910万円未満 118,800 0 118,800 9,900

参照元:私立高等学校等生徒学費補助金について

また、神奈川県内在住で神奈川県内の私立高校等に通う生徒がいる、年収合計約750万円以下の世帯には、入学補助金として一律10万円が支給されます。詳しくはWebサイトをご確認ください。

千葉県

助成の対象は、千葉県内在住でなくても、千葉県内の私立高等学校(通信制課程の県外在住生徒は除く)、私立中等教育学校(後期課程)、県内私立専修学校高等課程(高等学校卒業者及び准看護師の養成を目的とする私立専修学校高等課程の生徒は除く)へ通う生徒になります。千葉県在住で東京都の学校に通う場合は、神奈川県と同様に、国の支援は受けられても県の助成は受けられません。

2018年度から現時点において、変更点はありません。

東京都・神奈川県・埼玉県では、世帯年収に応じた対象者全員、一律に同金額が助成されるのに対し、千葉県は、世帯年収に応じて、通っている学校の授業料をもとに助成の額が決まります。世帯年収350万円未満の家庭には、国の助成との差額で授業料が無償になるように助成され、入学金補助もつきます。世帯年収350万円以上640万円未満の家庭は、授業料の3分の2の額が助成されます。この世帯年収においては、たとえば生徒が通っている学校の授業料が月額3万円だとすると、2万円の国と県の助成が受けられ、1万円は家庭負担となります。

参照元:平成26年度以降入学生 千葉県内私立高等学校等対象 授業料減免制度のお知らせ
神奈川県同様、年収合計約350万円以下の世帯には、入学金軽減制度も用意されています。詳しくはWebサイトをご確認ください。

埼玉県

助成の対象は、埼玉県内在住で県内の私立高等学校・特別支援学校(高等部)・高等専修学校(3年制)に通う方です。神奈川県同様に、県外の学校に通う場合は、国の支援は受けられても県の助成は受けられません。

2018年度から現時点において、変更点はありません。

埼玉県内在住、埼玉県内の私立高校等に通う場合

世帯の目安年収 国の就学支援金 県の助成 年間合計 月額換算
生活保護 297,000 81,000 378,000 31,500
約250万円未満 297,000 81,000 378,000 31,500
約350万円未満 237,600 140,400 378,000 31,500
約590万円未満 178,200 199,800 378,000 31,500
約609万円未満 118,800 259,200 378,000 31,500
約720万円未満 118,800 0 118,800 9,900
約910万円未満 118,800 0 118,800 9,900

参照元:私立学校の父母負担軽減事業について
2018年度から、県内私立高等学校(通信制、特別支援学校高等部及び専修学校高等課程を含む)に通う生徒を含め、私立高校生や大学生等を3人以上抱える多子世帯について、年収約720万円未満世帯まで授業料実質無償化の対象としています。また、埼玉県内在住で埼玉県内の私立高校等に通う生徒がいる、年収合計約609万円以下の世帯には、入学補助金として一律10万円が支給されます。詳しくはWebサイトをご確認ください。

各自治体での助成制度の違いがわかったところで整理しておきたいのは、現在在住の都・県以外の私立高校等へ通う場合の助成についてです。そこで、助成が受けられるケースを〇、助成が受けられないケースを×として表にまとめました。

  学校所在地
居住地   東京都 神奈川県 千葉県 埼玉県
東京都
神奈川県 × ×
千葉県 × × ×
埼玉県 × ×

東京都に在住の場合は、近隣の県の私立学校等に進学しても都の助成は受けられ、千葉県の私立学校等に進学する場合は、県外に住んでいても千葉県の助成が受けられます。都・県をまたいでの進学を考えているご家庭には重要な確認ポイントですね。(※詳しくは各自治体、進学先の学校へご確認をお願いします。)

申請手続きをしないと助成が受けられない!意外な落とし穴にご注意

国の支援、各自治体の助成を受けるためには、申請の手続きをする必要があります。国の就学支援と各自治体の助成を受ける手続きは、自治体や通っている学校によって異なるので、学校から配布される資料をしっかりと確認しておきましょう。また、申請は自動更新ではありません。入学時の1回のみではなく、毎年申請の手続きをしなければ助成が受けられないので、こちらも注意が必要です。

国の助成

【手続きの流れ】在学校に申請をします。支給方法は、授業料支払い後の還付が主ですが、学校によって異なりますので確認しておきましょう。
【申請時期】1年生は4月と6月頃、2・3年生は6月頃に、在学校を通して申請の手続きを行います。

東京都の助成

【手続きの流れ】東京都私学財団に直接申請をします。助成金は、東京都私学財団から申請者の口座に直接振り込まれます。
【申請時期】6月頃に在学校や財団のwebサイトを通して手続きの案内があります。申請時期は6~7月頃です。

神奈川県の助成

【手続きの流れ】在学校に申請をします。各学校で授業料の支給方法・時期が異なるので、在学校への確認となります。
【申請時期】5~6月頃に在学校から、手続きの案内があります。受付締切日までに在学校へ必要な書類を提出します。

千葉県の助成

【手続きの流れ】各学校で異なりますので、在学校への確認となります。
【申請時期】各学校で異なりますので、在学校への確認となります。

埼玉県の助成

【手続きの流れ】申請は在学している学校を通して行います。学校から申請書などの案内が配布されますので、期限までに必要な書類を学校に提出します。
【申請時期】課税証明書が発行される6~7月頃に申請します。

国の支援、各自治体の助成における支給の方法は学校ごとに異なりますが、おおむね相殺される方法(助成の金額と授業料とが相殺され、差額分の授業料が請求される)と、還付する方法(先に授業料を納め、のちに助成金額が振り込まれる)の2通りのようです。
制度を利用する場合でも、申請の時期との兼ね合いから、入学金や授業料は一旦先に納める形になります。特に初年度の1年生は、家計のやりくりを考えておきましょう。申請手続きや支給の方法に関することは、学校から配布される書類や案内をしっかり確認しておくことが大切です。

支援を受けられたとしても、家計のシミュレーションを!

「私立高校の授業料無償化」を理解したところで、受験への影響があったのかどうか、2019年の高校受験と中学受験を振り返ってみましょう。

高校受験においては、東京都が2019年の1月に発表した「平成31年度都内私立高等学校入学応募者状況【一般入試・中間】」によると、2018年の応募人員が50,538人(中間倍率2.39倍)に対し、2019年の応募人員は60,835人(中間倍率2.85倍)と増加しました。
1都3県における中学受験では、6年生人口の増加の影響が大きいとは思いますが、2月1日の受験者数だけを見ても、2018年は37,939人に対し、2019年度は39,683人と増えています。

受験の動向はさまざまな社会的な影響を受けるものですが、「私立高校の授業料無償化」の影響が一部にあったということは確かに言えそうです。

実際の声として、インターエデュが独自に行ったアンケート「東京都の私立高校実質無償化は、私立中高一貫校を選択する理由の一つとなりますか?」では、

・なる  49.5%
・ならない  31.2%
・どちらとも言えない  19.4%

(※2017年1月に実施したものです。)

となりました。

この結果を見ても、中学受験にも私立高校の授業料実質無償化が影響を及ぼしていることがわかります。

専門家はどう捉えているのでしょうか? 森上教育研究所の森上展安先生にうかがいました。

森上先生: 私立高校に入学する生徒は、この制度によって当然増加すると思われますが、大阪府が先行実施したような完全に無料となったわけではないので、中学受験への影響はドラスティックにはならないでしょう。高校受験においては、中位成績層の都立高校と併願される私立高校に受験者数増などの好影響が出るのではないかと予想しています。都立と私立の費用差が少なくなることによって、金額面ではなく、質の面で学校選択をするご家庭が増えるのではないでしょうか。

公立中高一貫校志望で私立校を併願するご家庭においては、受検準備に費用をかけられることを鑑みれば、この程度の支出なら…と考えるご家庭は多いと思われます。都立一貫校の受検生約9,000人弱のうち、不合格者は7,000人程度います。このうち私立併願者は学校によって異なりますが、少なくとも3割程度は併願していると思われます。この併願層が私立中学の進学を選択する可能性が広がることで、併願自体が増加し、ひいては私立中学進学者も増加すると見ています。
ただし、私立中学の一般受験のほうには、今回は私立中学生の保護者負担の軽減措置ではないので、影響は少ないと考えています。影響はあくまで都立適性型の私立併願者に限られるのではないでしょうか。

(※コメントは2017年1月時点のものです。)

学校間でかなりの差がある私立中高一貫校の学費ですが、平均的には6年間で約600万と言われています。東京都の年収760万円以下の世帯が国と都の助成を受けられたとしても、高校での3年間の助成金額合計は、456,000円×3年間=1,368,000円です。確かに、残りの約460万円をやりくりできるかは、各ご家庭のふところ事情によるところが大きいでしょう。

お子さまの選択肢が広がるという意味においてはとても有効な制度ですが、その可能性だけを見るのではなく、しっかりと家計のシミュレーションをした上で検討することが大切です。ぜひ制度をしっかり理解した上で、先々の家計の状態も踏まえながら、よりよい選択ができるように考えてみましょう。