「明治のナイチンゲール」が教えてくれる頑張るヒントとは?

今回は、史実をもとにした伝記小説の新刊をご紹介します。書名は『ナイチンゲールの風が吹く―大関和と近代看護の物語―』。明治時代、看護師を目指して奮闘した女性の波瀾万丈の人生のお話です。逆境の中で自分の生き方を貫き偉業を達成した女性の姿は、中学受験を目指す子どもたちと支える親御さんに、頑張る元気とヒントを与えてくれると思います。

日本にもナイチンゲールがいた!

書影:ナイチンゲールの風が吹く―大関和と近代看護の物語―

「近代看護の母」と呼ばれ、看護師という専門職を確立したナイチンゲール(イギリス人)のことは、みなさんご存じでしょう。では、「日本のナイチンゲール」と呼ばれた女性のことは? 「もしかして、それってNHKの朝ドラの?」と思われた方、そのとおりです。現在放映されているNHK朝のテレビ小説『風、薫る』の「一ノ瀬りん」のモチーフとなった看護師のことです。

朝ドラ『風、薫る』の原案は、田中ひかる著『明治のナイチンゲール 大関和物語』(「和」は“ちか”と読みます)。それを著者自ら、若い人たちのためにより読みやすく書きおろしたのが、今回ご紹介する『ナイチンゲールの風が吹く―大関和と近代看護の物語―』です。約160ページの単行本で、小学校高学年がすいすいと読める簡潔な文章になっています。大人ならあっという間に読むことができるでしょう。さまざまな刺激を与えてくれる著書なので、ぜひ親子で読んで、感想を語り合っていただきたいものです。

さげすまれていた仕事を、誇り高い仕事に

この本をおすすめする第一の理由は、子どもたちに、今は当然のように存在している職業が、実は先人の奮闘努力によって成り立ってきたことを知ってもらいたいから。今があるのは昔の人の努力の上だということを実感してもらいたい、努力とはどんなものかを知ってもらいたい、そんなふう思いました。

看護師のイメージ

今、看護師は医療の世界でなくてはならない専門職ですが、150年前の明治初期には、知識も技術もないしかいませんでした。彼女たちは病に感染して亡くなることもあったため、お金のために命まで差し出すいやしい職業としてさげすまれていました。そんな時代に、病気の科学的な知識をベースにした看護を教える学校として桜井看護学校が設立され、主人公の大関和たちが第一期生として入学したのです。

そこでの学習は、英語で書かれたナイチンゲールの本『Notes on Nursing 』を一字一字翻訳しながら学ぶことから、病院での看護の実習まで。病院の医師も患者も、しか知りませんから、彼女たちにとって理解ある職場ではありませんでした。さまざまな困難を越えての第一期の修了者は女子6名。その後、彼女たちは(今は看護師)という職業を確立していくことに人生を捧げました。

さげすまれていた職業を誇りの持てる専門職にするためには、ただ知識を身につけるだけでは足りません。それまでは助からなかった病人が回復するといった医療現場での成功はもちろん、広く世間に認められるための組織作りなど、本書には、大関和たち日本の看護師第一号たちの奮闘が描かれています。

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中学受験女子御三家の前身

そしてもうひとつ、日本で最も早い時期に優秀な看護師を生み出した桜井看護学校が、女子御三家のひとつ、女子学院の前身だということも、中学受験を目指す、とくに女子にはぜひ知ってもらいたいことです。女子学院の同窓生はご存じのことなのかもしれませんが、なるほど女子学院の進取の気風には、こんな伝統があったんですね。

明治期、女性の地位はとても低いものでした。そんな中、大関和が桜井看護学校に入学したのは、子どもを連れて離婚した後のことです。彼女の同僚たちも、江戸から明治への時代の激変に翻弄され、さまざまな困難にみまわれています。当時の女性にとって順風満帆などということはあり得なかったのです。それでも自分を信じ、理解者を得て、決してあきらめずに目標を目指していくことの大切さを、この本は教えてくれました。

自分の関心を追求していく意欲と努力

最後に、本書のあとがきを読んで、ああ、この著者もそうだったんだと思ったことをお伝えします。あとがきの冒頭を引用させてもらいます。

私が明治時代の看護師(看護婦)について書こうと思ったきっかけは、二〇一九(令和元)年に始まった新型コロナウイルスの流行です。そのころ、ニュースでは毎日のように、感染の危険にさらされながら一生懸命に働く看護師さんたちの姿が映し出されていました。

仕事とはいえ、どうしてこんなにがんばれるのだろう? そもそも看護師という職業はどのようにしてできたのだろう? そんな疑問から看護師についての古い史料を調べ始め、出会ったのが、桜井看護学校の第一期生たちの集合写真でした。 「トイレインド・ナース」と呼ばれた日本で最初の看護師たちのキリッとした表情を見て、彼女たちには、きっと大きなドラマがあるに違いないと思いました。(後略)

ニュースに映る今の看護師さんに触発されて史料を調べ始め、明治期の看護師のキリッとした姿に心を動かされて執筆を決意…、著者の田中ひかるさんもまた自分を信じ、自分の関心を追求していく女性です。まさにアクティブラーニング! 本書を読んで、今の女の子たちに(もちろん男の子にも)、そんな進取の精神を感じてもらいたく、本書をおすすめいたします。それに、夏休みの自由研究のヒントにもなりますしね!

ナイチンゲールの風が吹く―大関和と近代看護の物語―

著/田中ひかる、小学館刊、定価1,540円(税込)
書影:ナイチンゲールの風が吹く―大関和と近代看護の物語―

日本最初の“看護婦”さんたちの奮闘記。日本が大きく変わった激動の明治時代。桜井看護学校(現・女子学院)でナイチンゲールの書を翻訳しながら正しい看護の知識を学び、第一医院(現・東京大学医学部附属病院)での実習で技術を身につけた、大関和(ちか)、鈴木雅、広瀬梅などの女性たち。当時は“看病婦”に対する偏見がありましたが、正しい知識と技術で弱っている人たちを救う“看護婦”は尊い仕事だと身をもって示し、日本に新しい看護の道を切りひらきました。

全国的に感染病の赤痢が蔓延した時には、大関和は集団感染が発生している村へ医師と共に出向きました。和は、それまでの間違った対処法をやめさせ、患者や家族の心によりそった対応と的確な防疫に取り組み、看護の力で死亡率を激減させます。確かな知識と経験にもとづいた献身的な看護によって大勢の患者の命が救われたことは「奇跡」とまで言われました。

<編集者からのおすすめ情報>

NHKの朝ドラ『風、薫る』の原案となった『明治のナイチンゲール 大関和物語』の著者・田中ひかる氏による、書きおろしの児童書伝記です。

女性が自分で生き方を決めることが難しかった時代に、自分で進むべき道を選び、困難に直面してもあきらめずに考え実行していった女性たちがいました。弱っている人、困っている子どもたちを、けっして見捨てることなく行動していく彼女たちの姿に胸が熱くなります。